第11話:白銀の断罪者と虚空の脈動 後編:『白銀の支配者と時空の決着』
「おいおい。俺様の最高のおもちゃに勝手に触ろうなんて、いい度胸してんじゃねえか、黒ネズミ」
空間をナイフで切り裂いたかのように、ゼノ・ヴァイスが姿を現した。
普段のだらしない教諭の顔は微塵もない。
その双眸には銀河の冷徹さが宿り、左手の革手袋は既に外されていた。
露わになった甲には、時空を統べる『Ir』の刻印が禍々しく黒銀の光を放っている。
「ゼノ……先生……!?」
ハーベルが息を呑む。
「ハーベル、そこでおとなしく寝てろ。……いや、見てな。これが本当の『法則』の使い方だ」
ゼノが指先をパチンと鳴らした瞬間、クロムの視界が反転した。
シュンッ!!
「な……転移!?」
クロムが次に踏みしめたのは、寮の部屋ではなく、学院から遥か数キロメートル離れた王城の旧訓練場だった。
ハーベルを巻き込まないため、ゼノが空間ごと座標を書き換えたのだ。
「クロム・ナイトハート。国王の飼い犬が、コソコソとくだらねえ暗殺ごっこか?」
追撃するように空間を跨いで現れたゼノの全身から、No.78『Pt』の白銀の光と、No.77『Ir』の黒銀の光が二重のオーラとなって溢れ出す。
「消えろ。『白銀奏生』——『絶対審判』!」
ゼノがタクトを振り下ろすように手を動かす。
無数の白銀の光糸が、超光速のスタッカートを刻みながらクロムへと襲いかかった。
「——『不錆暗刃』!!」
クロムは全身のクロムの硬度を極限まで高め、物理・ネクサスの全エネルギーを反射する鏡面大盾を展開した。
キィィィィィィィン!!
鼓膜を突き刺すような高周波の衝突音。
だが、ゼノは不敵に口角を吊り上げる。
「お前は法則を『硬化』することしかできない。だが俺様は、空間のベクトルそのものを『上書き』できるんだよ!」
イリジウムの法則が散乱した光を時空上に繋ぎ止め、数万の白銀の針へと変貌させて盾の死角から突き刺さる。
ガキガキガキィィィン!!
「ぐっ、あぁっ……! この密度……プラチナ単体以上の重圧……!?」
クロムが誇る不錆の盾に、あり得ないはずのひび割れが生じた。
腐食ではなく、ゼノの圧倒的な法則密度によって分子結合そのものが分解されたのだ。
「終わりだ。国王にはこう伝えな。『標的を守る不気味な反作用に触れ、撤退した』とな。……次、俺様の獲物に触れたら、存在ごと譜面から消去する」
パチンッ!!
ゼノが指を弾くと、黒銀のイリジウムの光がクロムを呑み込み、王城の裏庭へと強制送還した。
静寂が戻った旧訓練場から、ゼノは再び時空を跳び、ハーベルの自室の窓枠へと舞い戻った。
左手に漆黒の手袋をはめ直し、いつもの軽薄な仮面を被る。
「やあハーベル。怪我はないか〜?」
「ゼノ先生……今の、一体……」
ハーベルはまだ身体の震えが止まらない。
しかし、八雲の頭脳は理解していた。
自分が無意識に出したアモルファスの反作用と、ゼノの見せた次元を越える圧倒的な力——その両方の異常性を……。
「ま、気にすんな。お前の『第零のアモルファス』は世界という古い譜面を書き換える鍵だからな。俺様がしっかり守ってやるよ。……さ、明日の授業に備えて寝ろ寝ろ!」
ゼノは悪戯っぽく笑うと夜の闇に消えた。
割れた窓ガラスと、切り裂かれた枕……。
ハーベルは己の右手を見つめ、静かに拳を握りしめた。自分はもう、守られるだけの存在ではいられないのだと痛感しながら。
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