4話
よろしくお願いします
無機質な通路と部屋。黒ずくめの集団に連れてこられた場所はどこかの病院、もしくは研究所と言ったような雰囲気の所だった
ここがどこなのかは全くわからない。というのも、突然、視界が切り替わったと思ったらここにいたのだ。テレポートみたいなものだろうか? もはや何でもありだなと、とりあえず納得するようにした
突然、場所を移動したものだから、アシュリーを置いてきてしまったのではないかと焦ったが、無事に一緒に来れていたようだ
愛理が運び込まれる間、案の定、周りの物が気になるらしく騒いでいたが、残念ながら今は構っている余裕はない
黒ずくめの集団は病室のような部屋に愛理を運び込み、女医みたいな人と話すと、俺を連れて別の部屋へと入った
どうやら休憩所? みたいな場所のようで、そこで俺を下ろすと服を脱ぎ、思い思いに寛いでいた
「報告はしたのか?」
「ああ、今行ってるだろ」
「この犬のことは?」
「それも報告するだろ。それより給料入ったし、今日は飲みいくか?」
「お、いいね。この前の店か?」
「新しい店も開拓したいけどなぁ。やっぱりいつものところになっちまうよな」
「あそこうまいしな。この前行ったら可愛い子がバイトしてたぜ?」
「まじで?」
他愛のない話が続く中、俺はどうしたものか思案する。勝手に出ていくわけにはいかないのだ。檻に入れられるかと思ったら、その場に降ろされたので自由なのだが、ここで余計な行動をして、やっぱり檻にいれようとか言われたらそれはそれで面倒だ
かと言って、ここでボーッと待ってるのもどうかとも思う
——ッガチャ
扉が開き、数人の男が入ってくる
「この犬か?」
「はい」
「なるほど」
白衣を着た男と、先ほどの黒ずくめの男が俺を指差す
「よし、連れてきてくれ」
「え? あ、はあ」
白衣の男が指示を出す。黒ずくめの男は戸惑いながらも俺を抱えると部屋を後にした
連れてこられたのはなにやら大げさな装置があちこちにある研究室のような場所だった。部屋は奥と手前に分かれており、奥の部屋にはカプセルが2台ほど設置されている
手前の部屋はそれを操作するモニター等があり、二つの部屋はガラスで仕切られていた
「おい、準備をしてくれ」
白衣の男が仲間に伝える。モニタを見ながら座っていた男が振り返るが、どうやら理解できていないようで、首を傾げていた
「あの実験をやる」
「は!? 何言ってるんだ?」
「いいから! 早くしろ!」
「おい! 何言ってるんだ! あれは禁止されてるだろう」
「そんなことはわかってる! だが、人手不足を解消するにはこうするしかないだろう!?」
「バレたらどうなるかわかってるのか!?」
「成功すればバレたってなんということはないさ。むしろ俺たちの研究の正当性を認めてくれる」
「いや、それは……」
「嫌なら俺一人でやる」
吐き捨てるように白衣の男が言うと、モニターの前へと歩き出す
「その犬を奥のポッドに入れてくれ」
「は、はあ」
事態を理解していない黒ずくめの男は言われるがままに俺を奥の部屋へと連れていく
あれ? これ俺がやばいんじゃないだろうか?
(おい! 離せ! アシュリー!)
「ワンッワンッ!!!」
身の危険を感じた俺は逃げ出そうと身をくねらせながらアシュリーを呼ぶ。だが、先ほどまでいたアシュリーはその場には居なかった
(アシュリー! くそ! どこ行ったんだ!!)
「うお!? おい! こら! 暴れるな!」
暴れる俺を押さえ込みながら、男は俺をポッドに投げ込んだ
(おい! 出せ!)
「グルルルルゥ……」
『よし、閉めるぞ。そこまででいい。後はこちらでやる』
マイク越しに白衣の男の声が聞こえる。それを聞いた黒ずくめの男は心配そうな目で俺を見ると、足早に立ち去った
『おい! やめろ!』
『うるさい!』
マイク越しに言い争う声が聞こえる。仲間割れか? なんでもいいから出して欲しい
ポッドの中からも外のモーター音が聞こえる。機械づくしのこの部屋はなにか不気味だった
『これが成功すれば、きっと組織も俺を認めるはずだ』
白衣の男が何かをつぶやいている。そして、モーター音がさらに大きくなっていった
目を覚ますと、剥き出しの蛍光灯が目に入ってくる。先ほどまでいた工場跡地でないことはすぐにわかった。愛理は痛む身体を起こし、現状を理解しようとしていた
「あの時、後ろに引っ張られて……それで……」
ポテトがいたような気がした。だが、それはあり得ない。ポテトは家で私の帰りを待っているはずなのだ
「気がついた?」
ガチャリと音がし、扉が開かれると、衛生班の先生が入ってくる
「あ……先生。すいません」
立ち上がりお礼を言おうとするが、まだ身体が痛む
「ああ、立ち上がらないで、ゆっくりしなさい」
「すいません……」
「いいのよ。あなたに無理をさせているのは誰もが理解しているわ」
「私がもっと強ければ……」
「自分を責めるのはよしなさい。あなたは良くやっているわ。増援は受理されなかったみたいね・・」
「はい……」
「新たな魔法少女も現れたんですって?」
「はい……」
「そう……厳しくなるわね」
「でも、大丈夫です! 私がもっと強くなって、きっと地球を取り戻します!」
「無理はしないでね・・?」
女医と話をしていると、バタンという大きな音と共に扉が開けられる
「愛理! 大丈夫!?」
「お母さん!」
母が血相を変えて飛び込んできた
「あなたが運び込まれたと聞いて……」
「心配かけさせてごめんなさい。でも私は大丈夫だから」
「そう、よかった」
母が、ほっと一安心すると、今度は別の人物が扉を開けた
「お? 気がつきました?」
回収班のメンバーの一人だった
「あ、回収してくれた方ですよね? ありがとうございました」
回収班はいつもこうして愛理達を回収してくれる。そのおかげで敵に捕まることなく戦えているのだ
「ああ、いいって。そんなことより、あんたを回収する時に一緒にいた犬なんだけどさ」
突然の言葉に愛理はキョトンとする。犬とはなんのことだろうか
「あのコーギーって飼い犬だよね? 首輪してたから一応回収しといたんだけど」
「ポテト!?」
まさかと思いつつも愛理は立ち上がる。あの時、朧げにだが見えた犬はポテトだったのだろうか?
