61、グラードの祭り1
冒険者ギルドに戻ったアシミーは、すぐにアイシャの元に向かう。
「あれ、アシミー? 早かったじゃないか、ネルはどうしたんだい?」
「あ、うーん? ネルなんだけどさぁ……」
アシミーは、ネルが商業ギルド側に参加すると、アイシャに伝えていく。
驚くアイシャだったが、逆に何かを思いついたように悪い笑みを浮かべる。
そんな笑みにアシミーは、直感で後退り、方向を変え、走り出そうとする。
しかし、そんなアシミーの手は、がっしりとアイシャに掴まれる。
「逃がさないからね……アシミーが、一人行動のこのチャンスは逃さないから!」
「嫌よ、アイシャがそういう目をしてる時は、絶対にろくなことにならないんだからぁぁぁぁ!」
その後、アシミーの抵抗も虚しくアイシャに掴まれた手は振りほどくことが出来ず、最後には冒険者ギルドの職員用出入り口から奥の部屋へと引っ張られていく。
複数の女性職員に囲まれたアシミーは観念したように抵抗をやめると、アイシャが嬉しそうに笑う。
「観念したみたいだね? なら、冒険者ギルドのために一肌脱いで貰おうかなぁ」
「何をさせる気よ?」
諦めながらもアシミーが質問をすると、アイシャが他の女性職員達に合図をする。
そこには、可愛いデザインの服が幾つも並べられ、アイシャが腕を組んでアシミーに選ぶように告げる。
「な、なによ。これ! どこのメイド服よ! こんなフリフリした服なんか着ないわよ」
「まぁまぁ、頼むよ? どう頑張っても売り子が足りないんだよ。こんな可愛い服をウチの男連中に着させられないしさ」
アシミー:たしかに、ギルドの冒険者がこんな服着てたら、笑うより、気分が悪くなりそうだけど……
「それと、私が着るのは話が違うでしょ! それにメームとか、他にも女性冒険者はいるでしょ!」
「あはは……治療師ギルドと掛け持ちの子達は、そっち側メインで手伝いに行っててさ、女性冒険者で一番この服が似合うのがアシミーなんだよ。頼むよ、アタシ達も着るからさ」
必死に抵抗していたアシミーだったが、アイシャが目の前で、用意された服に着替え、それに続くように女性職員達が着替え出すと、諦めたように服を手に取る。
「今回だけよ……絶対に今回だけなんだからね! あと、額を隠せるように、布は巻かせて貰うからね」
「それは構わないよ。なら、話は決定だから、早く着替えてよ。すぐに出店の用意とかの段取りが渡されるはずだからさ」
そうして、メイド服に身を包んだアシミー達は、冒険者ギルドのフロア側に移動する。
アイシャを含め、ギルドの受付嬢達がメイド服を身に纏っている事実に冒険者達は歓喜に包まれる。
アシミー:なんで、私がこんな服を着ないとならないのよ……もう。
「よ! アイシャさん! 綺麗だぜ! 胸は残念だけど!」
「アシミー似合ってんぞ。可愛いじゃねぇか!」
「ウチのギルドの花形がメイド服なんて、いいセンスしてるぜ!」
男性冒険者達の言葉に受付嬢達が頬を赤らめる中、アイシャが前に出る。
「さぁ、アンタ達! ペルグさんからも言われたと思うけど、揉め事は無しだよ! 冒険者ギルドの本気を商業ギルドの新マスターに見せつけて、頭下げさせるよぅ!」
「「「うおぉぉぉぉぉ!」」」
そうして、冒険者ギルドは指定された街の中心地へと向かう。
大通りから、複数の通路で繋がれた広場が祭りのメイン会場になる。
そこから、各ギルドに繋がる通りがギルドの出店スペースとなる。
普通に考えれば広すぎるスペースだが、各ギルドは、それぞれに自由に出店が可能となっている。
・商業ギルド
・冒険者ギルド
・治療師ギルド
・薬師ギルド
・鍛治ギルド
・魔導具ギルド
