第三話 引きこもり、一ヶ月の旅に出る
「誠お坊ちゃま!そろそろいいですか、馬車で王都まで行きますよ」
部屋の外から、頼れる使用人の声が誠の部屋の中に聞こえる。
「はーい。今行く!」
外に出ると、よく晴れた青空の下に、一台の馬車が停まっている。
「お待たせ。いやぁ、いよいよだね」
なんかワクワクするけど早く家に引きこもりたいな。
「何言ってるんですか、誠お坊ちゃま、今から一生に一回の儀式ですよ。緊張感を持って行ってください。」
お坊ちゃまの晴れ舞台ですからね。なんと言っても、十歳の大事な『魔術儀』です。辺境のこの領地からは、馬車で丸一ヶ月はかかりますから、気合を入れていきましょう!
わかったよ。頑張るよ
前世の知識がある僕からすれば、一ヶ月の移動なんて正気の沙汰じゃない。スマホもゲームもない世界だ。退屈すぎて干からびてしまう自信がある。
よし、誠お坊ちゃま、出発進行です
パチィン、と使用人が鞭を振るうと、馬車がゆっくりと動き出した。
小気味いい振動が伝わってくる。いい風だなー
数分後 丸一ヶ月、馬車に揺られるとか……無理かも
誠の引きこもりが発動したのである。
僕は一カ月間、暇になる道中野営はするけど、それでも暇だな。
誠はあることを思いついた
今魔法の練習すればいいんじゃない?
ここで魔法をちゃんと使えたら、力をコントロールし、自分を弱く見せることで家に引きこもれるんじゃね
誠はのんきなことを考えていた。だがしかし、これも誠はまだ知らない、魔法を練習することで
この先出会う人に魔法を完璧に教わり魔術儀でとんでもないことになることを
と言ってもどうやって魔法を放つんだ。瓶に魔法を込めることや魔法陣を書くことはできるけど、それから全くできないどうするんだ。
誠はそんなことをずっと考えていた
この世界の魔導士は、自分のカラーのインクを万年筆に吸わせて魔法を使う。
でも誠は万年筆を持っていなかった。
「うーん……。道具がないんじゃ、やっぱり魔法は使えないのかなぁ」
「いや、待てよ? 要するに、インクで空中に陣を書けばいいんだよね?」
僕はふと思った。
わざわざ万年筆なんて道具に頼る必要性が見当たらない。
「万年筆がないなら……インクを直接、手で操ればいいんじゃない?」
それは、この世界の常識を根底から覆す、あまりにもおかしな発想だった。
普通の魔導士は、インクに直接魔力を干渉させることなどできない。だからこそ、魔力を通しやすい特殊な金属で作られた『万年筆』という媒介を使って、瓶を空中に浮かせ魔力を使ってインクに吸わせ、文字を書くのだ。
しかし、誠が持っているのは、すべての属性が完璧に融合した原初の魔力液『魔流水』。そして誠自身の魔力は、それを完全に支配できる規格外の密度を持っている。
道具なんて、最初から必要なかったのだ。
「よし、ちょっと試してみよう。まずは……このインクの瓶を、この辺に浮かすイメージで」
「お、浮いた浮いた。じゃあ次は、ここからインクを引っ張り出して……」
人差し指をボトルの口に向け、くいっと動かす。
すると、ボトルの中からひゅるひゅるひゅるっ!と、生き物のような細い透明なインクの線が飛び出してきた。
「うわ、なんかすごい勢いで出てきた!? 」
誠は焦って指を動かした。
本人は「万年筆がないから、不格好にインクが飛び出しちゃった大失敗」だと思っている。
しかし、馬車の外では――。
誠が指を動かした瞬間、馬車の周囲の空間に、目に見えないほど超高密度な魔力のスジがひゅるひゅると高速で駆け巡り、一瞬で巨大な幾何学模様を構築していた。
誠ぼちゃん大丈夫ですかーーー
(つづく)
ここまでお読みいただきありがとうございます!
誠が「うわ、インクがひゅるひゅる出てきて止まらない! 失敗だ!」と焦って指を振り回しているうちに、偶然、道中の森に潜んでいた厄介ごとに巻き込まれていきます。
この先どうなるんだ。誠と使用人の無事を願います。
天才なのに勘違いすぎて凡人疑いされる
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