62、グラードの祭り2
次の日、外から射し込む朝日がアシミーを自然と目覚めさせていく。
アシミー:そっか、メームと食事をしてから、宿屋の前で……上機嫌に飲んでたアイシャ達に捕まったんだっけ……
周囲を確認するアシミー、その場所が冒険者ギルドにある職員用の仮眠室である事実に気づくと、盛大に溜め息を吐いていく。
冒険者ギルドで朝を迎えたアシミーはフロア側へ向かい、酒場側のカウンターで、水を貰い一気に飲み干していく。
外からは早朝にも関わらず、複数の声が聞こえてくる。
1人はペルグの声だった。
「調達班は、すぐに食材を屋台側の台車に積み込め! 運送班も気合いを入れろよ!」
外に様子を見に向かったアシミーは目を丸くする。
そこには複数の魔物達が並べられており、次々に台車へと積み込まれていたからだ。
「ビッグクローの解体を急がせろよ! 絶対にジャイアントクローの肉と混ぜるなよ! 味が別物だからな!」
「ペルグさん。ストーンスライムの皮も洗浄終わりました!」
「ペルグさん。オークとホーンラビットの解体もできやした!」
次々に解体と洗浄を終えた魔物達が食材として並ぶ光景は、商業ギルドでも簡単には、お目に掛かれない光景だった。
冒険者ギルドが用意した食材は、冒険者からすればポピュラーなものだが、逆に一般人からすれば、オークやホーンラビット以外の食材は珍しいものばかりであった。
・ビッグクロー──大鴉とも呼ばれ、焼き鳥用。
・ホワイトウルフ──とにかく、冒険者に焼肉として認識されている魔物。弾力強め。
・ロックスライム──コアを破壊すると弾力のある皮を残す。フライパンで焼いて肉やジャムを挟み、クレープにして食べられている。
・バトルアップル──種を高速で飛ばしてくる植物系の魔物。種をすべて吐き出すと大人しくなる。酒につければ一時間で果実酒ができる。生では食べられない。
・アクアフロッグ──冒険者の中には、アクアフロッグの唐揚げこそ、最強なり! と豪語する者がいるくらい人気な食材。基本は冒険者が楽しむ食材。
その他、オークにホーンラビット、ボアと魔物を見るだけでも楽しめてしまいそうな光景が広がっていた。
「フルーツヴァイパーの蛇酒と、果実酒も瓶に移してから運べ、間違っても作り方を晒すような真似はするなよ!」
ペルグの指示に酒場側の職員達も気合いを入れていく。
冒険者ギルドの酒場は、本来、冒険者用であり、一般の客は出入りしない。
その為、冒険者ギルド独自の漬け酒と呼ばれる酒が作られており、作り方や素材の細かい情報は秘匿されている。
朝の賑わいが目まぐるしく過ぎていくと、アシミーはメイド服に着替えていく。
「アシミー、アタシ達は基本、商品の説明と食べ方を教えたりする係だから、あとは呼び込みもあるけど、頑張ろうね」
アイシャからの声掛けにアシミーは頷くと、担当する数件の屋台を確認していく。
既に賑わい出し、アシミーはそんな空気に圧倒されながら、冒険者ギルドの通りを訪れた人々に商品の説明を行っていく。
「すみません? このロックレープってなんですか?」
そんな女性からの質問にアシミーは笑みを浮かべながら、説明していく。
「こちらは、冒険者のパンケーキなんて呼ばれたりもします。一枚は薄いんですけど、何層に重ねてもフカフカな食感のままで、ジャムや果実を巻いて食べたり、肉を巻いたりして食べるんですよ」
そうして、ロックレープが次々に売れていくと、次に別の屋台からも呼ばれていく。
アシミー:すごい人の数ね……いっその事、看板を作った方が早かったんじゃないかしら。
そんな考えを巡らせていると、屋台にサスタ、ネル、アンネロッタ3人がやってくる。
