65、祭りの終わり。
三日間に渡るグラード初の複数ギルドによる祭りが終わりを迎えた。
打ち上げの席に呼ばれたアシミーが解放されたのは、夜中であり宿屋についたアシミーは、ベッドに吸い込まれるように眠りについた。
朝日が室内を照らし始めていく。
ネル:あはぁ……アシミーちゃんたら、可愛い寝顔だなぁ。ボクちゃんの元気の源だよぅ……毎日戻ってくるのは大変だったけど、やっぱり辞められないもんねぇ。
ネルはその日も、前日同様にアシミーを起こさないように宿屋へと戻ってきていた。
しかし、アシミー本人はその事実に気づいていなかった。
ネルは眠るアシミーの顔を見ながら、祭りで見つけたお土産にアシミー用と分かるようにアシミーの似顔絵を紙に描いてはそれを貼っていく。
ネル:今日もアシミーちゃんの顔が描けたぁ。うねうねの髪の毛も綺麗に描けたし、バッチリだね。
「アシミーちゃんの触腕髪って、難しいけど、角みたにしたら、身長伸びたように見えるよねぇ……笑顔に髪の毛を足して……へへ、アシミーちゃんの完成だね」
新たに描いた絵を貼り、満足するまでアシミーを眺めたネルは、アシミーを起こさないように宿屋を後にする。
ネル:アシミーちゃん。プレゼントを開けてなかったけど、今日の絵は満面の笑みにしたから、絶対開けてくれるよね。早く夕方にならないかなぁ……
朝日がアシミーの瞼を照らし、大きく伸びをしながら目覚めるアシミー。
「……物が増えてるじゃない……いつ帰ってきたのよ」
アシミーの手に拳が作られ、わなわなと小刻みに震え出す。
「しかも、満面な笑みの牛だし! 私は牛なんか大嫌いなんだからァ! ネルのバカァァァ!」
朝から大声で叫んだアシミーは、その足で冒険者ギルドへと向かう。
祭りが終わり、片付けが開始された大通りは、祭りとは違う賑やかさがあり、アシミーはそんな人々のやり取りをゆっくりとした足取りで覗いていた。
「本当にあっという間の三日間だったなぁ……」
アシミーは笑い合う人々の様子を見て、ゆっくりと下を向いて歩いていく。
アシミー:なんか、楽しそう……せっかくの祭りだったのにさぁ……ネルは私より、サスタさんを選んだんだよねぇ……はぁ。
「あ、アシミー先輩! おはようございます」
元気な声でアシミーに挨拶をしたのはメームだった。
「あら、メームじゃない? 治療師ギルドの方はいいの?」
「はい。昨日までは、治療師ギルドも、民間で使える癒しのマッサージとか、岩盤の熱を利用した治療方法の説明会なんかをしてましたが、本日からは通常営業になりましたので」
明るい表情で、三日間の治療師ギルドでの業務を説明するメームにアシミーも自然と笑みがこぼれ出していた。
「すごく大変だったのね? 治療師ギルド側は見に行けなかったけど、見とけばよかったわ……残念ね」
「祭りを楽しめなかったんですか? 私は夜に冒険者ギルドのある通りを見ましたよ。ビッククロー串がすごく美味しかったですね」
「ビッグクロー串ね。ふふ、冒険者だと、あまり珍しくなかったんじゃないの?」
「そんなことないんですよ……私みたいな回復職が必要になるパーティーは、新人さんか、ベテランさんの二択ですから……新人さんには、ハードルが高いですし、ベテランパーティーだと、魔物を調理したりしないで宿屋の食事になりますからね」
メームの話をアシミーは楽しそうに聞いていた。
アシミーは、小さく呟いた。
「私なんかより、ずっと冒険者ね。今の私は、牛にすら負けそうなのにさぁ……はは」
「う、牛ですか? なんですか……凶悪な魔牛みたいなやつがいるんですか?」
「違うは……笑顔の牛よ……満面のね」
「よ、よく分かりませんが! アシミー先輩は、そんな牛なんかに負けないですよ! 今から時間とか大丈夫ですか!」
力強い声でそう問われたアシミーは不思議そうにメームの顔を凝視する。
