60、ギルドの掲示板。出会いは突然に
指輪騒動から数日が過ぎた冒険者ギルド。
朝から、クエスト探しに来る冒険者達の中にアシミーの姿があった。
アシミー:普段は朝のクジ引き以外は空いてるはずなのに、なんで今日に限ってこんなに人がいるのよぅ。
普段の冒険者ギルドからは想像できない数の冒険者達の姿に困惑するアシミーだったが、その理由はすぐに明らかになる。
冒険者達の前に姿を現した存在に一同が黙り、賑わいが嘘のように静まり返る。
視線の先にはペルグが立っており、落ち着かない冒険者達を一瞥して、軽く溜め息を吐く。
「ったく、テメェらは、普段は昼まで寝てやがる癖に、こんな時ばっかり、朝っぱらから集まりやがって?」
アシミー:私は普段から、早朝にいるから対象外よね? 今の言葉は他のみんな宛てね。普段からしっかりしてる私を見習うべきだわ。
「それに、アシミー? お前さんは、普通にクエスト探しに来たみたいだが、その様子だと、ギルドの依頼ボードの他に掲示板を見てねぇだろ?」
いきなりの名指しに、ギルド内の視線が集まり、アシミーは、小さく頷いた。
「はぁ、まぁいい。いいか、今日から三日間は、冒険者ギルドの祭りだ! 他のギルド連中に遅れをとったら承知しねぇぞ! いいなぁ!」
「「「おおぉぉぉぉっ!」」」
ペルグの掛け声に冒険者達が一斉に声を出し、気合いを入れていく。
状況が未だに理解出来ていないアシミーは、周囲を見ながら慌てていた。
その様子を見ていたアイシャがアシミーを手招きする。
アイシャ:ありゃ、間違いなくわかってないな……普通に掲示板を確認すりゃいいのに、アシミーって変に真面目なのに、抜けてるんだよなぁ?
「アイシャ、あ、あのさ……ギルドで祭りって何よ、去年はそんなのなかったじゃないのよ」
小声で尋ねるアシミーにアイシャが1枚の紙を取り出して、カウンターに置くと、指を数回“トン、トン”と、紙に向けて叩いて見せる。
アシミーは、指さされた紙に視線を向けていき、内容に驚くと同時にアイシャに視線を移す。
「いや、アタシを見てもなんにも変わらないからな? まぁ、そういうことだから、よかったら冒険者ギルドに協力してよ」
紙に書かれていた内容は、各ギルドによる合同の祭りを開催するといった、目を疑う内容だった。
「グラードの街にある全部のギルドが参加するの?」
「いやぁ、全部じゃないね。なんせ、主催が商業ギルドだからねぇ、仲の悪い錬金術士ギルドとか、魔術師ギルドなんかは、不参加みたいだからよ」
「商業ギルドって、あのギルドマスター、アバリシアギルド長の? なら、なんで冒険者ギルドが参加するのよ……」
「そりゃ……商業ギルドのマスターが変わったせいだろうねぇ、因みに新しいマスターは、あのサスタ商会の女会長だからねぇ」
アシミーは、早朝のギルドで何度目になるか分からない驚きを顕わにしていた。
アイシャは、その後、前商業ギルドのギルドマスターであった、アバリシア・フラッハが指名手配され、更にグラードから逃亡した事実を伝えていく。
ギルドマスターが不在になった結果、グラードの商業ギルドの関係各所は大混乱になると思われたが、サスタ商会から、王都にある商業ギルド本部に『グラードの街を助けたい』と話が持ち込まれていた。
最初こそ、渋っていた王都の商業ギルド本部だったが、サスタからの献金と多額の寄付を受けて、グラードの商業ギルドマスターの座を承認する形になったのだ。
「まあ、こんな感じらしくてさ。アシミー、話についてきてるかい?」
「なんとか……でも、なら尚更、商業ギルドの企画したそれに、冒険者ギルドが参加するのか分からないんだけど」
「まぁ、一種の取引きだね。サスタ商会が商業ギルドの頭になる訳だから、当然蜂蜜の採取依頼は減ることになるんだ。でも、サスタ商会から祭りに参加すれば、継続して依頼を出すってさ、上から目線だよね」
