第6話:混沌の反作用 前編:『静止する世界』
翌朝、王立調律学院の演習ドームには、昨日に引き続き重苦しい、それでいて熱を帯びた空気が漂っていた。
ドームの中央、昨日刻まれた破壊の跡がそのまま残る舞台に、ゼノ・ヴァイスは立っていた。
そのプラチナの髪は相変わらず一分の乱れもなく、冷徹な美しさを湛えている。
「来たか。特異点観測班!」
ゼノの視線の先、ドームの入り口から三つの影が歩み寄る。
先頭を行くのは、不機嫌そうに鼻を鳴らすレオン。
その後ろに、決意を秘めた瞳のリーフィア。そして、中央で二人を繋ぐように歩くハーベルがいた。
ハーベルの脳裏には、一晩中、前世――東雲八雲としての記憶が渦巻いていた。
(定常の法則……俺が現代日本で、死の直前まで追い求めた『安定の真理』。だが、この世界で俺が手にしたのは、その真逆の『無定形』だ……)
「ゼノ先生!」
ハーベルが口を開く。
「昨日の続きを。僕たちを退学させないために……」
「いいだろう。お前らの『無様な足掻き』が、俺様のプラチナの美学をどこまで汚せるか……見せてみろ!」
ゼノが左手の漆黒の革手袋を引き抜いた。
その瞬間、空間が凍り付く……。
パチンッ!!
「授業再開だ。――『黒銀奏生』――『刻印固定』!」
ゼノが指を弾くと同時に、ドーム全体の「時間」が質量を持って押し寄せてきた。
シュイーーン…チチチ…チチ…チ…チ……チ。
レオンが音速の踏み込みを見せようとするが、その動きはゼノの視界に入る前に、重い粘土の中に閉じ込められたように停滞する。
「チッ……動けねえ! 空気が、時間が……固まってやがる!」
レオンが毒づく。
リーフィアもまた、治癒の法則を展開しようとするが、放出されたネクサスが空間に固定され、彼女の周囲で結晶のように固まってしまった。
「これが俺様の『プラチナとイリジウムの法則』だ。変化、揺らぎ、不確定要素。そのすべてを排した『絶対不変』の静止画。お前らの未熟な法則など、私の前ではただの標本に過ぎない」
ゼノが悠然と歩き出す。
コツン…コツン…コツン…コツン…コツン。
標本箱の中の蝶を潰すような足取りで……。
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