「おぉ、アシミーではないか。随分と可愛らしい格好をしておるな。なんなら、我の傍でメイドとして雇いたいくらいじゃな」
サスタの発言にネルが慌てて、割り込んでいく。
「ダメだよ! サスタ姉でも、アシミーちゃんをメイドなんてダメだからねぇ! ボクちゃんと冒険に行けなくなっちゃうじゃないかぁ!」
そんな会話に、今度はアンネロッタがクスクスと笑う。
「あらあら、貴女はすごく妹達に人気なのねぇ。聞いてて、私まで嬉しくなってしまうわぁ、お近づきの印に、そのロックレープを三つ頂こうかしら?」
「あ、はい。ありがとうございます。ロックレープ三つお願い」
アシミーがそう言うとすぐに、屋台から焼きたての商品が手渡されていく。
「アンネロッタ姉様? 我の分は別に?」
「あら? サスタちゃんたら、私が一緒に食べたいと思ったのに、嫌だったかしら?」
「サスタ姉が食べないなら、ボクちゃんが食べてあげるよぅ!」
「食べぬとは言っとらん! ネルは、食い意地を抑えよ。まったく……アンネロッタ姉様、有り難くいただきます」
3人のやり取りに、アシミーは驚いていた。
普段、絶対強者の雰囲気を纏っていたサスタが、敬語を使い、更に頭を下げたのだ。
「おっと、すまぬな。我は冒険者ギルドのギルドマスターであるペルグ殿に商業ギルドのギルドマスターとして、挨拶に来たのだよ」
「ペルグさんにですか? でしたら、冒険者ギルドで、まだ指示をしてると思いますけど?」
「そうか、我としても、冒険者ギルドがこれ程に協力してくれた事実に礼をしたくてなぁ。他のギルドにも出向くが、最初は冒険者ギルドにと決めて来たのだ」
サスタはそう口にすると、ロックレープを食べながら、冒険者ギルドへと3人で歩いていった。
「アシミーちゃん! またね。あと、すごく似合ってるよ。可愛すぎてびっくりだねぇ。あはぁ」
3人が冒険者ギルドに向かっていく。
そうして、祭りは次第に賑わいを見せて、更に冒険者ギルドのオークションも開始されていく。
初日からの賑わいに、食材調達班が慌てて、街の外に魔物狩りに向かう場面もあり、アシミーは苦笑いを浮かべる。
ただ、アシミーは狩りや討伐以外の形で、冒険者ギルドが纏まることに微笑みを浮かべていた。
「ふふ、なんでかしら……最初は、乗り気じゃなかったのになぁ」
「それが祭りの魅力だよね。いい顔してるじゃないか。アシミー」
後ろからの声に振り向くと、片手に果実水を手にしたアイシャが笑って差し出してくる。
そんなアイシャの片手には、樽ジョッキがしっかりと握られている。
「仕事中よ?」
「アタシ達ドワーフからしたら、水と変わらないよ。あはは」
豪快に笑って見せるアイシャ。
「さっき、サスタさんと、ネルが来たわ。冒険者ギルドに挨拶だって」
「そうなんだね? サスタ会長も律儀だねぇ。しかし、ネルと2人きりで行動なんて、アシミー同様にすごいねぇ?」
「もう1人、サスタさんのお姉さんもいたから、ネルが何かしないか心配だわね。アンネロッタさん、大丈夫かなぁ」
アシミーがアンネロッタの名前を出した瞬間、アイシャが酒を盛大に吹き出していく。
「ゲホゲホッ……ア、アンネロッタっていったのかい!」
焦った表情でアシミーの肩を掴むアイシャ。
「え、えぇ……」
「マズいかも! アタシ、見てくるよ!」と、アイシャが口にする。
「何がマズいのか? 我にも分かるように教えてもらえるか? ギルドの受付嬢よ?」
アイシャはサスタの声にゆっくりと振り向き、その後、謝罪をすることで問題にはならなかった。
ただ、アイシャの驚いた際の表情を前にアシミーだけが、笑いをこらえるのに必死だった事実は秘密である。