「あ、あるけど? それがどうしたの……」
「よかったです! 今すぐに治療師ギルドに来てください!」
そうして、アシミーはメームに手を引かれ、目的地を治療師ギルドへと変更する。
依然に入院していたため、治療師ギルドに到着したアシミーを治療師ギルドの職員達は暖かく迎えてくれた。
「やあ、いらっしゃい。アシミーさん。今回はどうされたんですか?」
そんなアシミーへのギルド職員からの質問に、メームが慌てて答える。
「すみません。まだ、昨日のイベントに協力してくれたメーコはいますか? いたら、アシミー先輩に会わせてあげたいんです!」
ギルド職員は優しく微笑んだ。
「ああ、メーコさんなら、まだ裏でお迎えを待っていますから、会えますよ。お昼迄はいますから、どうぞ」
ギルド職員からの許可が降りると、2人は治療師ギルドの裏手にある中庭へと移動していく。
中庭では、数人の子供達と、1人の女性が日向ぼっこをしており、和やかな雰囲気が広がっていた。
「すみません。メーコに会いにきたんですが?」
メームがそう言うと、女性がゆっくり歩いてやってくる。
「お客様ですか? 皆さん、お勉強は後にしましょう。病室に戻って休んでくださいね」
子供達が女性の声に返事をすると、中庭から治療師ギルドの建物に移動していく。
その場に残ったアシミーが女性に挨拶をしようとすると、メームに女性が声を掛ける。
「メーコさんでしたね。すぐに呼びますから、少し待っていてくださいね」
アシミー:あの人がメーコさんじゃないの?
そうして、女性が戻ってくると、アシミーは目を疑った。
「はい、連れてきましたよ。乳牛のメーコさんです」
そこには大きな雌牛がいた。
優しそうな顔の牛を前にアシミーはメームに視線を向ける。
「さぁ! アシミー先輩、牛さんは怖くありません! メーコさんとコミュニケーションを取ることで、動物からの癒しの力を感じてください!」
アシミーは言葉を失った。
アシミー:なんでそうなるのよ! なんで牛なのよ!
「あ、あの……メーム、私は大丈夫よ……」
そう口にするアシミーにメームは、静かに近寄るとアシミーの手をしっかりと握る。
「大丈夫です。アシミー先輩、たしかに最初は怖いとか、苦手とかはあります。でも、全部慣れていけます! 私もたくさん、ぐちゃぐちゃな傷を治して、色々な経験をしましたから」
アシミー:キラキラした目で、なにを言い出してるのよ!
メームの勢いに押され、アシミーはメーコの頭を撫でていく。
魔物の肌とは違い、すべすべとした質感を感じたアシミーは、不思議そうに自身の手を二度見する。
「アシミー先輩。どうですか、メーコさんは、可愛いでしょ? 気性も大人しいおっとりさんなんです!」
その後、アシミーとメーコのふれあいタイムは続き、昼前になると、最初にメーコを連れてきた女性が昼食を運んでくる。
チーズとハムが挟まれたサンドイッチに、牛乳とサラダ、ヨーグルトに果実を和えたものが並べられていく。
「アシミー先輩、苦手は食べて克服です。この料理に使ってるチーズとかは、牧場でメーコさんのミルクを使って作った食品なんですよ。食べてみてください」
「そ、そうなのね?」
アシミーはその日、人生で最高のチーズと牛乳を口にした。
そうして、牧場からメーコの迎えが来ると、アシミーは大きく手を振り、後ろ姿を見送っていく。
アシミーはメームに感謝をすると同時に、お土産として、チーズと牛乳を買ってから宿屋に戻るのだった。
その後、戻ってきたネルに牛乳を手渡すアシミーの姿があった。
「はい、牛が好きなんでしょ……美味しかったから、牛乳を買っといたわよ」
「え? 牛乳? ボクちゃんは、ステーキも牛乳も大好きだけど、アシミーちゃんが、一番大好きだよぅ〜」
メモに描かれた絵がアシミーだと、説明されるまでアシミーの勘違いは続いたが、2人は牛乳を飲みながら笑った。




