第7話 気まぐれ指数
題名の気まぐれ指数は星新一先生の作品です。珍しい長編小説です。
「それではイノセントシスターズのお二人です、どうぞ!!」
テレビ番組の司会者である大福金時が案内した。マッシュルームカットにでっぷりした体系で、ぴちぴちのタキシードに赤い蝶ネクタイの中年男性だ。
女性アシスタントの落花生美と一緒だ。こちらは20代の女性でウェーブのかかった長い髪に赤いドレスを着ていた。
ここは豆類テレビのスタジオで、SNSで人気の歌手を紹介する番組だ。カラフルなセットに他のゲストが座る椅子が並んでいた。ゲスト席には赤毛のツインテールの少女、レベッカ・チェンが座っていた。
イノセントシスターズは双子の歌手で、黒いゴスロリドレスを着ている美少女だ。胸は大きいが股間に一物がある。彼女たちは男なのだ。 吊り目で黒髪のツインテールが似合っている。
「はーい! イノセントシスターズの増村真弓でーす!!」
「妹の千夏でーす!! 今日は天からこぼれたOdysseyを披露しまーす!!」
国にそびえてる、死刑台の影の裏~。
首が飛んだなら~、窓を閉めて見なよ~。
石畳に、首が転ぶ~、処刑人の足音~。
助からないさ、僕は罪人~。パンを盗んだだけでも~。
でも逃げたよ、家族の犠牲で~、みんなの無念を晴らすよ~。
天からこぼれた~、オデッセィ~。
優しい演奏に優しい歌声だが、歌詞は割と物騒である。深夜アニメ、虐げられた市民はすごいスキルに目覚めて復讐して皇帝になるよの主題歌だ。
SNSでは耳に優しい演奏と、歌詞のギャップが受けていた。
二人が歌い終わると観客席からパチパチと拍手が起きる。二人はぺこりと頭を下げてゲスト席に座った。
「最後はこの人!! SNSでは新興宗教と言わんばかりのカリスマを持った女性!! ビッグバンプロに電撃入所したこの人!! 小鳥遊りなさんだーーー!!」
大福の紹介で出てきたのは茶髪のポニーテールに、巫女服をセクシーに改造した衣装を着ていた女性だ。年齢は22歳ほどで、笑顔を浮かべているが、どこか胡散臭いものを感じる。美人なのだが本当にこの世に存在しているのかと疑いたくなるほどだ。生成AIで作成されたCGと言われても信じてしまいそうである。
「はーい! 小鳥遊りなですぅ!! 今日はデビュー曲、甘えていいよを歌いまーす!!」
なんでこの世は、つらいのよ~。
学校、仕事に、人間関係~。
人付き合いが、めんどくさい~。I don’t like everyone~。
でもみんなわたしが、受け入れてあげる~。
やなこと、みーんな、わたしのものだよ~。
甘えていいよ~、You can lean on me~。
逃げてもいいよ~、You can lean on me~。
みんなみんな、わたしにまかせて~。
私が世界~、I am the world~。
ポップな演奏に甘い声が心地よかった。大福と落花はスマホを手にする。今の曲をダウンロードしているのだろう。レベッカとイノセントシスターズも同じだった。よくあるスピード感あふれる甘い曲だが、りなの歌声だと薬物中毒のようにはまりそうであった。
さて演奏が終わるとゲストのフリートークの時間になった。SNSで活動した歌手たちがいろいろ語っている。レベッカの番になった。
「レベッカさんの令和金色夜叉はなかなかのものですね。今の時代に金色夜叉なんて知りませんよ」
「私も知らなかったね。動画サイトでたまたま笠置シヅ子と堺駿二のモダン金色夜叉を見て、思いついたのさ」
「今はSNSでなんでもわかりますからねぇ。世代の差など曖昧になってきましたよ」
大福は感心していた。次にイノセントシスターズの番になる。
「いや~、お二人の歌は最高ですね~。SNSでは大人気ですよ。生で聞く迫力には敵いませんね~」
「ありがとうございま~す」
「でも一位を取ったことはないんですよね~。この歌もベスト9位止まりですし」
「いやいや、一年前の曲は今でもベスト10位をキープしているじゃないですか。極端には売れてないけど、じわじわ売れてるってすごいことですよ!!」
謙遜するイノセントシスターズに対して、大福はそんなことはないと否定する。事実彼女の歌は世間では有名だ。爆発的ヒットはしてないが、一度聴いたら忘れられない、癒しの曲だ。
次にりなの出番になった。
「りなさんの曲も最高でしたよ。収録中なのにあなたの曲をダウンロードしちゃいました!!」
「ありがとうございます!! 私の曲を気に入ってくれて嬉しいです!!」
大福の言葉にりなは玉を転がすような声で答えた。ぶりっ子に見えるが嫌味に聞こえない。お母さんが赤ちゃんに子守唄を歌ってあげるような感じであった。
「りなさんはビッグバンプロに入りましたが、なぜでしょうか?」
「なんか気に入っちゃったんですよね。これだって感覚でした」
「そうですか!! でもあそこはトップの柘植忠信がやめてしまい、売れ筋も離れていったんですよ。泥船に乗るようなものじゃないですかね?」
大福は失礼なことを言った。ビッグバンプロは歌手の柘植忠信が抜けてしまい、運営の危機だ。前社長は化石のような頭の持ち主で、メテオシャワーフェスの成功を認められず、株主総会で糾弾された挙句、辞任させられたのだ。そのために今はぼんくらの息子が社長になったが、経営は悪化する一方だという。そんな中でりなの入籍は事務所の危機を救ってくれたのだ。りなは救世主のようにあがめられ、社長は言いなりだという。もっともわがままを言うわけではなく、新米社長を指導して自信をつけさせて鍛え上げたのだ。その結果、ぼんくらから一皮むけた存在となったのである。
