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異世界冒犬譚2  作者: さくら
視点
12/24

3話

よろしくお願いします

 「行ってきます」


学校から帰ってきた愛理がまた出かけて行ってしまった。バイトだろうか? ふと時計を見ると時刻は五時を過ぎたところだった。外は西日が終わる頃だ


(夜のバイト……にしてはいつも帰ってくるの早いよな)


そう、バイトにしては数時間程度で帰ってくるのだ。そして帰るとすぐにお風呂に入る


「誰かと会っているのか?」


アシュリーの言葉になるほど、と俺は納得する。誰かと会っているとなれば、時間的には丁度良い。彼氏とかだろうか?


あれだけ可愛い愛理と付き合えるってどんな男なんだろうか? 恐らく、すごいイケメンなんだろう


「なにをそんなにソワソワしてるんだ」


アシュリーの言葉にハッとする。気がつけば俺は部屋の中をウロウロと彷徨っていた


「愛理の事が気になるのか?」


なんだろう、そう言われると否定したくなっちゃう


(うーん、まぁ)


アシュリーに嘘をついても仕方ない


「見に行ってみるか?」


(へ?)


思わず変な声が出た。見に行くってなんだ。確かにアシュリーに抱えられれば階段も降りれるし、玄関も開けられる。だが、どこにいるのかなんてわからないだろう。ましてやアシュリーにとって、ここは見知らぬ土地だ


「不思議そうな顔で見るな。心配するな。迷子になんてならんよ」


(え、だって)


「俺だって、なにも毎日、寝てたわけじゃないんだぞ?」


いや、寝てただけだろ


「この世界の魔素を扱えるようになる為に努力してたんだ」


そう言うと、アシュリーは胸を張る


(おお! 魔法使えるようになったのか!?)


「いや、魔法はもう少しだな。使えそうな気もするんだが、ここで試すわけにもいかないしな。どうもこの世界の魔素は魔素とは似ているが別物だ。うまく扱うにはもう少し時間がかかる」


(おお、でもすごいじゃん!)


「かつてはこれでも創造神でもあったんだぞ? 見くびってもらっては困るな」


(で、魔素が扱えるようになったのと、愛理を追いかけるのがどう関係するんだ?)


「なにも特別な事じゃない。愛理の魔素を追うだけだ」


(愛理にも魔素があるの? あ、そうか、前の世界でも魔素はみんな持ってたのか)


「この世界の魔素が魔素なのかは知らないが、この世界の住民は全員が持っているというわけではないみたいだ」


(へー)


「お前の飼い主はもしかすると特殊な力の持ち主かもしれないな」


全員が持っているわけではないが、愛理は持っている。という事は、つまりそう言う事なのかもしれない


「どうする? 追うなら手伝うが?」


どうしたものか。正直、人のプライベートに首を突っ込みたくないのが本音だ。だが、愛理が変な事に巻込まれてないか心配なのも事実だ


別にどんな彼氏か見たいとかそんな野暮な考えではない。ちょっと気になるが


愛理はまだ女子高校生だ。恋愛も今が花だろう。失敗もするし傷つきもする。それはそれで仕方のない事だ。恋愛は甘酸っぱいものなのだから。甘いだけじゃないのだ


俺は酸っぱい思いしてばっかだけど


まあ、俺の事はどうでもいい。ちょっと様子をみて問題なければ帰って来ればいいのだ。うん、そうだ、そうしよう


(ちょっとだけ様子を見に行ってみようか)


「わかった」


そう言うとアシュリーは俺を抱きかかえる


(え? どこ行くの?)


アシュリーは俺を抱えたまま、窓へと向かった。廊下ではなく——


そして、ドアを開けると、そのまま、屋根へと飛び出した


(え? え?)


「うるさいな。少し黙ってろ」


突如として浮遊感を感じると、目の前に夕闇の空が飛び込んでくる。飛んでいるのだ


(おいぃぃぃぃ!!!)


落ちる—— そう感じた俺の感覚とは裏腹に、優しくふわりと道路に着地する


「やかましいな。放り投げるぞ」


(いやいや、落ちると思うでしょ。普通に)


「大層な魔法は使えんが、簡単な魔法みたいなものは使えるようだ」


そうならそうと言ってほしい


「ほれ、ここからは自分で歩け。あ、そういえば組織とやらに捕まってしまうか?」


組織? ああ、保健所か


(大丈夫、今は首輪してるから)


「ふーん、よくわからんが、大丈夫ならいい。こっちだ」


アシュリーは迷う事なく走り出す。俺はアシュリーを見失わないように後を追いかけた






 —ゥウウウウウウウゥゥゥ……!!


