66、祭りの裏で
三日間の祭りが終わり、冒険者ギルドには、普段なら出入りするはずのない人物が足を運んでいた。
ペルグに対して、頭を下げるが、それに何ら意味を持たないことをペルグは理解していた。
ただ、それ以上にペルグを驚かせたのは、サスタの両側にネルとアンネロッタの姿があったからだ。
「ペルグ殿、この二日に渡り、商業ギルド職員への護衛、心より感謝しております」
「冒険者ギルドの本部指示だ。特級依頼として遂行したまでだ。感謝される慈善事業じゃねぇ。それと何が本当の狙いかだけ教えろ、サスタ・クローシア」
ペルグの声にサスタは下げた頭をあげると、自然な笑みを浮かべる。
「狙いだなんて、我は正直に話しておるだろう? ただ、グラードの発展と新たな繋がり、それによりこの街が皆に知られることを目的に奮闘したまでじゃ」
「そんな言葉を、信じろってか? いい人過ぎて、信じるより先に疑いしか出やがらねぇぞ!」
ペルグの言葉にネルがムッとした表情を向けるが、アンネロッタがそれを無言で制止させる。
「すまぬなぁ……ペルグ殿も知っての通り、妹弟子のネルは、感情で動いてしまうものでなぁ……本当に普段は止まらずに困ったものじゃ」
白々しいサスタの態度にペルグの表情が険しくなっていく。
しかし、サスタは何もなかったかのように会話を再開する。
「それよりも、ペルグ殿? 此度の祭りはどうだったかのう? 我としては上手くグラードに活気ある流れを作れたと思うのだがなぁ?」
「いちいち、殿なんてつけるな。サスタ、お前が何を考えてるか知らんが、この数日中に不穏な動きがあったことは、此方も把握してんだ」
「殿方に、敬意を示すのは本当に難しいことよなぁ……ならば、その言葉を甘んじて受けようじゃないか、それで、ペルグよ? 何があったというのかい?」
サスタは微かに口角を吊り上げ、試すような視線をペルグへと向ける。
「くっ、テメェの商業ギルドの人間についてだ……祭り終了と同時に、複数の前商業ギルドマスターだった、アバリシア・フラッハと関係が深かった奴らが姿を消してるな!」
鋭い視線をサスタへと向けるペルグ。
「そんなことか? ペルグよ、貴様は商人という生き物の見方を知らんようだな……商人とは、金に群がり、金を食い潰せば、次に向かう……まるでシロアリのような生き物なのじゃぞ?」
「随分な言い方だな。商業ギルドのギルドマスターとは思えねぇな」
「ふふっ……まだ分からぬか? これだけの人間がグラードの街に集まり、各々の生業について触れたのじゃ、当然……前ギルド長と繋がりが深い者は、今の状況に旨味を感じない者もでよう? 違うかい?」
ペルグは、サスタの返答に言い淀むと、サスタは立ち上がり、静かにカーテシーを行う。
「ま、待て!」
そんなペルグの言葉にサスタは無言のまま、背中を見せると歩き出していく。
その後、ネルがペルグに「またね〜」と笑みを浮かべて手を振りついていく。
最後にアンネロッタがサスタ同様にカーテシーを行うと小さく口を開いた。
「ペルグ冒険者ギルドマスター。妹弟子達が失礼したわね。でも、深入りはあまりオススメしないわぁ……女性には秘密があるものだもの……」
淑女としての綺麗な挨拶を終えるとアンネロッタも2人の後ろを歩いていく。
3人が退室するとペルグの拳がテーブルに“ダンッ!”という激しい音と共に振り下ろされ、室内に鈍い音だけが響いた。
「あの性悪女が! 綺麗事ばかり並べやがって」
冒険者ギルドの外に停められた馬車に3人が乗ると馬車がゆっくりと静かに動き出す。
馬車の中、サスタは小さく溜め息を吐いた。
「本当に細かい男だのぅ、冒険者ギルドのマスターなど、他の街ならば簡単に手中だというに……グラードの冒険者ギルドは厄介で嫌になるのぅ」
「サスタ姉は、本当にあのおじさんを困らせるのが好きだよねぇ? ボクちゃん的には、真剣勝負の方がいいと思うのにさぁ?」
