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第6話 たくさんのタブー

 たくさんのタブーは星新一先生の作品の題名です。

 なんで星新一縛りにしたかは、自分でもわかりません。

「そもそも私は横川尚美先生に命令されて、キツネ御殿を内部崩壊させる工作員でした」


 豆類《ずるい》テレビのスタジオで、烏丸《からすま》りあは司会者に説明していた。彼女は白髪頭でパーマをかけており、見た目は老けこんでいる上品な淑女だ。

 彼女の右隣には演歌歌手の横川尚美《よこかわ なおみ》が座っている。赤毛のパーマに赤渕眼鏡をかけた70歳の女性だが、肉が盛り上がっていた。りあより頭一つ高い。左にはマッシュルームカットで黒縁眼鏡をかけた男が座っている。全体的に丸く、青い背広を着ていた。

 司会者は50歳ほど男性で炭庫豆男《たんく まめお》といい、小柄で黒髪のオールバックだ。笑顔がさわやかであり、声も女性声優が少年を演じるような声質であった。タキシードに赤い蝶ネクタイをしている。


「工作員ですか。それって何歳から始めていたのですか?」


 豆男がりあに質問したが、尚美が代わりに答えた。


「5年前だよ。私がキツネ御殿をやめる前だね。そもそもりあが社長をそそのかして、私をクビにするように仕向けたのさ」

「そうなんですか? でも社長の木常崑崑《きつね こんこん》氏は半世紀近く芸能界の荒波を乗り越えた強者《つわもの》ですよ? りあさんのような小娘に騙されるとは思えません」


 りあは小娘呼ばわりされたが反論せず、うんうんとうなづいた。それを横の男がフォローする。芸能記者の大角十六《ささげ じゅうろく》だ。


「普通はそう思うよね。でも木常崑崑氏はただの銭ゲバ老人でした。インタビューしたときも金自慢ばかりで自分は横川さんを見出した素晴らしい存在だと威張ってました。正直キツネ御殿を動かしていたのは彼ではなく、横川さんでしたね。晩年は自宅に引きこもり、金勘定で一日を過ごしていたという噂がありました」

「それは本当ですよ。正確には電気をつけずにろうそくに火を灯してましたね。さらにろうそく代が嵩むと嘆いていました。金が減ることに対して異常なまでに固執してましたね」


 りあが補足する。そもそも彼女が番組に出演したのは、理由がある。豆類テレビに謎の告白文が送られたのだ。それは烏丸りあの素性を明かした代物だった。普通ならスクープと称してワイドショーで盛り上げるところだが、豆類テレビは横川尚美と懇意であり、彼女と連絡を取り、りあと交渉して番組に出演してもらったのである。

 今のところ豆類テレビだけだが、いつ他のマスコミが嗅ぎつけるかわからないので、りあはすべてを告白しようと思ったのだ。


「現在のあなたは北村りあですよね。周りの人はどう思っていますか?」

「みんな知ってますよ。なんならキツネ御殿時代から知ってます。表ではわがままし放題の馬鹿女を演じ、裏では根回しをしてましたね。事務所の役員たちは社長のイエスマンに見せかけた協力者たちでした」

「すごいですねりあさんは。歌も演技もパッとしないダメ女と言われたのが信じられません。あなたこそ名女優にふさわしいと思いますね」


 りあの言葉に豆男は感心していた。確かに目の見える芸能活動ではりあはわがまま放題の馬鹿女だった。番組やCMの土壇場でのキャンセルなどお手の物、楽屋裏では共演者とひと悶着を起こすのが当たり前だった。さらに先輩である秋本美咲《あきもと みさき》を毛嫌いしており、彼女の嫌がらせに執着していたという。


「美咲先輩はシナリオがありました。いつも先輩に対して嫌がらせをしていましたが、全部先輩の指示です。本当は心苦しかったですが、もっと激しくやれと注意されたほどですね」