アシュリーの後を追いかけていると、けたたましくサイレンの音が鳴り響いた


『緊急警報発令。凰巣市全域にて緊急待機警報が発動されました。屋外にいる方は至急最寄りの屋内へと避難してください。繰り返します……』


防災警報だろうか? 聞いた事のない放送に疑問が湧くが、今はアシュリーを追うのが先決だ。はぐれたら帰れないのだ


アシュリーは狭い路地を駆け抜ける。まるで愛理までの最短距離を走っているかのようだった。角を抜けると背の高いコンクリートの壁が見えて来る。雰囲気的になにかの工場だろうか


「この中だな」


この中? 工場に来ているのだろうか、と、なるとやはりバイト?


壁伝いに走ると、入り口が見えて来る。目に飛び込んできたのは潰れて年数が経っているであろう工場跡地だった


(え、ここ?)


「そうだ。この中だ」


どう考えても人っ子一人いない工場跡地だ。こんなところに来る女子高生なんて聞いた事もない。と、なるとやはり隠れて誰かに会っているのだろうか?


いや、無理やり連れてこられたという可能性もある


(急ごう!)


嫌な予感がした俺はアシュリーを急かし、中へと入った


この大きな建物はかつてなにを生産していたのだろうか。三階建ての工場は壁から無数のパイプが外壁を伝っており、どこかへと繋がっている


人気のない建物に入ると、中は埃っぽく、長年人が足を踏み入れていないという事が容易にわかった


——ッドン!


どこからともなく、何かがぶつかる音が聞こえる


「聞こえたか? あの音がする方向のようだ」


明らかに異常な状況に俺は焦る。無人の工場、不気味な物音から連想する結果はどれも最悪なものだった


一刻も早く愛理を見つけなければ、その一心で俺は物音のする方向へと走った





 現実とは懸け離れた光景が目の前で繰り広げられていた。物音のする方向へと向かった俺達を出迎えたのは、まるで特撮ヒーローさながらの光景だった


一方では赤いひらひらの服を着た仮面の少女。もう一方では土塊のゴーレムなのだろうか? そしてそれを操る黒づくめの少女。その二人が戦っていたのだ


開いた口が塞がらないとはこの事だ。現実世界に似た光景、いや現実世界そのものだった世界で行われる非現実的な風景に俺は唖然としていた


「今日こそは正義の名に賭けて! あなたを倒すわ! ナイトラヴァー!!」


赤い服の少女が叫ぶ


「その言葉、そっくりあなたに返すわ! かかってきなさい! 赤色の乙女!」


そう応える仮面をつけた黒服の女の声は聞き覚えがあった


愛理の声だ。間違うわけがない。なぜ愛理があんな格好をして闘っているのだろうか? しかも見るからに悪役っぽい格好で? なにかの撮影だろうか?


愛理が手をかざすとそれに呼応するように巨大なゴーレム二体が赤い少女へと襲い掛かる


赤い少女はまるでワイヤーでも付いているのではないかと思うほど軽やかにジャンプし、ゴーレムの腕をすり抜けていく


その様子を呆然と口を開けたまま見守る俺


「なんだ? あれは?」


隣に立つアシュリーも目の前で繰り広げられる闘いに疑問を持っているようだった


「ゴーレムか」


ゴーレム。土の塊で出来た意思を持たない存在だ。その認識は共通なんだなと変なところで関心する


——ッドン!


ゴーレムの振り回された腕が壁に突き刺さる。壁にめり込んだ腕を外そうとゴーレムは必死だ。そして腕が抜けた。かなりの力で腕を引っこ抜こうとしたのだろう


手前に引っ張る力は相当なものだったはずだ。それを止めていた枷が外れる。当然、その瞬間、いや抜けた数秒までは最大限の力で引っ張っている。その枷が突如として離れた為、思わぬ力の伝導にゴーレムはよろけてしまった。力が制御できていないのだろう。その力の伝導はゴーレムの背後へと伝わる


その直線上には俺がいた


(え?)


行き場を失った力はコンクリートの壁と共に俺の場所へとすっ飛んできた


(うそでしょ!?)


避けなければ。頭ではそう思うが体がついてこない。人は危機の前では無力なのだ。人は、というか俺が無力なだけか


思わず目を瞑る


——ッドン!


音と共に風が体をなびかせる。痛みはない。どうなったのだろうとゆっくりと目を開けた


そこには俺を庇うように立つアシュリーがいた


「大丈夫か?」


こちらを振り返り、何事もなかったかのようにアシュリーが俺を見た。どうやったのかは知らないが、俺を守ってくれたのだろう


(あ、ああ。アシュリーこそ大丈夫か?)


「なに、以前と違い、多少は魔素が扱えるようになったと言ったろう? これぐらいなら何て事はない」


やだ、かっこいい


「ここは危険かもしれないな。……うん? どうやら決着がつきそうだぞ?」


その言葉に前方で戦っている二人へと視線を移した


ゴーレムの攻撃を(かわ)す少女は防戦一方にも見える。素人目で見ればこのまま愛理が押し切るのではないかとも思うが、アシュリーのように闘い慣れしている人から見れば違うのかもしれない


「障壁!」


赤い少女の掛け声と共に火柱が立ち上がる。まるで壁だ


「銃弾の(ほむら)!!」


無数の赤い玉が飛び散った。あれは炎なのだろうか? まるでショットガンのように広がる赤い玉を受けたゴーレム達はよろけ、膝をつく


ここまで来れば素人の俺でもわかる。勝負がついたとは、愛理の負けという事なのだ


(な、なあ! このままじゃ愛理が負けるんじゃね?)


