第9話:リーチムの超軽量化レッスン 後編:『アモルファスの真価』
その時、リーチムがレオンの背後から超高速で接触した。
「レオン君! エネルギーが過剰だよ! ちょっと休止符を入れようか!」
「なにっ!?」
ぶつかった瞬間、レオンの全身から青白い火花が飛び散った。
バチンッ!!シューーーン……。
リーチムの『光速蓄電』。
それはエネルギーを与えるだけでなく、強引に「吸い取る」ことも可能なのだ。
レオンは急激に脱力し、膝をついた。
「テメェ……汚ねぇぞ……!」
「これも戦術だよ! 溜め込んだエネルギーは、誰かのために使うのがバッテリーの役目だからね!」
リーチムは楽しそうに笑い、今度は標的をハーベルに変えた。
「次はハーベル君の番だよ! 君の法則は、エネルギーの流れが完全に『澱んで』いる。入り口が詰まったパイプオルガンみたいだ!」
リーチムが、弾丸のような速度でハーベルに突進し、その肩に触れた。
バチンッ!!キュイーーーン!!
瞬間、ハーベルの体内に、暴力的なまでの「リチウムの火花」が流れ込んできた。
(――っ!? 脳が焼けるような熱量……いや、これは……!)
ハーベルの内側で眠っていた「第零のアモルファス」が、流れ込んできた高ネクサスに呼応し、猛烈な回転を始めた。
「うわっ、体が……軽い!」
ハーベルの全身を覆っていた、どろりとした無定形の波形が、急激に波長を短くし、超高速の振動へと切り替わった。
まるで、重力の鎖が断ち切られたかのような感覚。
彼は今まで出したことのない速度で地面を蹴り、一気に加速した。
「すごいでしょ! 君のアモルファスは、法則が『無い』んじゃなくて、流入口がガチガチに固まってただけなんだ! 僕のエネルギーで、その『栓』をぶち抜いてあげたよ!」
活性化されたハーベルの動きは、もはや少年のそれではない。
アモルファスのネクサスが、リーチムの「リチウム」と共鳴し、爆発的な相乗効果を生んでいた。
「捕まえた……っ!」
ハーベルの手が、リーチムの服の裾をしっかりと掴んだ。
「やったぁ! リーチム先生、捕まえました!」
「ハーベル君、おめでとう! 文句なしの金メダルだね! 君の無定形は、外部からの活性化に対して、誰よりも爆発的な反応を示した。……これは、面白いデータが取れちゃったなぁ!」
リーチムは満面の笑みで、ハーベルの掌にキラキラと輝く「法則活性化キャンディ」を置いた。
「はい、約束のご褒美! これを食べれば、しばらくは君の法則もノリノリのアップテンポで動いてくれるはずだよ!」
「ありがとうございます!」
ハーベルは息を切らしながらも、心からの笑顔を見せた。
(俺の中に眠るエネルギーの引き出し方……そのヒントを、この先生は示してくれた。アモルファスは、ただの反作用の塊じゃない。エネルギーを『溜め込み、爆発させる』ための、究極のコンテナなんだ……!)
その光景を、地面に膝をついたままのレオンが、煮え繰り返るような目で見つめていた。
(クソ……。法則ゼロのゴミが、俺より先に先生を捕まえただと……? しかも、あんなに嬉しそうに……あいつ、俺を馬鹿にしているのか?)
レオンの内で、ヘリウムの静寂が、冷たい殺意を帯びた「真空」へと変質していく。
一方、リーフィアもまた、複雑な表情で立ち尽くしていた。
(ハーベル君の法則が……あんなに激しく、熱く輝くなんて。レオン様の冷たい沈黙とは、全然違う……。私、どうしてこんなにドキドキしてるの?)
リーチムの「超軽量化レッスン」は、ハーベルに自分の力の新たな側面――「活性化」という鍵を教えた。
だが同時に、それはパーティー内に潜む不協和音を、より鮮明に浮き彫りにしてしまったのかもしれない。
空に輝く三つの月が、不穏な影を訓練場に落としていた。
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