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第一話 にぎやかな部屋

 題名のにぎやかな部屋は星新一の作品から取りました。

「りか、体の具合は大丈夫か?」

挿絵(By みてみん)

 金髪で日焼けした二十代前半の男が、気遣うように声をかけた。彼は白い背広を着ている。ここは芸能事務所セイレーンが所有する寮だ。寮と言っても佐鰭田さびれた町の住宅街にある古びた一軒家をリフォームしたものである。死にかけた家も改築することで生き返ったのだ。

 所属タレントの烏丸からすまりかは以前セイレーンの事務所に住んでいたが、セイレーンは駅前の新築ビルに引っ越しており、現在は所属タレントや事務員が暮らすようになった。

 部屋はベッドに机、本棚にタンスと女性にしては殺風景な部屋であった。りかはきれいに髪を整えている。以前はぼさぼさだったが、母親になるには不潔すぎるということで、髪を毎日梳かしていた。部屋着は黒と白の縞々模様のルームウェアを着ている。

 部屋では歌が流れている。イノセントシスターズの『笑ったり、歌ったり』が流れていた。シャイニングプロ所属の双子のデュオで、テレビドラマの主題歌になった曲だ。ゆったりしたテンポと独特の演奏でテレビを見た赤ちゃんが泣き止むという現象が起きた。ランキングでは初登場の際に10位を取った。一年過ぎているが常に10位を維持している珍しい曲だ。聞いていると落ち着くのでりかは気に入っている。


 金髪の男は齋藤柴陽さいとう しょうで、新しく入ったマネージャーだ。りかの地元に住んでおり、名臣大学に入学して、セイレーンに就職したのだ。

 彼は金髪だが染めているわけではない。彼の父親は白人系のアメリカ人で、母親は日本人だ。父親が日本のオタク文化に惚れてしまい、日本に帰化したのである。青い瞳が特徴的だ。

 彼は美形で女性にもてているが、みんな自分の外見ばかり見ており、中身を知ったら気持ち悪いと言わんばかりに逃げ出してばかりだ。彼は父親と同じオタクなのだ。アニメは毎週欠かさず見ているし、漫画も書籍にこだわり、ゲームもパッケージ版を購入している。さらに限定版を率先して購入していた。

 二人は結婚して籍を入れている。もっとも結婚式は挙げてないし、名ばかりの結婚だ。お腹の子供を私生児にさせないための処置である。なのでりかは齋藤りかなのだが、芸名はりかなので関係ないし、知人には烏丸で通っている。


「まだ3カ月よ。そんなに苦しくはないわ」


 りかがなんでもないと言わんばかりだ。。柴陽とは4歳年下だが、12歳の頃、りかが河川敷で歌っているところを彼が偶然に聴いて、それ以来りかに惚れたのである。柴陽は学校でボカロ曲研究会という部活をしており、彼女に才能があると見込んだのだ。ちなみにセイレーンでは3人マネージャーを雇ったが、全員柴陽と同じ部活動の仲間である。


「そんなこと言うなよ。何が起きるかわかったもんじゃないぜ。まったく、お前を傷ものにしておいて自分は仕事に逃げるから、あいつは最低だよ」


 忌々しそうに言った。あいつとは前のマネージャーである岩佐康いわさ やすしの事だ。現在は西山の姓になっている。彼は所属タレントを守るために体を張り続けてきたが、あまりにも度が越しているため、解雇された。セイレーンの社長である秋本美咲あきもと みさきと結婚した後、政治家である父親の秘書となり、活躍しているのだ。康は給料の一部をりかに送っている。そもそも康は趣味らしい趣味はなく、金は貯まっており、それをりかに渡しているが、彼女はそれに手を付けていない。出産や入院費に使う予定だ。そもそも彼女自身大金を使う趣味がなく、録音に必要なパソコンと機材に使っているが、事務所に入ってからは経費で購入していた。