「そんな理由で、ペルグさんが許可したわけ?」
「そんな訳ないじゃんか? 商業ギルドからは、祭りの貢献度で、依頼時の特別報酬の上乗せを条件に出してきたのさ、しっかり煽り文句付きでね……」
拳を作りながら、悔しそうに語るアイシャにアシミーは何も言えなくなっていた。
「まぁ、話はわかったわ。一度、ネルと話して来るから、また来るわね」
「わかったよ。冒険者ギルドの出し物については、昼から話があるから、三日間の祭りっていっても、今日は準備、明日、明後日の二日間が本番だからね」
アシミーは冒険者ギルドを出るとすぐに宿屋へと走り出した。
アシミー:本当にいきなりすぎるんだから、掲示板なんて、普段見ないから知らないわよ。まったく。
大通りを走るアシミーの横を馬車がすれ違った瞬間、大声が叫ばれる。
「アシミーちゃ〜ん!」
足を止めたアシミーが馬車に振り向くと、車内から上半身を乗り出したネルの姿があった。
「ネル?」
「やあ、冒険者ギルドに居ると思ってたのに、走ってどこにいくんだぁ〜い?」
不思議そうに質問するネルにアシミーは溜め息混じりに返事をする。
「ネルに話があったから、急いで宿に戻るところだったのよ」
「そうだったんだねぇ?」と、ネルが口にしたタイミングで馬車の扉が開く。
馬車から降りてきたのは、黒と金の刺繍の入ったドレスに身を包んだサスタだった。
「久しいのぅ。具合は大丈夫なようだなアシミーよ。元気そうで何よりじゃ」
「サスタさん。ど、どうも……」
「そう怖がるでないぞ? 我でもお主に嫌われるのは、ちと悲しいからのぅ。その様子だと、アシミーは冒険者ギルド側に参加かい?」
「え、まぁ……冒険者ギルドの冒険者なんで」
「それは残念じゃなあ、妹弟子共々、我が商会と商業ギルドに協力して欲しかったものを……仕方ないのぅ」
「え、ネルは冒険者ギルドの所属で……」
「所属の前に、我の妹弟子じゃからな? それに本人も納得しておるしな」
アシミーがネルに視線を向けると「ごめんよぅ」と、返事が返される。
「まぁ、そういうことじゃから、お互いに祭りを楽しもうではないか。記念すべき最初の“総ギルド祭”にしようぞ」
そう語ったサスタとネルを乗せた馬車は、大通りを駆けて見えなくなっていく。
1人、その場に残されたアシミーは放心状態になっていた。
周囲を行き交う人々がアシミーを避けるように歩いていき、アシミーの時間だけが停まってしまったようにすら感じる。
そんなアシミーに前方からよそ見をしながら、走ってきた少年が盛大にぶつかる。
一瞬のことで、バランスを崩したアシミーだったが、ぶつかった少年とアシミーの両方が地面に転ぶことはなかった。
アシミーと少年の身体を軽々と支え、地面に倒れるのを防いだのは、あろうことか細身の女性であった。
控えめな濃いグリーンドレス姿の女性にアシミーが慌てて立ち上がり、頭を下げる。
少年も頭を下げると、他の少年達と一緒に駆け出して行ってしまった。
「あらあら、元気なのねぇ? 男の子は元気が一番だものねぇ……貴女は大丈夫かしら? 考え事をしていたみたいだけど?」
優しい声色の女性、優しい笑みを浮かべながら、アシミーへと問い掛ける。
「あ、すみませんでした。いきなり色々あったせいで、ぼーっとしてて……」
「あら? 悩みがあるのは、素敵よ? 私は悩むことをやめてしまうことが多いから、羨ましいわぁ」
アシミー:悩むことをやめるって、逆にすごいと思うんだけど。
「そ、それじゃあ、本当にすみませんでした」
「いいのよぅ、私は、モルアナ・アンネロッタっていうの。妹に呼ばれて遊びに来たのよ。お祭りらしいから、また会えたらいいわねぇ」
「あ、私はアシミー、アシミー・ノークです。また会えたら、失礼します」
挨拶を済ませたアシミーは冒険者ギルドへと戻って行くのだった。