「それを今の今まで隠し通してきたからすごいですね。そもそもりあさんのことは豆類テレビに送られた告白文から知りましたが、そうでなければ誰もあなたを烏丸りあと気づかなかったでしょう」

「でしょうね。ですがその告白文は謎が多いですよ。なんで豆類テレビさんだけなのでしょうか? 各マスコミに送ればテレビや雑誌で面白おかしく盛り上げていたでしょう。それが謎ですね」


 豆男の言葉にりあは疑問を投げかける。


「確かにそれは言えますね。私は横川先生に恩義があるので本当の事しか書きません。なので出版社から嫌われてフリーになってしまいました。まあ、今は尚美ファミリーの記事をネットで書いて稼げてますから、先生に対して足を向けられませんね」

「横暴な上司に注意しただけなのにね。恩と言うほどではないだろう」

「その後、世間の付き合い方を教えてくれたじゃないですか。私の性格を吟味して。おかげでフリーでも活動できてます。今はひとり出版から本を出してますが、佐鰭田町の書店で限定発売できてます」


 十六は尚美をほめたたえた。


 ☆


「お姉ちゃん大丈夫かな……」


 りあの妹、烏丸りかは自分の家のリビングで、テレビを見ていた。彼女はソファーに座っており、後ろにはマネージャーの齋藤柴陽《さいとう しょう》が立っている。りかの向かいには佐野マリ子が座っており、背後にはマネージャーの佐藤遊歩《さとう ゆうほ》が控えていた。


「大丈夫だろう。あの子は昔から度胸があるからな。一見生意気そうに見えて、計算に入れているからな」


 マリ子が答えた。りかも姉のことを信頼していた。


「けどあれが本当の烏丸りあなのか……。バラエティでは暴言を吐きまくったいけすかない女だったけどな」

「あの人、わざと大御所に喧嘩を売っては、怒らせてましたよ。でもきょとんとしたことはなかったです。最初から計算していたのがわかりました」


 紫陽のつぶやきに遊歩が補足した。


「だが奇妙な点があるね。なんであいつの弁慶の泣き所を叩かないんだろうねぇ」


 マリ子が腕を組みながら言った。りかはすぐに察した。烏丸姉妹は30年前に殺害されたスパロウ教団の教祖、雀野親土《じゃくの ちかど》の孫なのだ。カルト教団の孫と分かれば世間は憎悪するだろうし、マスコミも一斉に叩くだろう。


「それはなんだ?」

「内緒だよ。女には人には言えない秘密を幾つも抱えているのさ」

「そりゃま、そうだ」


 紫陽は質問したが、マリ子ははぐらかす。さすがにりかも自分の秘密を易々と暴露していない。


「横川尚美で思い出したけどねぇ。30年前、スパロウ教団が借りたマンションで、半ぐれが3人襲撃して教祖を含む13名が殺害されたのさ。なんでも尚美に宣伝を依頼したのに断られたから、拉致監禁して殺害するって噂が持ち上がっていたね」


 唐突な話題の振り方だが、りかに対してだろう。紫陽と遊歩はそんなことがあったのかと驚いていた。


「けどスパロウ教団は宗教と言うより、人生相談の一面が強かったのさ。教祖は数学者として有名だった。さらに右手は蛭のように相手の血液を吸い取る体質があったそうだ。そいつを使って信者を増やしたそうだよ。なんでも10万人近く入るって話だ」

「それなら教祖が殺されたとき、騒がなかったのですか?」

「一切そんなことはなかったね。そもそも信者と言っても自分のことを心の中で思い出してください。決して自分に何があっても騒がずにいてくださいと一人ずつ説明したらしいね。毒ガス製造や弁護士一家殺害は教団と一切か変わりがないんだ。教祖は主犯と大学時代の同級生で金儲けの仕方を教えただけらしいね。まあ、マスコミは視聴率のためだけにスパロウ教団を邪悪なカルト教団に仕立て上げたのさ」