メインになるであろうギルドが立つ通路以外は一般人に開放されており、出店したい者は、商業ギルドに一日、大銅貨10枚で出店可能になっている。
更に普段から屋台を出している者に関しては、参加料を不要としている。
商業ギルド主催の祭りとあって、商業ギルドに名を連ねる商人や取引き先からも一般枠で参加することになる。
祭り前日の段階で露天商や、屋台、ギルドからの店舗を見ようと人々が集まり、既にグラードは賑わいを見せ始めていた。
普段は冒険者が泊まらない高い宿屋にも、商人達が泊まり、安宿にも、近隣の村からも噂を聞いた人々が押し寄せていく。
普段と違う賑わいに、アシミーは驚きながら、準備の為に【鋼糸】を作り、木の柱を縛ってはテントを縛り付ける。
「すごいわね……グラードって普段から、人はいる方だと思ってたけど、いつもの倍以上じゃない」
「それは、言い過ぎだってば、でも、アシミーの言う通りだね。アタシもびっくりだよ」
アイシャがそう言いながら笑う。
「そういえば、アイシャ? 冒険者ギルドは何を売るわけ?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 冒険者ギルドは、魔物肉の屋台と、ギルドに溜まってる素材販売、あとは使わない武器とか、持ち主不明の武器のオークションかな?」
「それって、大丈夫なの? 魔物料理って、冒険者の野営の時に食べるやつよね?」
アシミーが不安そうに質問を口にするとアイシャは笑った。
「だからいいんだよ。普段食べれない冒険者料理だからね。味は……まぁ、食材の味を楽しむ感じだろうけど、なんとかなるだろうからね」
「そうかなぁ……でも、私は料理って、やっぱり苦手だからさぁ」
アシミーの発言にアイシャが言葉に悩むと、静かに口を開いた。
「ア、アシミーは、売り子さんだから、販売に専念してよ。ちゃんと料理担当は決めてるからさ……」
アイシャ:さすがに、売り物をアシミーには作らせられないよね……塩だらけとか、味がやばいからなぁ。
複雑な表情を浮かべながら、アシミーがアイシャを見る。
「そうなのね。なら、良かったわ。私、少し大味になりやすいからさ」
そうして、屋台の準備は着々と進んでいく。
夕暮れの鐘がグラードに響く頃には、各ギルドの屋台が各通路に広がり、一般開放された通路では、商人達が使用人に見張りをさせ始めていた。
その日の作業が終わり、アシミーは普段の宿屋に戻る。
テーブルには、ネルからの置き手紙があり、アシミーは目を通していく。
『アシミーちゃんへ、泊まりでサスタ姉のお仕事をすることになりました。ごめんよ。ボクちゃんはアシミーちゃんが大好きだよ。寂しくて泣いたらダメだよ。アシミーちゃんのネル』
「もう、いきなりすぎて、なんにも言えないわね。ご飯、どうしようかなぁ」
ぽつりと呟いた声が小さな宿屋の室内から消えていく。
歓楽街に続く道を1人歩くアシミー。
アシミー:なんか、1人でこの道を歩くの……すごく久しぶりだなぁ。
静かに食事をする店を探していたアシミーに、背後から声が掛けられる。
「あれ? アシミー先輩じゃないですか。1人なんて珍しいですね」
声を掛けられ、振り向いた先には回復職として、冒険者ギルドに所属しているメームの姿があり、不思議そうにアシミーを見ていた。
「傷の具合は大丈夫ですか。治療師ギルドから退院してから、心配してたんですよ」
「メーム。心配ありがとう。あなたこそどうしたの?」
「あ、ご飯を食べようかと。治療師ギルドって、ご飯が質素でして、手伝うのは構わないんですけど、冒険者ギルドで冒険者をしているせいか、食べ足りなくて」
「なら、私と一緒に食べない? 私もお腹が空いてるから、奢ってあげるわよ」
「いいんですか! アシミー先輩、ありがとうございます!」




