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第2話:学院長と不変の支配(プレリュード) 前編:『黄金の学院長(ゴールド・ルーラー)』

挿絵(By みてみん)


低く唸るような、威圧的なチェロの独奏が響く。


王立調律学院、最上階…。


外界の喧騒を一切遮断した学院長執務室は、肌を刺すような高密度の「法則」に満たされていた。

重厚な黒檀のデスクに置かれているのは、黄金の装飾が施されたタクト…、『グラビティ・セプター』。

「はあ…。まったくゼノの奴め…。」


その持ち主、オウレン・ヴァイスは、椅子の背にもたれながら深く、静かに息をついた。

彼の背後には、彼のエレメンタである『Au(金)』の「不動の価値」と、『Os(オスミウム)』の「究極の質量」が、物理的な重圧となって空間を歪めていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆

オウレン・ヴァイス ♂

No.79『Au(金)』No.76『Os(オスミウム)』

のダブル・シンフォニア

【タクト】

グラビティ・セプター


この世界において、「究極の質量」あるいは「不動の価値」と呼ばれている。

「最も重い元素」であるオスミウムと、「最も展延性に富む元素」である金という、極端な特性を持つエレメンタを併せ持つダブル・シンフォニア。

弟であるゼノと同様に冷静だが、彼は「力」と「物質の根源的な支配」に重きを置く。金による圧倒的なネクサス容量と柔軟な応用力を、オスミウムの最大級の密度と重力制御によって、一撃必殺の破壊力へと昇華させる。その一挙一動は重く、敵に対しては逃げ場のない「絶対的な圧力」として立ちはだかる。


【シンフォニア能力】

 「黄金法則(アウルム・コード)」

 「重力根元(グラビティ・ネクサス)」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ゼノ……。やはり、『第零の不協和音』を拾い上げましたか。まったく、あの弟の即興曲は、私の完璧な予測を乱す不純物でしかない…。」

オウレンがわずかに指を動かすだけで、部屋の空気が数倍の重力に押し潰されたかのように軋む。


ギギギギ…ギギギギ……。


彼は金色の長髪を揺らし、跪く秘書官へ冷徹な声を投げた。

「直ちにハーベル・イースタンの動向を全て報告させろ。弟の気まぐれなどどうでもいい。問題は、彼が宿す『第零のアモルファス』……法則の外側にある、あの無定形の塊だ!」

オウレンの瞳が黄金色に輝く。


「御意に…。」


彼が展開する固有結界…。「黄金法則(アウルム・コード)」は、室内のあらゆる分子運動を彼の意思一つで固定し、一分の乱れも許さない。


「あの力は、我がヴァイス家の『黄金絶対領主(アウルム・ドミニオン)』による支配を揺るがしかねない不確定要素。国王陛下も、その存在を世界の平穏を脅かす危険因子として危惧していらっしゃる…。」

オウレンは立ち上がり、窓の外に広がる学院を見下ろした。

その視線は、教育者というよりも、盤面を支配する王者のそれであった。


壮大で抑圧的なオーケストラへと音楽が変わる。


(ハーベル・イースタン……貴様のようなノイズは、王家の『黄金法則』が築く「完璧な王国の永遠」にとって、排除すべきウイルスに過ぎん…。)


弟であるゼノの奔放な才能を認めつつも、その予測不能な行動とハーベルへの関心に、オウレンの心には冷たい警戒心が積み重なっていった。


「……ゼノめ。私という絶対的なテーマに対し、不協和音をぶつけることが唯一の愉悦か…。これ以上、私の予測を乱すというのなら…、いっそのこと…。」

オウレンが静かにタクトを握ると、部屋の装飾品が重圧に耐えかねて悲鳴を上げた。


ギギギギ…キュイーーーン…。


「……ふん。監視役からの報告によれば、早くも教室で『不協和音』が鳴り響いたようですね」

オウレンは手元の水晶に映し出された記録映像――ハーベルがレオンの攻撃を無効化した瞬間の残滓――を凝視した。


一瞬、彼の黄金の瞳に不快な色が混じる。


「……計算が合わない。レオン・シュヴァルツの『He(ヘリウム)』が持つ排他エネルギーは、エレメンタ法則の範疇であれば、受け流すか、より強固な法則で押し潰すしかないはず。それを『無』に帰すなど……」

オウレンが苛立ちと共に指を弾くと、空間の重圧が一点に収束し、執務室の隅に控えていた「粛清班」の精鋭、クロムが膝をついた。


「学院長、その『欠陥品』……私が直接、その密度を測ってまいりましょうか?」

「……許可します。ただし、殺すな。奴の『アモルファス』が、どこまでのエントロピーを許容するのか、その限界値を引き出しなさい」

クロムはスーッと影に溶けた。


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