ネル:真剣勝負なら、前の引き分けもなくなって、ボクちゃんの圧勝だろうからねぇ。
そんなネルとサスタに、アンネロッタが笑みを向ける。
「2人は相変わらずみたいねぇ……口調もだけど、淑女としての振る舞いを忘れたのかしらぁ? あらあら、そうなら、一から教え直さないとかしらぁ?」
その後の馬車は静かになり、サスタとネルはアンネロッタの顔色を伺いながら、商業ギルドへと戻っていく。
商業ギルドに到着すると、すぐにサスタは自室に向かって歩いていく。
「ネルよ。もう契約の三日間は終わりじゃ、最後に欲しい品は、本当にもうよいのか?」
「そうか、ボクちゃんの仕事は終わりだねぇ。欲しい物は全部貰えたから大丈夫だよぅ。沢山お土産ができたし、アシミーちゃんの似顔絵もいっぱい描いたんだよ! ほらぁ! 上手いでしょう」
サスタにその場で描いたアシミーの絵を嬉しそうに見せるネル。
「角か? 笑ってる牛──」まで口にした時、アンネロッタが会話に割って入る。
「可愛いわねぇ。素敵な笑顔だわぁ。素敵なプレゼントになったのねぇ」
「うん! アンネロッタ姉。ありがとう」
嬉しそうに、はしゃぎ出すネルと、言葉を飲み込んだサスタにアンネロッタは優しく微笑む。
そうして、ネルは昼前の商業ギルドから宿屋に向かって帰っていく。
商業ギルドのマスタールームで、向かい合うように椅子に腰掛けたサスタとアンネロッタ。
防音の魔導具を発動させるとサスタが口を開いた。
「ネルは本当に我らの妹弟子としては、甘すぎると思いませんか、アンネロッタ姉様?」
「私は思わないわぁ? 淑女には、慈愛の精神が大切だもの……生きるすべての存在に平等に接するネルは本当に尊いわぁ」
「そうですか……まぁ、仕事はきっちりと行ってくれたので我としては問題ありませんが」
「そうねぇ……コウモリを処分するだけの簡単な仕事だったものねぇ。裏切る子は悪い子だもの……しっかりと始末が出来たら、良かったわね」
「えぇ……そうですね。ネルは、本当に焼却まで徹底してますから、ある意味誰よりも真面目に仕事をこなしますからねぇ」
「私は今回、あまり役に立てなかったわねぇ? ネルが居ない時だけの護衛だったのもあるけど、申し訳ないわぁ」
アンネロッタの言葉にサスタが首を左右にゆっくりと動かす。
「アンネロッタ姉様は立派でした。商業ギルドから盗みを働こうとした、害虫をしっかりと処理して頂き、更に夜空に花を添えて頂いたのですから」
「褒めすぎよ。私はただ、ダメな悪い子に栄養を注いで、空に放り投げただけよ。綺麗な花が咲くように願ったのは事実では、あるけど……魔力を詰めすぎて目立ってしまったわね」
「大丈夫ですよ。魔導具ギルドから預かっていた“花火”という、炸裂型の魔導具をその後に打ち上げました。祭りの夜が更に盛り上がりましたからね」
「そうだったわね。魔導具ギルドの品物はすごいわねぇ。この防音の魔導具も本当に驚いたわ。悲鳴が綺麗に消えるんだもの。私、感動したわぁ」
「魔導具ギルドには、表向きは祭りの情報が漏れないようにと、我が依頼したのですよ」
「あらあら、依頼してからの時間を考えると、魔導具ギルドのマスターさんは優秀なのねぇ」
「そうなりますね。あとは犯罪に使われた際の調査用として、無音を無効化できる魔導具も作らせる予定ですよ。まぁ、数は要りませんから……我らの分だけで終わらせますがね……」
「あらあら、悪い顔になってるわよ? でも、活き活きしてるサスタは可愛いわぁ」
そうして、商業ギルドではサスタとアンネロッタの話に花が咲く。
2人が二日目に何をしたのか、ネルが何をしたのかは、誰の耳にも届くことはなかった。
ただ、商業ギルドから、老害達が消え、新たな商人達が加わった事実だけがすべてを語っていた。




