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異世界冒犬譚2  作者: さくら
交差
21/24

2話

よろしくお願いします

 車のドアが開かれると、そこはどこかの学校の校門のようだった。校門には大きな看板が飾り付けられており、訪問者を歓迎していた


「それじゃあ、後で行くからね」


「うん、お父さん。ありがとう」


愛理は手を振り愛理パパの車を見送った。俺はそんな愛理の横で、校門に飾られている大きな看板を眺めている


——低沖祭へようこそ!


ふと看板から視線を落とすと、校門のところには「低沖女子高等学校」と書かれていた。なるほど、つまりはここは女子校で今日は文化祭というわけだ


「行こ! ポテト!」


愛理に声を掛けられ、俺は校門をくぐる。校門のすぐ内側にはテントが張られ、その中では長テーブルが置かれており、数人の生徒と先生が校門をくぐる人達を見ていた。あそこでチケットを見せる必要があるのだろう。俺は愛理と一緒なので顔パスである


女子校に入るのはもちろん生まれて初めてという事もあり、胸の鼓動が高くなるのを感じた俺は、冷静に考える


女子校というフレーズは男からすれば、まさに秘密の花園だ。だが、ネット社会で生きてきた俺にはそれが幻であるという事はわかっていた。女だけの世界がどれだけ末恐ろしい物なのかを・・・


綺麗でお嬢様な女子高生がキャッキャウフフしながら、お姉さま! とか行っている世界ではないのだ。目を覚ませ祐一


だが、その何れもが見た事もない世界なのも事実だ。夢ぐらい見てもいいのではないだろうかという考えもある。確かに現実は違うかもしれない。だが、夢見るのは個人の自由だ。そして夢破れるのもまた個人の責任なのだ。そうやって男は大人になっていく


傷つきたくないという理由で目を逸らしていては、いつまで経っても漢になれないのだ


校門をくぐり、幾つかの校舎が見えてくる。周りは愛理と同じ制服に身を包んだ女子生徒ばかりだ。もちろん男子生徒なぞ存在しない。必然と歩くスピードが上がってしまう。なんだろうこの高揚感は


「夜桜先輩!」


先輩。なんという素晴らしい響きだろうか。もちろん俺もかつては後輩にそう呼ばれた時期があった。だが、違う、違うのだ。女性同士の先輩後輩はなんかこう……あるでしょ?


愛理が振り返るよりも早く、俺は声のする方向を振り返った。


そこには体を寄せあうように立つ三人の女子高生がいた。いや、女子高生ではない。女学生だ。なんという事だ。きゃっきゃうふふしちゃいそうな可愛らしい女学生がモジモジしながら愛理に声をかけてくる。お姉さまなのか? 愛理はお姉さまって呼ばれてるのか!?



「夜桜先輩の飼い犬ですか?」


「ええ、つい最近、飼い始めたの」


「触っても良いですか……?」


「ええ、もちろんよ。噛まないと思うけれど……」


そう言いながら愛理はしゃがみこみ俺の首に手を回した。それを見た女学生三人もしゃがみこみ、俺の頭を撫でる


四人の女学生に囲まれ体を(まさぐ)られる。それもそれで素晴らしいのだが、俺の目の前にはとてつもない絶景が広がっていた


その絶対領域は突如として俺の目に飛び込んでくる。前後左右の全てが禁断の聖域なのだ。逃げ場がないとはこの事だ。逃げ場がないのであれば仕方ない。俺も男だ


「スケベな犬だな」


唐突で辛辣(しんらつ)な言葉にドキリとし飛び跳ねそうになる。ふと顔を上げるとアシュリーが冷ややかな目でこちらを見ていた


(いやいやいや……しょうがないだろ。見たくて見てるわけじゃ……)


「ふーん」


くそ。人目を(はばか)らず、後ろめたい思いを抱く事なく絶景を堪能できると思ったが、アシュリーの存在を忘れていた。誰かに見られているという思いから、一気に罪悪感を抱いた俺は顔を伏せた


そんな俺の想いを他所に愛理とその後輩達は黄色い声を上げながら俺の体を撫でていた。ちょっと顔をあげれば、そこには乙女の花園が広がっているというのに……生殺しとはこの事か


「柊先輩のクラスに連れていくんですか?」


「ええ、せっかくなので連れて行こうかと」


「柊先輩のクラス……? なにかやってるの?」


「ペットカフェやってるみたいだよ」


「え!? うそ!! 行きたい!!」


なるほど、どうやらペットカフェをやっているクラスがあるようで、そこに連れて行かれるらしい


「良ければあなた達も来てね」


「はい! 行きます!」


女学生と別れた後、愛理は複数ある校舎の一つへと入っていく。リードに繋がれた俺ももちろん一緒に入る


「夜桜さん」


愛理が靴を履き替えている様子を眺めていると、女性が話しかけてきた


「あ、先生。おはようございます」


どうやら、先生のようだ


「そちらは夜桜さんのペット?」


「あ、はい。柊先輩のクラスに連れて行こうかと……」


「ええ、届け出があったから知っているわ。可愛らしいペットね」


女教師は俺へと近づき頭を撫でる


「まだ柊さんのクラスは準備中でしょ? それまでは教室に連れて行ってもいいわよ」


「え? いいんですか?」


「ええ、ただし、おしっことかの後始末はちゃんとしてね」


「はい、それはもちろんです」


失礼な。大多数の女性に見られながら用を足す趣味はない。今朝の愛理パパとの散歩で既に準備は万端だ


「夜桜さんも準備頑張ってね」


「はい、ありがとうございます」





 その後、愛理のクラスへと連れて行かれた俺はそこでも人気の的だった。廊下ですれ違う人は興味の目で俺に視線を送り、教室へと到着すれば、クラスメート達が黄色い声と共に飛んでくる。もはやアイドル扱いだ


