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異世界冒犬譚2  作者: さくら
視点
17/24

8話

よろしくお願いします

 まさか横から不意打ちを受けるなどとは夢にも思っていなかったのだろう。俺の襲撃に魔法少女と猫は取り乱していた


『こいつはなんにゃ!?』


「ラグ!」


こいつも「にゃ」とか言うのか。その喋りを今すぐやめろ。イラっとするわ


『こいつはまかせるにゃ! 黄色の乙女は奴を倒すにゃ!!』


(にゃって言うな!!!)


俺は猫に飛びかかる。だが、俺の牙が猫を捉えることはない。わかりきっていたことだが、猫と犬とでは身体能力に差がありすぎるのだ


走る速さではおそらく同等だろう。だが、奴は俺の攻撃を避ける為に飛んだ(・・・)のだ。前後左右だけではなく、上下の動き。これは俺のような犬では真似できない


相手がラグドールと言う種類の猫だと言うことは、すぐにわかった。以前、ペットが欲しくて猫の種類を色々調べたのだ。賃貸住まいで犬は無理だと言う理由だ


ふわふわした毛並みは優美さを際立たせ、更に青い瞳が異国情緒を感じさせる猫だ。一時期はラグドールが欲しいと思ったりもした


だがそれも、もはや過去形だ。なんだあの澄ました顔は。ちょっと毛並みが良いからって気取りやがって。それにあの目だ。青い瞳ってなんだ。上から目線か。くそ


だが、身体能力に差がある以上、俺に勝ち目はない——あくまで俺には(・・・)だが。


そう、今の俺にはもう一つの力がある。奴らには見えていないアシュリーだ


俺が威嚇をし、敵の意識をこちらに向けている最中、アシュリーはゆっくりと猫の隣へと移動する


——勝負あった


奴は無防備だ。まさか自分の隣に敵がいるとは夢にも思うまい……ちょっと上に飛べるからって調子に乗りすぎたな。愚か者め。さあ、やっておしまい! アシュリーさん!!


「なあ、こいつを殴るのか? ちょっとかわいそうじゃないか?」


(はい!?)


思わず吹き出しそうになる。次の瞬間、何かを察した猫が飛び跳ねるように後方へと逃げ出した


『……あ、あぶにゃい……なにかいるにゃ??』


ち、気づきやがったか。感のいい奴だ


(アシュリー、心を鬼にするんだ。次は仕留めよう)


どこか納得していない様子のアシュリーだが、ここはなんとしてもやってもらわないと困る


俺は猫の周りを円を描くように歩き、意識をこちらに集中させる。先ほどの件もあり、奴はこちらを警戒しているはずだ。このまま、こちらに意識を向けさせ、そして背後からアシュリーがトドメを刺す


若干、卑怯な気もするが、これは勝負。生きるか死ぬかの戦いなのだ。悪く思うなよ


あれ? これって俺が悪者なパターンじゃね?


だが、そんな俺の思いとは裏腹に奴は行動を起こした。そう、俺に向かって走り出したのだ


(なっ!?)


その速さは風そのものだった。犬である俺も、もちろん足には自信があった。だが奴の足は俺のそれとは違う性質のものだった


瞬発力を生かしたスタートダッシュ。最高速度では俺には劣るものの、そのスタートダッシュには目を見張る


奴は一気に俺との間合いを詰め、そして目の前に来る。俺は突然の行動に体が固まってしまった。そして……


——猫パンチ!!!


(いってぇええええ!!!)

「キャインッ!!!」


ガリっという音と共に俺の鼻先が熱くなる。俺は身をくねらせ倒れ込み、鼻先を手で押さえる——押さえられなかった。くそ! これだから短足は!


「きゃぁぁ!!」


短い悲鳴が聞こえる。愛理が黄色の乙女に敗れたのだ。なんという失態


「ラグ! 大丈夫!?」


黄色の乙女が猫の脇に立つ。愛理が敗れた今、二対一だ。この展開はまずい


『にげるにゃ……』


「え?」


『はやくするにゃ!』


「え? でも……?」


『さっさとするにゃ!!』


「う、うん!」


有利な状況にも関わらず、黄色の乙女と猫はその場を立ち去ってしまった


はて、何が起きたのだろうかと呆気に取られてしまう


「大丈夫か?」


気がつけばアシュリーが俺の顔を覗き込むように膝をつき見つめていた。どこか、笑いを堪えてる気がしないでもない


確かに鼻先を引っ掻かれただけで、大袈裟に倒れすぎたこともない事もない。でも、こう言うちょっとの傷のほうが痛かったりするのだ


(大丈夫じゃない……あのクソ猫、思いっきり引っ掻きやがった)


「まあ、すぐ治るだろう。あっちは大丈夫か?」


そう言うと、アシュリーは立ち上がり、愛理がいるであろう方向を見る。そうだ、愛理がどうなったのかが問題だ。俺も立ち上がると愛理がいたであろう方向へと駆け出した


(愛理!)


地面に仰向けで倒れこんでいる愛理に近づく


「気を失っているようだな」


(そっか、あいつらが逃げ出してくれたおかげで助かったな)


「そうも言ってられんぞ」


(え?)


アシュリーがある方向を見ていたので、俺も釣られてそちらを見る。そこには何やら前回見た部隊っぽい奴らがこちらへと向かっているのが見えた


(この前の仲間か?)


「いや、違うようだ」


(え? もしかして敵?)


だとすればまずい。愛理が気を失っているここに来られたら、愛理は捕まってしまう


(とりあえず愛理を隠そう!)


そう言い、俺は愛理の服に噛みつきなんとか引きずろうとする


「あっちに隠そう」


アシュリーに手伝ってもらい、何とか近くの草むらへと隠す。姿が見えなくなったところで黒づくめの集団が近づいてきた


「ここか」


「よし、回収を急げ」


「うお。なんだこいつ? 初めて見るぞ?」


「おい! こいつすごいニャーゴだぞ」


黒づくめの集団は打ち倒されたゴーレム達の周りで何やら話しながら作業をしている


(あれは、何やってるんだ?)


「魔素を回収しているのか? あの変な箱にどんどん吸い込まれていくぞ」


そんなことができるものなのか。俺とアシュリーはその集団の行動をじっと見つめていた









 葵は先ほどの運動公園からだいぶ離れた人気のない場所へと到着すると、変身を解く。本来であれば、もう少し駅の方へ行きたい所だが、変身を解く姿を見られては大問題だ


「ふぅ、私もまだまだね」


思わぬ敵の襲撃と、見たことのないタイプの敵に戸惑ってしまった


「ラグもお疲れ様」


パートナーであるラグに葵は労いの言葉をかける。だが、ラグは顔を伏せ、どこか物憂げな表情だった


「ラグ? どうしたの?」


『葵は気づかなかったのかにゃ?』


「え?」


突然の質問に何の事だろうかと首を傾げる


『あの場にとてつもない力を持った何かがいたにゃ』


「何か? あの突然飛び出してきた犬のこと?」


『ちがうにゃ!! あいつじゃない、もっと違うなにかにゃ』


「それで逃げろって言ったのね」


ラグの剣幕に葵もただならぬ事が起きてたのだと理解する


『そうにゃ』


「敵かしら?」


『たぶん、そうにゃ。突然、気配を感じたにゃ』


「得体の知れない敵……報告したほうが良さそうね」


見た事のないタイプの敵、今までになかった敵の増援、そして得体の知れない強大な力を持つ何か。闘いが熾烈を極めていく様を葵は感じ取っていた

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