「あれは私が無理やり誘ったのよ。むしろ康さんは被害者だわ。私は他の男の子を産むんだから、諦めてくれてもいいのに」

「お前は誰の物でもない。お前の才能に惚れているんだ。俺はお前を世界一の歌姫にしたいんだ」

「でも、りかちゃんはすでに世界一になったけどね」


 二人の会話に割り込んだのは、小太りの男だ。全体が丸っこく、禿げ頭だが化粧をしており、どこか愛嬌があった。派手なひらひらのついたスーツを着ている。マネージャーの一人、高橋充たかはし みつるである。彼はオカマであった。


「そうだな。某アニメ映画では劇中歌のCDが世界一売れている。もう夢は叶ったと言えるだろう」


 次に入ってきたのは恰幅の良い、髪の毛が腰まで伸びた大男だ。身長は180センチ近いが、実は女性である。よく見れば胸は膨らんでいるし、腰も括れている。マネージャーの足立留美子あだち るみこだ。ブラウン色のスーツを着ているがパツパツである。まるで男性プロレスラーのようで立ち振る舞いも武人のように堂々としていた。三人ともりかとは6年以上の付き合いがある。


 ずいぶんにぎやかな部屋になった。

 りかが担当した主題歌は世界中で売れた。アニメ映画自体が有名であったが、歌自体が売れていた。恐らく何十億という金が動いている。ネット記事ではりかはシンデレラガールと呼ばれているが、彼女は幸運ではなく実力で富を得たので、紫陽はそれに不満を抱いていた。


「まさかあの曲が売れるなんてね。まあアニメの方が有名だからそっちに便乗して売れたんじゃないかしら?」

「それはないわね。りかちゃんの歌は何度聞いてもいいもの。売れて当然よ」

「一度聴いたらやみつきになる。スルメみたいな歌だな」


 りかは謙遜しているが、充と留美子は手放しに褒めた。そもそもマネージャーが三人もそろうのは珍しい。美鶴はデスメタルバンド、すべてにおいてファックユーを担当しており、留美子は玄姫くろひめやすむと花菱奏はなびし かなで、ナンシー・キャリー・ブラウンを担当していたのだ。

 ちなみに柴陽はりかとレベッカ・チェン、石原玲花を担当しているが、りかにばかり構っていた。


「お前らは仕事が一区切りしたのか」

「ええ、次のライブの打ち合わせは終わったわ。最近、地元でバイトできないほど仕事が増えて喜んでいるわよ。誰かさんと違って」

「こちらも主に動画配信が中心だが、地方公演も多い。そちらの調整も終えて一休みしている。誰かさんと違ってな」


 充と留美子は柴陽を皮肉った。彼はりかにばかり気にかけており、レベッカと玲花はほぼノータッチであった。それでもマネージャーの仕事はきちんとこなしてある。二人には仕事が適度にこなしており、小中学校や老人ホームなど、福祉施設の公演が多かった。


「しょうがないだろう。りかは妊娠中なんだ。ほっとけるかよ」

「男のあなたにできることなんてないでしょう? 女性スタッフもいるんだからそちらにまかせなさいよ」

「いや、見知らぬやつとりかを一緒にはできないだろ!!」


 柴陽の発言に充はやれやれと首を振った。柴陽は昔からりかを特別視しているのだ。自分は外見ばかりで中身がない、充は作曲の才能があり、留美子は動画作成の才能があった。自分にできるのは営業で口八丁で売り込むのが使命だと思っている。


 現在のセイレーンの社長は石原克己いしはら かつみで、玲花の叔父だが、放置している。元々柴陽の性格を把握しており、レベッカと玲花なら一人でできると判断していた。


「柴陽さんは過保護すぎるわよ。私一人でも問題ないのに」

「だが過保護とも言いにくい。りかは今じゃ世界的な歌姫だ。顔出しはしていないが、ばれてもおかしくない。以前町でも歌ったことがあっただろう? それにこの町に住んでいることもばれてる。いつ誘拐犯が来てもおかしくないからな」


 これは本当であった。以前なら秋本美咲のアンチが嫌がらせに来る程度だったが、セイレーンは今では芸能界で飛ぶ鳥を落とす勢いがあった。美咲は引退する前にDROPOUTの映画に出演することが決まっているし、やすむもライブだけでなく、発表した曲はミリオンセラーになっている。すべてにおいてファックユーは国内より、外国の方で人気があり、数か月後に海外でコンサートを行うほどであった。

