59、ネルとアシミーの指輪探し2
木々の合間を枝伝いに移動しながら、ネルは逃げたジャイアントクローを追っていく。
必死に逃げるジャイアントクローは、ネルから逃げるために大空へと移動する。
しかし、ネルは同時に大空へと移動するような真似はしなかった。
ただ、それをジャイアントクローは諦めたと判断したのか、暫く夜の大空を旋回してから、移動を再開した。
ジャイアントクローは気づかなかった。
その背後から、ネルが今も追い続けていたのだ。
「ボクちゃんは、淑女だから、思い出しちゃったんだよねぇ……君たち鳥は、巣に沢山キラキラを集める習性があるんだよねぇ……」
小さく長い独り言、そんな呟きは巣へと戻るジャイアントクローには届かない。
そうして、ジャイアントクローが岩肌の洞穴へと入って行くのを確認したネルは悩まずに飛び込んでいく。
巣穴では、ネルの姿に慌てたジャイアントクローが攻撃をしようと向き直るが、既にネルからの攻撃が頭部に向けて放たれた後であった。
「さすがボクちゃん〜! 早くキラキラなお宝を集めて、アシミーちゃんにプレゼントしないとぅ、あはぁ!」
ネルが巣穴に入り、ジャイアントクローが集めた品を確認していく。
最初こそ、酒瓶に壊れた鉄甲、欠けたナイフに銅貨など、多種多様な品があったが、どれもガラクタばかりであった。
「嘘だろぅ! アシミーちゃんに頼んで、お留守番までして貰ってるのに……はぁ」
落ち込むネルは、仕方なくジャイアントクローを【煙縄】で包み込むとアシミーの元へと戻っていく。
暗闇の中を戻ったネルにアシミーが微笑みを向ける。
「遅かったから心配したわよ。無事で良かったわ」
「ごめんよぅ、ボクちゃんってば、巣の位置を確かめてたからさぁ、遅くなっちゃったんだよねぇ」
「そうなのね? 何か収穫はあったの?」
「残念ながら、なんにもなかったよ。これからどうしようか?」
ネルの問い掛けにアシミーは、少し悩むと返事を返す。
「一度、グラードに戻りましょう。もしかしたら、指輪も見つかってるかもしれないし、このジャイアントクローもギルドで換金しないと悪くなっちゃうもの」
2人はグラードに戻ることになり、夜の冒険者ギルドに三匹のジャイアントクローを持ち込んでいく。
夜の酒場がメインになった冒険者ギルドに持ち込まれた巨大なジャイアントクローに冒険者達は大興奮する。
すぐに夜勤の受付嬢が他の職員を呼ぶと裏へとジャイアントクローが運ばれていく。
その様子を見ていた冒険者達から、次々に声が掛けられる。
「なんだよ、アシミー! 復活早々にネルと魔物狩りか?」
「ネル、今回は普通にヤバいだけの魔物だな。いつも、そんなヤツだけ狩ってくれよ」
普段、指定などお構い無しに魔物を狩るネルへの言葉に、笑いが起こる冒険者ギルドにアシミーは、口をポカンっと開けていた。
アシミーの知る冒険者ギルドは、ネルを恐れ、忌み嫌うような雰囲気があるのが、当たり前だったからだ。
そんな驚いた表情のアシミーに仕事終わりに飲んでいたアイシャが手を振り、自身のテーブルへと招いていく。
「アシミー、お疲れ様だね。随分とヤバい魔物を持ち込んでるみたいじゃないか? 討伐依頼にあるか、後で調べてあげるよ」
そう言いながら、樽ジョッキをグイグイと飲み干すアイシャ。
「あ、ありがとう。それより、指輪は見つかったの?」
「それが、未だに連絡ないから、多分、まだ見つからないみたいだね。捜索パーティーも出先で休んでるんじゃないかなぁ?」
「やっぱり、私達と同じかぁ。あ、あと、なんでネルに冒険者の皆があんなに絡んでるわけ?」
アシミーからの質問にアイシャは追加の樽ジョッキを飲みながら答えていく。