「うん? 愛理?」


見上げる俺を怪訝な表情でアシュリーは見下ろす


(え……あれ、愛理だろ? アシュリーが連れてきてくれたんじゃん)


その言葉で「ああ」と、納得したような顔をする。大丈夫か? しっかりしてくれ


「これでフィニッシュよ!」


赤い少女が声を高らかに勝利宣言する。その瞬間、考えるよりも早く俺は愛理の元へと走り出した。なんの策も方法も思いついていないが、とにかく助けないとという考えで一杯だった


倒れこむゴーレムの肩に愛理はしがみついていた


「観念しなさい! ナイトラヴァー! 銃弾の焔!!」


ゴーレムの肩から落ちかけていた愛理は必死にゴーレムの肩に再びよじ登ろうとしていた。だが、突如、後ろへと引っ張られる


「きゃ!?」


それとほぼ同時に先ほどの赤い玉が辺り一面を埋め尽くした。俺は引き摺り下ろした愛理とゴーレムの背中に隠れる


ドドドという音の嵐が響き渡る。一向に止む事のない音に、本当に止まるのだろうかと心配になってくる


そんな心配を他所に音は次第に薄れ、そして止んだ


「正義は勝つ! だね」


『次はもっとスマートにやってほしいにゃ』


勝利を確信したであろう少女の声が聞こえる。あと変な声も聞こえた。なんだよ「にゃ」って? バカにしてんのか


「それじゃ、帰ろう」


『はやく帰ってご飯にゃ』


その声を最後に辺りは静寂に包まれる。愛理は無事だろうかと目の前の愛理を覗き込むと、意識を失っているようだった


「大丈夫か?」


そんな俺と愛理の様子を伺うようにアシュリーが覗き込んできた


「突然、走り出すから焦ったぞ」


(いやぁ、思わず咄嗟に……)


「無事ならいいが、あんまり無茶するなよ?」


呆れた顔でこちらを見るアシュリーから目を逸らし、愛理を見る。目を閉じ、気を失っているようだが、どうしたものか


(運ぶ……のは無理だよなぁ)


「気を失っているだけだろう。しばらくすれば目をさますとは思うが」


——ッダダダ!


ふと、俺の耳が聞きなれない音を聞きつけ、ピクンと動く


「どうした?」


その様子を見ていたアシュリーが不思議そうに聞いてきた


(誰かくる?)


足音だ。それも数人の足音が聞こえたのだ。どうやらアシュリーには聞こえていないらしい。足音は次第に大きくなっていく


「うん? 誰か来るか?」


その音は大きくなり、アシュリーでも聞き取れる音になる。そしてその集団は現れた


「おい! いたぞ!」


黒ずくめの集団はまるでどこかの軍隊のようだった


「やつらより早く来れたようだな」


「ああ、ニャーゴを回収されずに済むな」


「ナイトラヴァー様がいるはずだ。探せ!」


集団は辺りを探るようにこちらへと近づいてくる。そしてゴーレムの陰に隠れていた俺と愛理を見つけた


「いたぞ!」


一人の男が声を上げると、全員が集まってきた


「犬? なんでこんなところに?」


こいつらは一体何者だろうか? 先ほどの少女の仲間か?


「そういえば、最近、犬を飼い始めたとか聞いたぞ?」


「え? まさか飼い犬か? こんなところに連れてくるか?」


「さすがにそれはないだろ」


「だが、もしそうだとして、ぞんざいに扱ったとバレたら大目玉くらうぞ?」


「おい、こいつ首輪してるぞ?」


男達は顔を見つめ合う


「ひとまず、この犬も連れて行こう。違うなら違うで放り出せばいいさ」


一人の男が言うと、他の男達が担架のようなものを出し、愛理を担ぎ上げようとする


(何やってんだ!)

「グルルルルゥ……」


「うお。だ、大丈夫だから。この人を助けるだけだから」


俺が吠えると、愛理に近づいた男が驚き何やら言い訳をしてくる


(こいつら愛理の仲間か?)


「さあな。まあ、ひとまず様子見でもいいんじゃないか? どのみち、ここに放置しておくわけにはいかないだろ? それにいざとなったら俺が助けてやるさ」


アシュリーの言葉にそれもそうかと頷く。力が戻っていないとは言え、アシュリーがいるなら心強い


俺はむき出しにしていた牙を納めると、黒ずくめの集団を見守る。愛理に変なことしたら噛みついてやると内心思っていたが、それは杞憂だった。男達は細心の注意を払いながら愛理を担架に乗せると、俺を抱きかかえその場を後にした

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