4話
よろしくお願いします
小宮市は複数の路線が入り込み、また新幹線も止まる事から観光客も訪れる大都市だ。小学生、中学生が、まず最初に目指す町としても名高い
そんな小宮市に降り立った陽奈は切符を大事そうに握りしめていた。普段はバスでの通学の為、電車に乗る事はあまりない。その為、必要以上に切符の紛失に注意しているのだ
本来であれば電子カードで済むのだが、やはり乗り慣れていないのだろう。陽奈だけがカードを忘れて切符を買ったのだ
「沖女って東口だっけ?」
エスカレーターに乗った健太が振り返る
「そうだよ。それにしても皆で行っても良いの?」
健太に応えた陽平が更に後ろにいる陽奈と絵里に振り向く
「うん、知り合いの人からチケット貰ったから大丈夫だよ」
「そっか、沖女と言えば進学校で女子校だしね。僕らが行って平気なのか、未だに心配で……」
陽平は照れるように後頭部に手を当てる
「その辺りも確認してあるから平気だよ」
「女子校だからってあんまり浮かれるなよ」
と、健太
「あんたじゃないんだから……」
「なんで俺だけ心配されるんだよ!」
「小鳥遊君はあんたみたいに節操ない人じゃないもん」
「このっ……!」
「なによ? 文句があるってことは、健太はチケットいらないって事?」
「卑怯だぞ!」
「ふーんだ。チケット貰ったのは私だもん」
「く……。行きたいです」
健太と陽奈のやり取りを陽平は呆れた様子で眺める
「それにしても、陽奈に沖女の知り合いがいるなんて知らなかったな」
改札にカードをかざしながら絵里が言う
「え!? あ、うん。最近、仲良くなった人なんだ」
「そうなんだ」
「う、うん。そうなの」
思わぬ質問に陽奈はドキドキしながら答えた
校門の前は多くの人で賑わっていた。校内からは、文化祭に興じる生徒達の声が聞こえている。
「な、なんか緊張するよな」
陽奈が受付でチケット四枚を渡していると、背後から健太の声が聞こえてきた
「まあ、周り見ても男性はあんまりいないしね」
それに同意するように陽平が言う
周りを見渡せば男性もいるにはいるのだが、その数は圧倒的に少ない。ましてや男子学生はほぼ見当たらないのだ。否が応でも目立ってしまう
「気にしすぎだよ」
「そうは言っても意識しちまうだろ……」
二人の心配を他所に絵里はまるで気にしていないかのように言う
「受付終わったよ!」
そんな三人に陽奈が駆け寄った
「お、それじゃ行くか。どこから見て回る?」
「まずはチケットをくれた朝比奈さんの知り合いに会いに行くんじゃ?」
「うん、それがいいかもね。どうする? 陽奈ちゃん」
三人は陽奈を一斉に見た
「それじゃあ、葵さんの所に行こっか。三年生のクラスだから…… こっちかな?」
校門付近にあった案内図を思い返しながら、陽奈達は校舎へと向かった
葵の教室はすぐにわかった。というのも、ひとクラスだけ異様なまでの人だかりができていたのだ。何事だろうかと覗き込むと、そこには葵が居た
「あ、葵さん!」
陽奈は人ごみの中から葵に向かって声をかける
「あ、来てくれたのね」
陽奈に気がついた葵が近づいてくる
「あ、はい。それはもちろん。すごい人ですね」
「お陰様でね。あ、そうだ。紹介するね」
そう言うと葵は近くに立つ女子生徒に手を向けた
「こちらは夜桜愛理さんと言って私の後輩なの」
「初めまして。夜桜と申します。」
「あ、初めまして! 朝比奈陽奈です!」
頭を下げる愛理に陽奈は慌てて、頭を下げた。葵も綺麗だが、この夜桜という子もかなり綺麗だったのだ
「あ、私の友達です」
そう言いながら後ろに立つ三人に振り返る
「松田絵里です」
「小鳥遊陽平です。初めまして」
「神崎健太です」
「いつもお話は聞いています」
三人が自己紹介をすると葵がにっこりと微笑んだ。その様子を見ていた陽平と健太は目の前の美しい少女に見惚れていた