 マリ子が吐き捨てるように言った。りかたちは当時のことは知らないが、相当荒れていたのだろう。マスコミは視聴率向上主義だ。事件が起きれば面白おかしく演出し、人のことなどお構いなしである。

 現にりあの件もSNSでは批判が殺到しており、ホテル北村に泊まるなとネガティブキャンペーンを展開させていた。もっともホテル北村側は脅迫した相手を訴えている。他のテレビは後出しで特集をしているが、悪意に満ちた編集を行っており、批判が殺到していた。


「さらに言えば教祖は身内のいない子供を集め、ハーレムを作り、男女問わず食い散らかしているって話を聞いたことがあるな。でもそれはでたらめだよ」

「どうしてそんなことがわかるんですか?」

「教祖は性的不能者でね。教団を立ち上げる前からそうだったらしい。これは検察が調べ上げたことだ。教祖の血筋は一切残っていないんだよ」


 マリ子の話を聞いてりかは首を傾げた。自分は雀野の孫ではなかったのか。だがマスコミは教祖の身内や血筋を探し出し、徹底的に叩こうとしていた。しかし教祖は教団と関係のない人間に金儲けのやり方だけを教えて恵まれない子供を育ててきた。りかも祖母の優佳《ゆか》から聞いただけだが、詳しくは知らない。ただ祖父のことで思い出したことがある。りかが物心ついた時には故人で、写真以外知らなかったが、祖父は雀野と顔が似ていた。大学を出ており、数学者として有名だったそうだ。


 マリ子は世間話の体でりかに教えているのだろう。例え烏丸姉妹が雀野の孫だとしても血縁関係はない、ただの言いがかりになる。前の事務所ではりかの素性が明かされた場合の対策は練っていた。だがシャイニングプロはまったく何も言っていない。恐らくりかの素性を調べたが、問題ないと判断されたのだろう。普通ならカルト教団の孫というだけで引退させられてもおかしくはない。


 マリ子の話は当時検察が調べ上げたことだろう。しかし、マスコミはそれでは面白くないので知らないふりをしたらしい。当時の信者は怒り狂い、マスコミに対して間違った情報を発信したことで訴訟が起きたそうだ。もちろん訴えた側は自分が信者ではなく、マスコミの間違いを正すという意味で行動したらしい。その中には最近政治家として復活した西山清志《にしやま きよし》も混じっており、総理大臣時代はメディアに対して規制をする法案を出したらしい。それ故にマスコミに嫌われたそうだ。

 芸能界はたくさんのタブーであふれていると思った。


「雀野は不思議な人だな。いったい何をしたいんだ?」

「なんでも自分が死んでも、自分のひ孫が新たな神として降臨するとか、言ってたらしいね」

「でも実子は一人もいないんだろ?」

「自分が世話した子供たちは、実子のように可愛がっていたそうだよ。もちろん自立精神を鍛え、独立できるように育てていたんだ。雀野と関わった人間は、彼を父親のように慕っていたそうだよ。自分の子供も雀野の子供みたいに思っているらしいね」


 紫陽の疑問をマリ子が答えた。それを聞いてりかはお腹をさする。中には西山清志の息子の命が宿っているのだ。血縁がないと言っても長年信じてきたものを割り切ることはできない。言葉は呪いだ、人を縛る鎖だ。自分の作る歌も呪いだとりかは思った。

 炭庫豆男は豆タンクを意識しました。外見はなべやかんさんを意識してます。

 大角十六はジュウロクササゲという豆から取りました。外見はイジリー岡田さんです。

 豆類テレビ関係は豆に関する名前にしようと思いました。

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― 新着の感想 ―
 こんばんは、御作を読みました。  作中の闇が臨場感があるのが怖いし――  りかちゃんはりかちゃんで、自分の歌をある種のやばいものと認識しているのか。  ハラハラしますが面白かったです。
なんかこう……うまく言えないけど「芸能界ミステリー」っていう読みごたえがすっごくあるお話でした(*^.^*)読んでいて楽しいですね(*^.^*)o
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