 実は周辺住宅ではセイレーンが雇ったボディガードで固められている。実際は元半ぐれの女性ばかりだが、美咲の鉄拳によって改心させられたのだ。終着駅のある園田町で女神のゴッデス フィストという女性専門総合格闘技団体があり、彼女らはそこの所属選手だ。園田町の廃校になった小学校を買い取り、そこの体育館で興行をしていた。動画配信も行っており、セイレーンのメンバーも参加しているので割と有名だった。

 

「レベッカは総合格闘技というより、喧嘩が強いんだ。玲花も空手を嗜んでて普通の不良より強い。なんでも女は強くなくてはならないという信条があるらしいな」


 柴陽は感心していた。男と女の体格差はあるが、急所を責められたら男でも倒されるだろう。


「でも相手が武器を持っている可能性が高いからな。普段からモップやすりこ木など日常品を武器に変えて戦う方法を教えているらしい。さすがだな」


 留美子は感心していた。りかもある程度護身術を教えてもらったが、レベッカたちより強くない。


「そうだわ、今面白いものを見つけたの。ほら」


 充はポケットからスマホを取り出した。そしてSNSを見せる。茶髪で腰まで伸びており、巫女服を改造した煽情的な衣装を着ていた。どことなくりかに似ていた。

 今流行のホーク教団の教祖で、名前は小鳥遊たかなしりなとある。笑顔を浮かべているがどこか薄気味悪いと思った。人間味を感じさせない無機質な人形に見えた。


「宗教か。胡散臭いな」

「若者では流行しているみたいよ。でも人を攻撃したことはないの。心の中にりなを住ませ、穏やかに暮らすようにってね。なんでも奇跡を起こすみたい」

「奇跡なんかトリックだろう。今の世の中じゃ、信じる奴も多いだろうな」


 充のスマホを見ながら柴陽は呆れている。SNSでは特定の政治団体に加担し、騒ぎ立てる輩が多い。自分の不幸は政治が悪いせいだ、今の総理大臣は辞職しろと叫びまくる。人間として浅ましいものがあった。りかも売れているため、悪女呼ばわりされていた。才能のない人間がいるのに、才能のあるりかは人間のクズで、男に媚びる男様など罵詈雑言がひどかった。有名人は有名税で人格攻撃しても無罪になると信じているのだ。りかはその手のネガツイはスルーしている。


「それが彼女に限って、その手の誹謗中傷がないのよね。SNSもやってないし、口コミで信者が増えているみたい。もっとも宗教法人はしてないから正確には宗教とは言い難いけどね。しかもビッグバンプロに所属すると言っているし」


 充が言った。りかは黙って聞いていたが、宗教と聞くと、自分の祖父である雀野親土じゅくの ちかどを思い出す。自分は出会ったことはないが、カルト教団の教祖として有名なのはネットで調べていた。姉のりあからは指定暴力団の三門会みかどかいと懇意の半グレたちが、雀野を含めた信者を殺害したという。もう過去の人だ。それ以前に親土はマスコミによってテロリスト扱いされた被害者だとネット辞典に書いてある。自分には関係ないと思っていた。

 ちなみにビッグバンプロは大手の芸能事務所だが、稼ぎ頭の歌手が引退し、80代近い社長が急死したりと急激に落ちぶれていった事務所だ。


 しかし運命は容赦なくりかを巻き込むのであった。

 高橋充と足立留美子は漫画家の高橋留美子先生とあだち充先生から取りました。

 小鳥遊は烏丸と雀野と鳥繋がりで作りました。

 イノセントシスターズのモデルはハンバートハンバートで、笑ったり転んだりがモデルです。

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― 新着の感想 ―
 こんばんは、御作を読みました。  新作ですね>▽<  なかなかにかっとんだホットスタートで驚きました。  りかちゃん、歌はうまいんでしょうが、取り巻く状況が――  ハラハラしますが面白かったです。
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