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第10話:影のフーガと謀略の夜想曲(ノクターン) 後編:『窒素の狂気と甘い余韻』

挿絵(By みてみん)


同時刻、カサール・シュヴァルツ公爵の屋敷……。

そこでもまた、現体制に対する激しい破壊の旋律を練り上げる男がいた。


レオンの兄、ナイトロ・シュヴァルツである。


「父上は、僕の『N(窒素)』の法則が持つ爆発性を、制御不能な不協和音として警戒している……。だが、浅はかだ…」

豪華な書斎で、ナイトロは宙に浮く窒素の球体を弄んでいた。 それは一見して静止しているが、その内部では極限まで高められたエネルギーが、今にも弾け飛ばんと鳴動している。


「僕の目的は父上の暗殺などという小さな幕引きではない。この停滞した王家、腐敗した法則の檻を、混沌という名の轟音で一掃することだ!!」

ナイトロの瞳には、かつて母の死を看取った際に感じた、父カサールへの冷徹な憎悪が宿っている。


彼にとって世界は、一度すべてを爆破し、新たな譜面を引かなければならない失敗作だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ナイトロ・シュヴァルツ ♂

No.7『N(窒素)』のシンフォニア


この世界において、「大気の支配者」あるいは「静寂の爆弾」と呼ばれている。

大気の約78%を占める、極めて普遍的かつ不活性なエレメンタである反面、「爆薬」や「劇薬」の骨格を成す破壊的な側面も持つ。

ナイトロは、弟のレオンと同じく、冷徹で感情の起伏が少ない。その能力は、空気の支配と結合エネルギーの操作に特化しており、周囲の空間を「自身の領域」として認識し、静かに、しかし絶対的な力で制圧する。


【シンフォニア能力】

 「絶対支配(アブソリュート・ルーラー)」

 「静寂爆弾(サイレント・ボム)」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


弟であるレオンへの執着も、彼自身の「混沌の合奏」に引き込みたいという歪んだ愛情の裏返し。

「レオン……お前のヘリウムも、僕の窒素と混ざり合えば、高貴な独奏(ソロ)から無慈悲な突風へと変わるだろうに…」


彼の奏でる『絶対支配(アブソリュート・ルーラー)』は、家族への愛憎という、最も激しく不安定な情念に支配されていた。


⭐☆☆☆☆☆☆⭐


一方、それらの謀略の渦中にあるとは露知らず、学院の寮にいたハーベルは、窓辺で一人、リーチムからもらった「法則活性化キャンディ」を口に含んでいた。


「……甘いな。でも、どこかピリッとする…」

舌の上で弾けるリチウムのネクサス。

それは微かな電気信号のようにハーベルの神経を通り、内なるアモルファスの核に小さな火を灯していく。


「これで、僕の法則も活性化されるのかな。ゼノ先生やリーチム先生が見せてくれた、あの鮮やかな法則の世界に、僕もいつか自分だけの旋律を描けるんだろうか……」

ハーベルは、自分の右手を見つめた。


そこにある「第零」の紋章は、まだ頼りなく、静かに脈打っているだけだ。


(俺の理論では、外部刺激による強制的な活性化は、同時に『安定構造の破壊』を招くリスクがある……。だが、今のハーベルにはその不安定さこそが必要だ。アモルファスを、ただの反作用の壁ではなく、自分から奏でるための『楽器』にするために……)

八雲としての冷静な分析が、期待と不安の狭間で思考を研ぎ澄ませる。


しかし、その研ぎ澄まされた感覚でさえ、部屋の外、闇がわずかに「反射」して不自然な像を結んでいることには、まだ気づけなかった。


鏡のように静かな、だがダイヤモンドよりも冷酷な殺意が、すぐそこまで迫っている……。


今夜、学院の静寂を切り裂くのは、ハーベル自身の覚醒の産声か、あるいは暗殺者が放つ無音の終止符か……。


運命のタクトが、今、振り下ろされようとしていた。


【お知らせ】

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