最初こそむず痒い感覚だったのだが、慣れるとこれが心地よくてたまらない。これほどまでに犬で良かったと思った日はないぐらいだ


HRを愛理の席で過ごすと、その後は別の校舎へと連れて行かれた。どうやら柊先輩なる人のクラスらしく。そこがペットカフェらしい。既に数匹の猫がいるようだった


というのも、ペットを持ち運ぶバッグが幾つか見えており、鳴き声は聞こえるのだが、猫そのものは見えないのだ。まあ、犬と違って猫は逃げ出すという可能性もあるので、安易に出すことができないのだろう


教室の一角には机を重ねて作った壁らしきものがあるので、あの向こう側で猫を放っているのかもしれない


「夜桜さん!」


教室に入ると一人の女学生が声をかけてきた


「あ、先輩。お疲れ様です」


「ごめんなさい。葵は生徒会室にいると思うわ」


「はい、私も今から行こうと思っていました。その前にこの子を預けようと……」


二人の視線が俺に注がれる


「かわいー! コーギーだよね?」


「あ、はい」


「こんにちわ! え……と」


「ポテトっていいます」


「男の子?」


「はい」


「そっか、ポテト君か」


「お願いしても良いでしょうか?」


「うん! 責任持ってお預かりするね!」


「なにかあればすぐに言ってください」


「大丈夫だよ〜。みんな動物好きだし。噛みグセとかないよね?」


「はい、大人しくて頭の良い子なので……って、親バカみたいですね」


「あはは! ペット飼ってる人はみんなそうだよ」


「それじゃあ、すいませんがよろしくお願いします」


「うん、生徒会のお仕事頑張ってね!」


リードを手渡された女子学生と一緒に愛理を見送る。俺はここでお留守番というわけだ


それがなにを意味するかは俺が一番よくわかっている。つまりは俺の一挙手一投足が愛理の評価へと繋がるのは想像に容易い


ましてや俺は人の言葉がわかる。もはやこの勝負とったも同然だ。後はやりすぎだけに注意と言ったところか


見たところ相手は猫だけと見た。猫といえば自由気ままで言う事を聞かない動物として名高い。たぶん。


そんな猫ごときに遅れをとってたまるか。人と、いや愛理と共に歩むパートナーとしてふさわしいのがどちらなのかを教えてやる



「なんだ? 愛理はどこかに行ってしまったようだが……?」


アシュリーが首を傾げる。生徒会に行ったと言おうとしてやめた


文化祭は元より、学校というものを知らないアシュリーに説明するのは骨が折れそうだ……



「ここで勉学に励むのか」


アシュリーは教室の至る所を食い入るように眺めている。「この黒い板はなんだ?」


(黒板だよ。そこで勉強を教える人が文字や図を書いて説明するんだ)


「ほー。これで書くのか?」


アシュリーが興味深そうにチョークを持った


(ちょ!? おい!!!)


「うん?」


アシュリーがなんだ? とばかりにこちらを見る。この教室には数人の生徒が作業をしている。その大半が飾り付けなどに夢中ではあったが、一人の生徒がその光景を見ていたのだ


一般の人にはアシュリーの姿は見えていない。だが、アシュリーは物に触れることが出来るし、持つこともできる。そんなアシュリーが人前で物を持つということは、一般の人からすれば勝手に物が浮いたように見えるのだ


「……え?」


見てはいけない物を見てしまったように生徒はキョトンとした顔と声でその一部始終を見ている。そして……


「きゃぁぁぁぁっ!!!!」

教室に甲高い叫び声が響き渡る


(それを離せ! 早く!!)


「お、おう? 離すぞ?」


チョークが床に落ち、カツンという音と共に折れる


「え? どうしたの!?」


作業に夢中になっていた他の生徒も何事だと顔を上げた


「チョ、チョ、チョークが……浮いて……」


青褪めた顔で黒板を指差す生徒を他の生徒が怪訝な顔で見つめる


「本当なんだってば!!!」


「ちょっと〜、怖がらせようとしたって無駄だって。風とか……たまたま落ちたんでしょ?」


「違うよ! 本当にさっき、ふわって浮いて……本当だってば!!」


目撃していたのが一人だったのが幸いした。これがもし複数の生徒が目撃していたとすれば、この不思議な現象に現実味が帯び、大騒ぎになっていたところだ


数人の生徒が顔を青褪めさせている生徒に近寄り、なにやら声をかけている。大方、落ち着くように宥めているのだろう


(アシュリーぃ……)


「わ、悪かった。つい……」


(人がいる前でむやみに物に触るなっていったろーが)


以前から注意はしていたのだが、どういう事態に陥るかを理解していないアシュリーは油断していたのだろう


「す、すまん……」


(うろちょろしてないで、俺の傍にいろって)


「うん……」


当初は理解できていなかったアシュリーも教室内が騒然となった為、自分がやってはいけない事をしたという事が理解できたのだろう。さらには俺から叱られたという事もあり、すっかりしょげかえって俺の傍へとやってくる


怒られてしょげかえってるアシュリーはこれはこれで可愛いな


ちょっと可哀想な気もするが、大事になる前に、こういった小事の時点できつめに言っておいたほうがいいのだ。決して嗜虐心(しぎゃくしん)からしている行動ではない。その証拠に後々、ちゃんとフォローしてやるつもりでいる


でも、せっかくだからもうちょっと、この様子を楽しんでおこう

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