「どこにいるんですか!?」
そうだとしたらなぜあんなところにいたのか、そしてあの時助けてくれたのはポテトなのか? その疑問と不安に愛理は取り乱す
「あ、ああ。回収班の休憩室で保護してるよ」
その言葉が終わるより早く愛理は部屋を飛び出した
「ポテト!!」
扉を吹き飛ばすような勢いで休憩室の扉を開く。突然の出来事に中で休んでいた回収班のメンバーの動きが止まる
「あ、あの、ポテト……犬がいると聞いて」
「ああ、あの犬なら研究班のメンバーが連れて行ったぜ?」
「え?」
この施設には様々な部隊がいる。回収班、実行班、衛生班などは愛理もよく知っている。研究班は愛理達、活動メンバーの装備や便利な道具を研究している班だが、実際にあって話をしたことはない。なぜ、そんな人達がポテトをつれていくのだろうか?
「よくわからないけど、研究室に行けばいるんじゃないかな?」
「ありがとうございます!」
回収班の面々にお礼を言い、研究室へと走り出す
「あ、愛理!」
部屋を飛び出すと母が私の後を追って走ってきた。その後ろには女医と、年配の男もいた。その顔は愛理もよく知っている顔で、愛理が属している秘密結社の所長。つまりトップの男だった
男は外見こそ強面だが、とても優しい人だ。愛理も子供の頃から知っており、良く遊んでもらっていた
本来であれば、立ち止まり挨拶をしなければいけないのだが、今はそれどころではないのだ。愛理は母達を横目に見ながらも通路を走った
「ポテト!!」
研究室の扉を開けると、数人の白衣の男が驚いた顔でこちらを見る
「ここにポテト……犬がいませんか!?」
息切れしながらも白衣の男に問いかける。すると白衣の男は無言で奥の部屋を指差した
一瞬、疑問に思いながらも愛理はガラスへと近づいた。そこにはポッドの中に入れられたポテトがこちらを見ていた
「ポテト!? 何をしているんですか!?」
明らかに異様な光景に愛理は語気を強めて周りの白衣の男達を問い詰める
「お、俺たちじゃない! そいつが……」
そう言い指差したのはモニターを見ている男だった
「今すぐ、ポテトを出してください!」
愛理は掴みかかるような勢いで白衣の男に詰め寄る
「出す? 何を馬鹿な! これから世紀の大発明が実現されるんだぞ!?」
「な、なにを……」
「お前達は何もわかっていない! 俺の研究が実現されれば地球などあっという間に取り戻せるんだ!」
「愛理!!」
そこに母達が室内に雪崩込む
「何をしている!」
入った瞬間に違和感を感じた所長が語気を強めた
「しょ、所長!?」
所長の登場に白衣の男達は慌て始める。顔を青褪めさせている者もいた
「何をしているのかと聞いている」
「わ、我々は止めたのです! ですが……」
所長は走り、ガラス窓へと近づく
「これは……おい! まさか!?」
「おお、これは所長。良い所に。ついに実験が成功するのです」
「今すぐに止めろ! この研究は禁止にしたはずだ! 命を冒涜するな!」
「冒涜ではない!!! 生命の創生を成し遂げるんだ!!」
秘密結社は祖先が持つ高度なテクノロジーを活用し、様々な研究をしている。ニャーゴを生活に役立てるための研究、軍事的目的に使うための研究とその用途は様々だ
そんな中で極秘裏に進められた研究がある。それが二つの生物を組み合わせることで、より優れた生命を誕生させる研究だった
研究は順調に進められたように見えたが、ある日、事故が起きる。実験に成功した被検体が暴走したのだ。能力が強化された被検体は施設を破壊し、最終的には殺された
その結果を踏まえ、研究は中止、二度と実験をしないようにと取り決めがされたのだ
だが、その結果は暗いものだけではなかった。一つ一つはか弱い生命でも、その力を足すことによって、強大な力を得られるということの証明にも繋がったのだ。その為、一部の研究者が猛抗議をしたことによって、実験の為の資材はこうして残されることになったのだ
男の父と祖父はこの研究の第一人者だった。その為、事故の直後は男の家族は日陰者扱いされた。祖父と父を尊敬していた男はいつかこの実験を成功させ、後ろ指を指した奴らを見返すのだという野望があったのだ
そして、再びその悪魔の実験が行われる
「この実験が成功した暁には、地球は我々の手に入り、そして、父とおじいさんは……その正当性が証明さるんだ!」
「今すぐに止めろ!」
「もう遅いですよ。すでに実験は始まっている」
男は満足げにガラス越しのポッドを見る
「ポテト!!!」
愛理は為す術もなくガラス越しに愛する家族を見るしかできなかった