「あぁ、そりゃ、毎日仲間のために必死に街を走り回って、元気になる方法や薬を探してたからね。仲間のために走れるヤツは、かっこいいからだろうさ、追加もう一杯ね!」
アシミーはアイシャの言葉にネルを見ると、恥ずかしそうに、変な口笛を吹いていた。
そんな普段見れない姿にアシミーとアイシャは笑っていた。
3人の元にギルドカウンター側から、夜勤の受付嬢がやってくる。
「お待たせしました。ジャイアントクローが三匹で、状態もいいので、二匹は合わせて金貨3枚、一匹は羽が切断されていたりと傷はありますが、金貨1枚の買取になります」
金額の説明をする受付嬢にアイシャが口を挟む。
「素材の金額が抜けてないか? あのサイズなら、嘴から爪まで全部の部位が買取り可能なはずだよ?」
アイシャの言葉に慌てた受付嬢がアタフタと手を動かすと、アイシャが立ち上がる。
「しゃあないね。アタシがやるから、見てなよ」
その言葉にアシミーが驚きを顕わにする。
「アイシャ、お酒飲んでたじゃない」
「え、アタシはドワーフだよ? 樽ジョッキの十杯くらいで、ミスなんてしないよ。水みたいなもんだからね。アタシを酔わせないなら、大樽で飲み放題くらいしないとね」
そう言いながら、アシミーとネルが持ち込んだジャイアントクローを査定するために裏の解体場へ向かって行くアイシャ。
同行するアシミーとネルに向かって、アイシャが確認するように声を掛ける。
「ねぇ、アシミー? 最後の一匹だけ、腹の中身を確かめてないみたいだけど、理由でもあるのかい?」
「ないわよ。いきなり襲われて迎撃したの、二匹は最初に襲ってきて、捕まえた時に私が開いてるわ。残りは、その後にネルが持ってきた分よ」
冒険者が魔物の腹を開くのには、幾つかの理由がある。
一つ、内臓類は腐敗が早く、鮮度が落ちるからだ。
二つ、胃袋に被害者に繋がる痕跡がないかの確認である。
この二つの理由から、冒険者達は、狩った魔物をすぐに解体し、必要な部位の剥ぎ取りをその場で行うことが多い。
今回はジャイアントクローをネルが運べると判断したアシミーが完全に解体していないだけで、アシミー1人なら、必要な部位だけを持ち帰るために解体していたことだろう。
「理由はわかったよ。なら、早速開くけどいいかな?」
アシミーとネルが頷くとアイシャは、ジャイアントクローの腹部にナイフを滑らせる。
中身は言うまでもないが、消化しかけの魔物の肉などであり、見るだけで食欲を失うような臭いが広がっていた。
「あちゃ、まぁハズレだね」
そう口にしたアイシャが苦笑いを浮かべると同時に、表側から受付嬢がアイシャの査定額を確認するためにやってくる。
「アイシャさん。すみません……結果はどうですか?」
「あぁ、金額は金貨もう1枚追加かな、見立ては悪くなかった、というよりも、最初の時点で甘すぎだから、気をつけてね」
「はい、本当にすみません……」
そうして、受付嬢がアイシャに謝罪する。
「まぁ、いいよ。アシミー達も、指輪探しのついでだろうからさ」
その言葉にアシミーとネルが頷く。しかし、1人だけ、表情を青くする。
「あ、あの……指輪って……」と、質問をしてきたのは、受付嬢だった。
アイシャも同様に「あ!」と、いった表情を浮かべる。
「今のは内緒だよ。ペルグさんに内緒で2人に頼んだんだよ、だから内緒で、頼むよ」
「あ、あの……ごめんなさい」
泣き出しそうな受付嬢が、1枚の紙を取り出して震え出す。
綺麗な便箋に書かれた文書を見たアイシャは、わなわなと震え出す。
内容は『指輪が見つかりました。鞄の奥にあり、冒険者ギルドの皆様には御迷惑をおかけしました。報酬はしっかりとお支払いします』と書かれていた。




