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異世界冒犬譚2  作者: さくら
視点
15/24

6話

よろしくお願いします

 研究室での騒動から一転し、俺は愛理に抱きかかえられて司令室のような場所へと連れてこられた。壁には大きなモニターがあり、それを見るように数人のオペレーターらしき人が作業をしている


俺が入室すると視線が一斉にこちらへと移るのがわかった


そりゃ、こんなところに犬がいれば、なんだ? と疑問に思うのは無理のないことだ


部屋に入ると、愛理は部屋の隅にある椅子に座り、俺を膝に抱えて先ほどからずっと俺の体を撫でてくれている


アシュリーはというと、興味という名のメーターが振り切ったのだろうか。目の前にある文明の集合体に理解が追いつかないのか。口をポカンと開けたまま立ち尽くしている


ここに来る途中で気づいたが、愛理ママもいた。愛理ママは強面のおっさんと何やら話し込んでいるようだった。その顔は真剣そのものだ


ここで、俺は先ほどの研究室の件について、とある事に気づいてしまった。突然、連れて行かれた研究室で身の危険を感じた俺は、アシュリーに頼んで機材を壊して外に出た


よくよく考えればそれは軽率だったのではないだろうか?


きっと、ああいう機材はすごい高いはずだ。よく漫画とかニュースとかで、とある大学の研究室でうん億円もする機材を導入したとか見た事がある


それに、かつて小学校の時に壁やスクリーンに映し出すプロジェクターを落として壊してしまった事がある。あの時は先生にこっぴどく怒られた


後から聞いた話ではあのプロジェクターで10万円もするものだそうだ。弁償とまではいかなかったが。


さて、先ほどの研究室にあった機材を思い出してみよう。大がかりなポッド、見慣れない機材。明らかに高価だ


それを壊したとなると、果たしてごめんなさいで済むものなのだろうか?


俺は犬だ。返済能力がないのは見てわかるだろう。と、なると責任は飼い主に移るのではないだろうか?


そこまで考えて、俺は顔を青褪めさせる


うん千万、下手したらうん億もする機材の弁償が発生するのではないか?


愛理の家は一般的に見ると裕福な家なのは俺でもわかる。広い間取りの家に広い庭。家を取り囲むように作られた塀も小綺麗でお金がかかっている事だろう


とはいえ、いきなりうん億円なんて払えるわけがない


俺の不始末のせいで多額の借金を背負い一家離散。自分の軽率な行動を思い返し鼓動が速くなっていった






 「あの犬は一体何者なんだ?」


所長は愛理の母親に顔を近づけ小声で聞いた


「何者と言われても、我が家のペットとしか……」


愛理の母は困ったような顔で所長を見る


「あんな事ができる犬なんぞ聞いた事がない。大丈夫なのか?」


先ほど研究室で見せたポテトの行動は普通では考えられない出来事だ。所長が警戒するのも無理のない事だろう


「愛理に懐いているようですし、愛理もポテト、あの犬の名前です。ポテトになにかあれば任務に支障がでるかもしれません」


「いや、我々もあの犬、ポテト君か。君の家族に何かをするつもりはない。だが、明らかにあの犬が他の犬とは違うのも事実だ」


普通とは違う犬。敵のスパイという事も考えられる


「はい、それは私にもわかります」


「大丈夫か?」


「まずは様子見とさせてください。なにかあればすぐに報告します」


「わかった。君たちの家族になにかあれば皆が悲しむ。くれぐれも用心してくれよ」


「はい」


そう言うと所長は愛理とその膝で寛ぐ犬を見る。すると犬はこちらをじっと見据えていた


まるで全てを理解しているかのような、真っ直ぐな瞳を見た所長は背筋が凍りつくような感覚を覚えた






 多額の借金の宣告は特に告げられる事なく、俺達は帰路へと着く事になった。だが、安心するにはまだ早い。俺の前でそう言った話をしていないだけで、裏では既に宣告されている可能性があるのだ


「ただいまー」


「おかえりー」


愛理と愛理ママが玄関を開けるとリビングから愛理パパの声が聞こえた。そのまま俺は愛理の部屋へと運ばれて、愛理はリビングへと行ってしまった


「さっきから元気がないな。どうかしたのか?」


俺が浮かない顔しているのが気になったのか、アシュリーが声をかけてくる


(いや、アシュリーに助けてもらった時に機械壊しちゃっただろ?)