「私って数学が好きなんですよ。ビッグバンプロは確かに倒れかけでしたけど、頭をひねればすぐに建ちなおせると数式に出たんです。逆にシャイニングプロこそ沈みかけた泥船ですね」
突然りなはシャイニングプロの悪口を言い始めた。あまりに唐突なので大福は驚いていた。慌てて生美がフォローする。
「いきなりですね。シャイニングプロは世界的歌姫であるりかを引き抜いたのですよ? SNSではセイレーンは金を産むガチョウをただで渡したお人よしと馬鹿にされてますが」
「いいや、芸能関係者の間では、シャイニングプロこそ、イノセントシスターズを手放した愚者と言われてますよ。りかさんの場合は確かに世界的に有名になったけど、出す曲はどれも似たり寄ったりで、数年で消えるとか言われてますね」
大福が言った。あまりに露骨すぎる表現だが事実だ。大福はあまり売れていない芸能人だが、業界のことは記者並みに詳しいことで有名だ。レベッカとイノセントシスターズは顔をしかめる。レベッカは元同僚を馬鹿にされたと思っていた。
「そうなんですよ。りかさんの歌はどれもデビュー曲のだっせぇよに似ているんですね。今のままだと初期のファンはついてきても、新規の人はつきにくいと思います。それは彼女が私と同じく、心に闇を抱えているためですね」
「闇、ですか? りなさんとは縁がなさそうに見えますが。SNSでは宗教にようにカルト人気がすごいじゃないですか」
「宗教法人ではないから、その呼ばれ方は不本意ですね。私たちは同じ祖父、雀野親土の孫なのですよ」
りなの言葉にスタジオは静寂に包まれた。だが生美が突っ込んだ。
「雀野親土っといったらカルト教団の教祖じゃないですか!! あなたはその孫なのですか!!」
「血の繋がりはないですけどね。祖父母が雀野さんにお世話になっただけです」
「まずいですよ!! カルト教団と少しでもかかわりがあると、芸能界では致命的ではないですか!! あなたは自分が何を言っているのかわかっているのですか!!」
りなの告白に生美が激しく問うた。その表情は険しくなっている。スタジオの中が熱気に包まれていた。観客席でもざわついている。
「だが法律では問題はないな。演歌歌手の横川尚美さんが、幼少時に暴力団の幼馴染がいただけで、批判されたことがあった。実際は芸能界に入った後に、その幼馴染が暴力団を作ったんだけどね。今の日本は本人と関係ないのに、無理やり結び付けて非難する。これは大問題ですよ」
「そうなんですよ。祖父母も教祖にお世話になっただけで白い目を向けられたそうです。日本人は弱い者いじめが好きというより、全体主義の影響か危険分子を集団で排除しようとしてますね。でも私は負けませんよ。そもそも事務所は私の過去を知ってて採用してますから」
「ですがりかさんのことを口にするのはどうかと思いますよ。彼女に迷惑がかかると思わなかったのですか?」
大福はりなを非難した。自分一人ならともかく、りかを巻き込んだことはまずいと思ったのだろう。
りなは平然な顔をしていた。
「だからこそ私たちは協力するべきなのです。なので私はりかさんとのコラボを希望しますわ」
それは爆弾発言であった。一方でレベッカとイノセントシスターズは冷静なままだ。りかの過去はある程度知らされていたからだ。
「りかちゃん、大丈夫かな……」
「意外に大丈夫かもしれませんよ。だってシャイニングプロに移籍していますし」
「国府田社長は無能に見せかけた有能な人です。りかさんを全力で守ると思いますね」
真弓と千夏は自信満々に言った。レベッカもりかがセイレーンにいたままなら、事務所の周辺が騒がしくなると思った。電撃移籍はこのためではないかと疑っていた。
「というか、りかさんと私たちのトレードはりなさんの進言なんですよね」
真弓の言葉にレベッカの目は丸くなった。
「社長の性格をよく理解してましたね。なんでも自分は数学者だから計算の結果だと言ってました。事実、移籍の件でもりなさんの進言通りに事が運びましたから」
「いや、ここで言っちゃダメだろ」
「だからこそ、このタイミングでしょうね。セイレーンにはママもいますから」
レベッカが千夏に突っ込んだが、カメラは三人を捕らえていた。SNSでは大騒ぎになったのは言うまでもない。りなの気まぐれ指数に振り回されたと思った。
収録が終わった後、りかにメッセージを送る。SNSでの炎上騒ぎは言うまでもないが、なんでもいきなり柘植忠信と密会することになったと返信が来た。過去に指定暴力団の三門会に闇営業した過去がある歌手だが、なぜ彼がりかと密会を望んだのか。それはレベッカにわかるわけがなかった。
大福金時は大福豆と金時豆です。
落花生美は落花生をもじりました。
柘植忠信は漫画家のつげ義春先生と、先生の作品、ねじ式の映画に出演した浅野忠信さんがモデルです
。
天からこぼれたOdysseyはダ・カーポの空からこぼれたstoryの替え歌です。
I don’t like everyone.はみんなが好きなわけじゃないという意味があります。