「そうだ! せっかくなんだし、案内ついでに一緒にクラスを見て回りましょ」
手を胸の前で合わせた葵が提案する
「え? でも……生徒会に戻らなくてもいいんですか?」
それに答えたのは愛理だった
「本当はダメだけど、少しぐらいはね?」
いたずらっぽく笑う葵に陽平と健太が見惚れていたのを陽奈は見逃さなかった
「なに鼻の下伸ばしてんのよ」
陽奈は肘で健太の腕をつつく
「は!? そんなんじゃねえよ!」
「私でよければ案内させて欲しいのだけれど……」
「葵さんが良ければ是非!」
「ふふふっ。ありがとう。それじゃあ、早速行きましょうか。ラグはお留守番宜しくね」
『仕方ないにゃぁ』
「にゃ~ん」
ラグは葵の腕からスルリと抜け出し地面に降りると教室の奥へと優雅に歩いて行く。それを見届けた葵達も教室を後にした
人は予期せぬ事態に陥ると心を掻きむしられるように焦燥を感じる。頭はまるで動かず、まるで深い霧に包まれて一メートル先も見通せず身動きが取れないようだった
俺の奥の手は無残にも散ったのだ。だが、冷静に考えればそれもそのはずである。なぜならここはホームではなくアウェーなのだ。思い通りにいかなくて当たり前のことなのだという事にいまさら気づいた。もはやそれも後の祭りではある
放心状態の俺の腹をアシュリーが優しく撫で回してくれている。情け故の優しさは余計に傷に染みる。俺の周りにはアシュリー以外はいない。他の女学生達はあのラグとかいう猫の後を追って教室の奥へと姿を消したのだ
「あれ? 愛理達は?」
愛理達の姿が見当たらない事に気がついた。俺の腹を無言で撫でているアシュリーに尋ねる
「さっき皆で出て行ったぞ?」
他の教室に見学にでも行ったのだろうか。俺も暇なので行きたい所だが、さすがにそれはまずいだろう
こんな時にアシュリーの姿が見えていれば、飼い主に連れられて歩く犬と見られるので、自由に出歩けるのだろうが……
そんな事を考えながらぼーっとしていると、教室の奥からラグが姿を現す
辺りを気にするような素振りをした後、軽快な足取りで教室を出て行ってしまった。猫は気まぐれとは言うが、あいつは人の言葉を理解している。他の猫と違い気まぐれの行動ではないのではないだろうか?
怪しい
「なぁ」
その様子が気になった俺はアシュリーに話しかける
「ん?」
アシュリーと見つめ合い言葉が詰まる。ラグが出て行った事を怪しく思うのは、俺はあいつが魔法少女と一緒にいた猫で、尚且つ葵が黄色の乙女だとわかっているからだ。一方、アシュリー達にはその認識はない
ここで、俺が怪しいとか言ったところで同意が得られるとは思えない
かといって、一人で出て行こうものなら止められてしまうだろう。コーギーは中型犬だ。目立たないように行動するのは無理がある
さて、どうしたものか
「猫が一匹出て行っちゃった」
「猫?」
「うん。連れ戻したほうがいいと思うんだよ」
「放っておけばいいんじゃないか?」
「さっきの葵って人のペットだから、そういうわけにもいかないだろう」
「そういうものなのか」
「そういうものなんだよ」
「なら、探しに行くか」
「いや、このまま俺が出て行ったら、出してもらえないと思うんだ」
「ふ~ん?」
アシュリーは納得がいっていないように首を傾げる
「見つからないように出て行きたいんだけど……」
「どうするんだ?」
「えっとね……」
俺とアシュリーは指定の位置に立ち、その時が来るのをじっと待つ
――ガラガラッ
唐突に教室の扉が開く。その瞬間に俺はアシュリーへと視線を向けた。大きく頷いたアシュリーがその手を重なった机にかけた
――ッガシャン!!
バランスを崩した机が誰もいない床に叩きつけられるように落ちる。その音に教室のいる全ての人間の視線が集まった
いまだ
その瞬間に俺は飛び出し廊下を駆け抜けていった
書き溜めていた分はここまでなので、次回投稿は少し間が空きます