「キカイ? ああ、あの変な作り物のことか?」


(うん、あれって実は高いものでさ、愛理達が弁償させられてたらどうしようと思って)


「ふむ、とはいえ、あの状況ではどうしようもなかったしな。まぁ、よくわからんが大丈夫なんじゃないか?」


こいつ、多分なにもわかっていないな。とはいえ、こちらを気にかけてくれているのはわかる。俺一人悩んだところで仕方ないのも事実だ。そう言い聞かせて考えるのを辞めた


(とはいえ、なんかバタバタだったな)


俺は愛理の部屋の時計を見る。既に針は22時を回っていた


「そうだな。愛理は何者だ? 明らかに他の一般人とは違うようだが……それにあの施設はなんだったんだ?」


(正直、俺にもわからん。ああいう秘密基地的なのは初めて見るし)


「お前の飼い主がどこぞの組織に属しているのは事実だろう。それがなんなのかが問題だな。あとはあの戦っていた赤い服の女が何者なのか……」


(ぱっと見、愛理が悪役であっちが正義の味方っぽい感じではあったがな)


「そうなのか? なんでわかるんだ?」


なんでと言われても困る。いわゆるヒーロー物や月に変わっておしおきする系を見てきた俺からすればそう感じたとしか言いようがない


(な、なんとなく?)


アシュリーからの冷たい視線が俺に突き刺さる


(とりあえず、情報収集したいところだな)


「直接、愛理に聞いてしまえばいいんじゃないか?」


(え!?)


「言葉は通じなくても、なんかこう、物に書くとかすれば伝わるだろう」


(でも、俺はペンなんか持てないぞ?)


そう言い、右足を上げてアシュリーに見せる。手というよりは肉球を見せる格好になった


「それもそうか。俺が書いてやろうか?」


(あー、それでもいいか? いやいやいや、ちょっと待て。いきなり自分の部屋に誰が書いたかもわからない手紙があったらビビるだろう)


「お前の名前を書いておけばいいじゃないか」


(どこの世界に文字を書く犬がいるんだよ!)


アシュリーは真顔で俺を指差す


(いや、そうじゃなくて! 普通の犬は文字なんか書かないし理解もしてないから!)


「やってみないとわからんだろう」


(やらなくてもわかるわ! 気持ち悪がられて捨てられるわ!)


「う〜ん、いちいち細かい奴だな。じゃあ、どうする?」


(この世界の情勢とかそういうのがわかれば……外に出てもしょうがないしな)


犬が一匹うろついて居ても保健所に通報されるだけだ。こんな時に犬ではなく、猫とかなら情報収集しやすいんだろうなと、今更ながら考える


「歴史書的な何かか?」


(あ……)


「うん?」


(新聞だ!)


「なんだそれは?」


(ニュースとかが書いてある紙だよ)


「ニュース?」


(あー、周辺地域の事件とか、政治とか経済とかの出来事とかを毎日書いてる紙)


「毎日!?」


(そう、毎日)


「日記みたいなものか?」


(いや、それとはちょっと違うけど。まあ、とりあえず新聞見ればこの世界のことが少しはわかるかも?)


「ほう、それはどこにあるんだ?」


(この家とかにもあると思うけど。どうだろう?)


最近では、新聞をとらない家も多いと聞く。あくまでも俺が居た世界の話なのだが。


「持ってきてやろうか?」


(ああ、ただ、今はまずいな。明日とか昼に誰も居なくなってからやろう)


「見られると困るのか面倒だな。とすれば、今は特にやることはないか。なら、寝るとするか」


アシュリーは背伸びをすると、おもむろに横になる。しばらくするとふわふわと浮き上がり天井の辺りに行ってしまう


(器用だな……)


その様を見ながら独り言をつぶやくと、俺もぐいっと伸びをし、用意された寝床へと入り丸まった




 どこの家庭でも朝というのは慌ただしいもんなんだなと、一人ソファで寛ぎながらその光景を眺めていた


愛理家では両親が共働きで三人が似たような時間に外出する。その中でも一番早いのが愛理だ。やはり学生の朝は早いのだろう


愛理が登校すると、家の中は少し落ち着きを取り戻す。この後、愛理ママが出勤する三十分程度の間だけなのだが。


愛理ママが出勤すると、今度は愛理パパが慌ただしく動き出す。最後に出勤する愛理パパは戸締りやら、俺を愛理の部屋に連れて行ったりと、忙しい


部屋に連れ戻されてから数分すると、がちゃりと施錠する音が聞こえた。その音を最後にこの家は静寂に包まれるのだ


この静寂の中、ペットは夕方まで一人で過ごすと考えると、中々恐ろしいものがある。その点、俺にはアシュリーがいるから寂しくはないのだが。


「全員、外出したようだな」


天井付近で浮きながら寝そべっていたアシュリーがふわりと降りてきて言う


(ああ、もう少ししたらやるか)


