第二十六話 規格外の魔法陣、その正体
「……あれは」
フェルナンド・アルディスは、演習場の上空に浮かび上がった巨大な魔法陣を見つめていた。先ほどまで受験者たちが使っていた魔法陣とは、明らかに規模が違う。直径は十メートルを超え、幾重にも重なった魔力回路が淡い光を放っている。しかも、その構造は通常の魔法陣とはまるで違っていた。
「フェルナンド様……あの魔法陣は……」
隣にいたガルド・レインも、驚きを隠せない様子で魔法陣を見上げている。
「ああ。私にも理解できない部分がある」
フェルナンドはそう答えながら、目を細めた。
本来、魔法陣には属性ごとの決められた構造が存在する。火属性なら火属性の魔力回路、水属性なら水属性の魔力回路。それぞれの属性が持つ性質に合わせて術式を組み上げることで、初めて魔法として成立する。
ところが、誠が作り上げた魔法陣には、その常識が存在しなかった。
そして――透明。
七つの魔力回路が、互いに干渉することなく一つの術式の中へ組み込まれている。
「七属性……?」
ガルドが呟く。
「しかし、こんな術式は王国の魔導書には……」
一方、その中心にいる誠はというと、そんな異常事態にまったく気づいていなかった。
「できた!」
誠は嬉しそうに魔法陣を眺めていた。
「最初の魔法陣だと、ちょっと魔力の流れが悪かったから、少しだけ直してみたんだ」
「少しだけ……?」
ルミナが引きつった顔で聞き返す。
「うん」
「……それだけ?」
「うん」
ルミナは空を見上げた。
そこには巨大な魔法陣が浮かんでいる。
「どこがよ……」
思わず呟いた。
しかし誠には聞こえていない。
「これなら普通に使えると思う」
誠は魔法陣へ手を伸ばした。
その瞬間だった。
ゴォォォォォォ……!!
演習場全体に強烈な風が吹き抜けた。
「うわっ!」
受験者たちが一斉に身を伏せる。
魔法陣の中心へ、周囲の魔力が吸い込まれていく。空気中に漂っていた魔力だけではない。地面に刻まれた結界、演習場に設置された魔導具、さらには周囲の受験者たちが持っている魔力までもが、わずかずつ魔法陣へ流れ込んでいた。
「な、なんだ!?」
「魔力が吸われているぞ!」
「試験用の魔法陣じゃないのか!?」
会場が一気に騒然となる。
ガルドは慌てて測定魔導具を確認した。しかし、表示されている数字を見た瞬間、その顔から血の気が引いた。
「魔力値が……上昇しています」
「どれくらいだ?」
「測定限界を超えています!」
フェルナンドの表情が変わった。
「……そういうことか」
「何か分かったのですか?」
「この魔法陣は、魔力を消費しているわけではない」
フェルナンドは空中の術式を見つめながら続ける。
「周囲に存在する魔力を集め、それを術式の一部として利用しているんだ」
「そんなことが……可能なのですか?」
「普通なら不可能だ」
フェルナンドは即答した。
「魔法とは、自分の魔力を術式へ流し込み、決められた現象を引き起こすものだ。周囲の魔力を直接術式へ組み込むなんて、制御が難しすぎる」
「では、あの少年は……」
「無意識に、それをやっている」
フェルナンドは誠を見る。
誠は魔法陣を眺めながら、少し困ったような顔をしていた。
「……なんか、思ったより大きくなっちゃったな」
「そこ!?」
ルミナが叫ぶ。
「もっと気にするところあるでしょ!」
「え?」
誠は首を傾げた。
「だって、ちゃんと動いてるよ?」
通常の魔法には、必ず属性による制限が存在する。火属性の魔法なら火の性質を、水属性なら水の性質を利用する。それが魔法の基本だ。
だが、誠の魔法陣には、その制限がない。
すべての属性を組み合わせ、さらに属性そのものに干渉している。
それはまるで――魔法を使っているのではなく、魔法という仕組みそのものを書き換えているようだった。
「……まさか」
フェルナンドの脳裏に、先ほどの『透明属性』という言葉が浮かぶ。
属性を持たず、属性そのものに干渉する異端の魔力。
もし、この魔法陣が透明属性によって生み出されたものだとすれば。
(この少年は、魔法を使っているのではない)
(魔法そのものを作り替えている……?)
フェルナンドは初めて、誠に対して畏怖に近い感情を抱いた。
その一方で、誠は何も知らずに笑っている。
「じゃあ、発動してみますね」
「待て!」
フェルナンドの声が演習場に響き渡った。
「え?」
誠が驚いて振り返る。
フェルナンドは魔法陣を見上げたまま、誠に言った。
「その魔法を……本当に発動させるつもりか?」
「はい」
「何が起きるか分からないぞ」
「でも、魔法って使ってみないと分からないですよね?」
フェルナンドは言葉を失った。
誠は再び魔法陣へ向き直る。
魔法陣が、さらに強く輝き始めた。
第三試験。
ただ魔法陣を完成させるだけだったはずの試験は、いつの間にか王国の魔導史を揺るがすほどの異常事態へ変わっていた。
そして――誠が作り出した規格外の魔法が、今まさに発動しようとしていた。
この試験で誠の正体が徐々に明かされるのだった。
つづく。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
第三試験、まさかの魔法陣まで規格外になってしまいました。
誠本人は「ちょっと使いやすくしただけ」のつもりですが、周囲からすると完全に別次元の魔法です。
果たして誠は、自分が何者なのか知ることになるのか。次回もお楽しみに
『天才なのに勘違いすぎて凡人疑いされる』
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