↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/26

第6話:混沌の反作用 後編:『共鳴する混沌』

挿絵(By みてみん)


ハーベルは、その圧迫感の中で、あえて思考を加速させた。

(八雲としての理論が告げている。ゼノの法則は完璧だ。だが、完璧すぎるがゆえに『遊び』がない。固定されることを前提とした世界……なら、その前提を根底から裏切る『予測不能なノイズ』を叩き込めばいい!)


ドックン…ドックン…ドックン…ドックン。


ハーベルの胸の奥で、無定形の光――『第零のアモルファス』が脈動を始めた。

「僕が、その静止画を……ぶち壊すよ!」

ハーベルが叫ぶ。


彼の体から溢れ出したのは、光でも闇でもない。ただの「混沌」だ。


プラチナの法則がハーベルの体に触れた瞬間、本来なら彼は石像のように固まるはずだった。

しかし、アモルファスは「固定」という命令そのものを、異なる物理定数へと勝手に書き換えていく。


バチーーン!


火花が散るような音がドームに響いた。

ゼノの眉が跳ねる……。

「なんだと……? 俺様の固定を……弾き飛ばしただと?」


「今だ、リーフィア! レオン!」

ハーベルの混沌が、ゼノの「停滞した空間」にヒビを入れた。

その一瞬の隙を、二人の天才は見逃さなかった。


「言われなくても! 『法則奏生(シンフォニア・ライブ)』――『生命伝導(ライフ・コンダクター)』!」


リーフィアが放った銅の光は、単なる伝導エネルギーではない。

彼女の真価は、異なる個体間の法則や波形を無理やり繋ぐ「高効率回路」の形成にある。


彼女は、ハーベルの制御不能な「混沌の反作用」を、自分とレオンのネクサス経路へと強制的にバイパスさせた。


「あぁ……っ、熱いな! クソ、力が溢れてきやがる!」

レオンが叫ぶ。


ハーベルの「法則の外側」へ弾き出すエネルギーが、リーフィアの銅回路を通じて、レオンの『絶対孤高(アブソリュート・ソリチュード)』に流れ込む。


ヘリウムの法則による流体粘性ゼロと、アモルファスの反発力が極限まで組み合わさり、レオンの速度は物理限界を突破した。


「『先生』、ゲームオーバーだ!」

加速した時間は、今やレオンの味方だった。


ゼノの周りの時間が、ハーベルの反作用によって逆流を始める。安定していた時空の枠組みが、内側からボロボロと崩れていく。


「バカな……空間が分解している……!? 俺様のプラチナが……!」

ゼノの顔から初めて余裕が消えた。


彼は反射的に防御壁を張ろうとしたが、固定すべき「対象」そのものがアモルファスによって定義不能な状態に置かれている。


レオンの拳が、光の尾を引いてゼノの死角へ食い込んだ。

重力から解放され、混沌の爆発力を伴った一撃。


ドォォォォォォォン!! シュン!

爆風がドームを揺らした。


土煙が舞い上がり、静寂が戻る。

……そこには、レオンの拳を、薄いプラチナの膜一枚で防ぎきったゼノの姿があった。


だが、その表情に冷笑はない……。

ゼノの頬には、わずかな切り傷から鮮血が伝っていた。


「……フフ、ハハハハ!」

ゼノが突然、狂ったように笑い出した。


「素晴らしい。俺様の美学に泥を塗り、あまつさえ『傷』をつけたか。これこそがシンフォニア……法則の共鳴が生んだ奇跡というわけか」

ゼノはゆっくりと拳を下ろしたレオンを見やり、それから膝をついたハーベルと、彼を支えるリーフィアに視線を向けた。


「五分間、どころではないな。……合格だ……退学も撤回だ!」

ゼノが再び漆黒の革手袋をはめ、いつもの傲岸不遜な表情に戻る。


「ハーベル・イースタン。お前の持つ『第零のアモルファス』……それは俺様の『定常』を汚す毒であり、同時に世界を新たな理へ導く『触媒』だ。せいぜい磨いておくがいい。次週、この続きを行う。次は……手加減など期待するなよ」

ゼノは背を向け、悠々と去っていった。

その足取りは、どこか満足げでもあった。


「……勝った、の?」

リーフィアが震える声で呟く。

「フン、相変わらずムカつく教師だ。だが……まあ、悪くねえ気分だな……」

レオンが不器用な笑みを浮かべ、ハーベルの肩を叩いた。


ハーベルは、自分の手の甲を見つめた。

(東雲八雲。俺が追い求めた『定常』は、この世界では『混沌』と混ざり合うことで完成するのかもしれない……)


心に灯ったのは、かつて研究者として真理を追い求めた時以上の、熱く、激しい情熱の炎だった。


彼らの物語は、この一瞬の崩壊から、真に始まりを告げたのだった。


【お知らせ】

いつもご覧いただきありがとうございます。

毎回、18:00 時に投稿します。

続きの気になった方は、

ぜひともブックマークをお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。