考えすぎかもしれないが、忘れ物をしたとかでいきなり戻られたら気まずい。十分ほど経ってからアシュリーに目配せをする


静まりきった家の中をアシュリーに抱かれたまま、リビングへと移動する。リビングを開けると先ほどまで人が居たであろう痕跡が残っていた


新聞を取っていないのではという懸念はリビングに足を踏み入れた瞬間に払拭された


テーブルの上には愛理パパが見たであろう、折り畳まれた新聞紙が置かれていたのだ


(お、新聞だ)


「どれだ?」


(それ)


「これか?」


(そうそう)


アシュリーに降ろしてもらい、床の上に新聞を広げてもらう


「これはすごいな。相当、字がうまい人間が書いているのか?」


アシュリーは印刷という存在を知らないらしい。そりゃそうか。説明は後回しにして、新聞へと目を移す


——○○党議員 辞任表明


——月曜ドラマ 最低視聴率更新


——○○ 電撃引退!!


目につく内容はどれもいたって普通の内容だった。正直、名前はまったくわからないが。


そんな中で、ふと気になる記事が目に止まる。小さい記事で危うく読み飛ばすほどの記事だった


——MG5防衛率低下 人手不足深刻化か


MG5ってなんだ、マジで恋するのか? などと、考えながら記事に目を通す


——MG5はこの度、上半期の活動報告を発表した。秘密結社の動きは日々活発になり、襲撃場所も都内から地方へと移動している。そういった背景もあり防衛が後手にまわっているという現実が露呈した格好だ。新たな魔法少女も加入したということで、より一層の活躍が求められる


魔法少女……え? なにそれ?


思わぬキーワードに記事を二度見してしまった。エイプリルフールの面白記事の一つかと思ったが、そういった記事ではないようだ


(魔法少女って、漫画じゃないんだから……)


「なにかわかったのか?」


(この記事なんだけどさ)


俺は見ている記事を鼻先で示す


「うん? どれだ?」


アシュリーがグイッと顔を寄せ、記事を覗き込んだ。顔が触れる程の近さに思わずドキリとしてしまうが、ここで騒いだところで変な目で見られるだけかもしれない


「これがどうかしたのか?」


(魔法少女って言葉が書いてあるだろ?)


「ああ、あるな」


(俺の世界では魔法少女は子供向けの本とかに出てくるだけで、こんな新聞には載ったりはしない)


「ふむ?」


(この世界では魔法少女がいるって考えるのが適当かもな)


「それはどんな少女なんだ?」


(う〜んと、いわゆる魔法を使う少女なんだけど)


言ってて、何の説明にもなっていないと気づく


(あ!)


そこで先日の戦いをふと思い出す


「どうした?」


(あの時、愛理が戦ってたのが魔法少女なんじゃね?)


ひらひらのスカートと言い、魔法少女というイメージぴったりだったのだ


「なるほど? 俺にはよくわからんが」


(って、ことは、愛理は秘密結社側の人間ってことか)


つまり悪役であるということだ


「なにか問題があるのか?」


(悪役ってことは、戦う理由としては地球征服とかさ、そういうのじゃん?)


「悪いやつだからな。人類滅亡とかか?」


(うん、だとしたら、止めないとまずいよな)


「そうか? まあ、止めるにしても加担するにしても、俺はどっちでもいいが。どうするんだ?」


どっちでもいいってなんだ。他の世界のことはあまり気にならないのか?


(となると、昨日のあの場所は悪の秘密基地ってことか? そうは見えなかったけどなぁ)


先日、連れて行かれた施設はたしかに変な事をされそうにはなったが、それ以外は決して、悪を連想するようなほどの事でもなかった


(う〜ん、よくわからないな)


この世界に魔法少女と悪の秘密結社があるのは事実のようだ。だが、愛理がそうだとは限らない。あくまでも先日に見た時の俺の想像でしかないのだ


結局は愛理たちの口から本当の事を聞くしかない。結局は謎が増えただけの偵察になってしまった。ひとまず、新聞を戻してもらい、アシュリーに抱えられて再び俺は愛理の部屋へと戻った

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