57、アシミーの目覚め。騎士の言葉と冒険者ギルド
ネルとアシミーがグラードの街に戻ってから、1週間が過ぎる。
長く眠ったままだったアシミーが目を覚まし、ネルは涙を流して喜んでいた。
「アシミーちゃん……良かったぁぁ。ずっと目覚めないかと思ってだよぅ」
ネルの泣き顔に呆然とするアシミー。
アシミー:なんで、ネルが泣いてるわけ? それに私は……
「ごめん、ネル……よく思い出せなくて、何があったか話してくれない?」
動揺するアシミーにネルはドゴール男爵領に向かった際の出来事を説明していく。
アシミーは話を聞いてから、途端に震え出し両手で自分を抑える。
「大丈夫かい、アシミーちゃん……どこか痛いなら、すぐにお医者さんを呼ぶよ?」
「大丈夫……なんだろう、急に生きてるんだって思ったら、震えちゃって……はは……」
最初こそ、動揺した様子のアシミーだったが、すぐに立ち上がると、両頬を自身で勢いよく叩き、深く深呼吸をする。
その様子にネルが逆に驚き、あたふたと手をバタつかせていたが、アシミーは真っ赤な頬のまま、笑みを向ける。
「気持ちを整理したから大丈夫よ。まずはギルドに向かうわ。ネル? 悪いんだけど、一緒に来てくれない? 嫌ならいいんだけど……」
「嫌な訳ないじゃないですかぁ! アシミーちゃんからの誘いなら、炎の草原や龍の巣だってついて行くよぅ」
アシミーとネルは、2人で冒険者ギルドへと向かう。
街中では、アシミーの姿を見て、屋台や商店、雑貨屋に八百屋からも、声が掛けられていく。
「お、アシミーやっと起きたんだなぁ!」
「あら、アシミーちゃん。良かったねぇ」
「これで、ネルの嬢ちゃんも無理難題を言わなくなるなぁ」
「だな! アシミーちゃんを目覚める野菜をくれとか、薬品を作れとかな、アハハ!」
賑わう街の人々の会話にネルが慌てるが、その様子を見て、アシミーも笑っていた。
歩き続けて、十分ほどで、冒険者ギルドに到着すると、アシミーの足が自然と固まる。
「あれ? アシミーちゃん、入らないのかい?」
「は、入るわよ」
アシミー:普通に入ればいいだけなのに、嫌に緊張するわね……
「大丈夫だよ。アシミーちゃん? ボクちゃんがいるからねぇ」
ネル:もし、アシミーちゃんをバカにするやつがいたら、ボクちゃんがしっかり教えてあげるんだぁ……おバカさんは、死んで生まれ変わらないと治らないもんねぇ。
満面の笑みを浮かべるネルの表情にアシミーは小さく頷くと、冒険者ギルドの扉を開いて中へと入る。
冒険者ギルドの中では、アシミーからすれば、見慣れない男達が掃除やクエストボードの貼り替えなどを行なっており、冒険者達とも楽しそうに雑談をしている。
「ネル……あれって、なに?」
「さぁ、ボクちゃんも、ギルドに来たのは数日ぶりだから、分からないやぁ?」
冒険者ギルドで掃除をしていたのは、ガーレンとその部下達であり、冒険者ギルドと揉めた後、ガーレン達はペルグに異議申し立てを行った。
結果、ペルグはそれを決闘という形で承認した。
その後は、ペルグとの一騎討ちが繰り返され、ガーレンに至っては敗北を認めないため、回復職の冒険者が必死に傷を癒していた。
しかし、十数回目の敗北と瀕死状態に追い込まれ、更にメームの魔力も限界を迎えようとしていた。
回復手段が失われ、幾度も向き合っているペルグはほぼ無傷という状況にガーレンが敗北を認める。
ペルグは「負けたなら、掃除から始めろ! それで全部チャラにしてやる」と約束したのだ。
最初こそ、反抗的だった騎士達もガーレンの真面目な態度に次第に素直に掃除などを行い、冒険者達も茶化すのをやめて、その作業を見守り、今のギルドの状況へと変化した。
アシミーは状況が理解出来ずに固まってしまうが、そんなアシミーにガーレンが明るい笑顔で声を掛ける。
「やぁ、冒険者ギルドに何か用かい、お嬢ちゃん?」
優しい声でそう尋ねるガーレン、しかし、アシミーの背後から、ネルが憎悪に満ちた視線を向けていく。
「ボクちゃんのアシミーちゃんになんの用なのさぁ!」
ネルの声を聞いたガーレンの目が見開かれる。
「き、貴様は、あの時の!」
「誰だぁ〜い? ボクちゃんの頭に君の顔なんて、記憶されてないんだけど?」
ガーレンの声に周囲で掃除を担当していた騎士達が立ち上がる。
「はいはい! そこまでにしなよ? ネルもガーレン側も、あんまり騒ぐとペルグさんがまた怒り出すよ?」
カウンターから、アイシャが仲裁に入る。
「アシミー、久しぶりだね。無事に復活したみたいで嬉しいよ」
「アイシャ、心配かけてごめんね。ただいま……っていうより、結局、この人達は誰なの?」
睨み合うネルとガーレン達を他所に、アシミーとアイシャは冒険者ギルドの酒場側のスペースに移動していく。
アシミーが状況を理解すると、ネルに視線を向け、真顔で口を開く。
「ネル? 聞きたいんだけど、いきなり殴ったの?」
真顔からの質問にネルが慌てて弁明をするが、再度同じ言葉をアシミーが口にすると、落ち込んだ様子でネルが首を縦に振る。
「だって、ボクちゃんと、アシミーちゃんを……ごっこ遊びみたいに言われたから……」
「ネル、私とネルは嘘の繋がりでいるわけじゃないんだから、次からは笑って言い返してやりなさい……その“親友”だって……」
最後だけ、照れくさそうに小声になるが、その言葉にネルがアシミーを抱き抱え、その場で回り出す。
「あはぁ! アシミーちゃんとボクちゃんはやっぱり、親友なんだよねぇ!」
「ネル、目が回るから、危ないからぁーーー!」
2人が喜ぶ中、ペルグが奥から顔を出す。
「ギルドは遊び場じゃねぇんだぞ!」
ペルグの声にギルドの雰囲気が一気に日常へと引き戻される。
「おい、ガーレン! お前達にも、本来の仕事があるんだろう?」
「あぁ、しかし、ペルグ殿……約束ではギルドのすべての掃除だと」
「はぁ、お前達を本来の仕事に戻してやれって、冒険者ギルド協会から言われただけだ。悪かったな」
ガーレン達は、ペルグの言葉に従うと着替えを済ませ、装備を整えると移動を開始していく。
立派な鎧姿に剣に刻まれた騎士団の刻印、更にアイシャからは調査団と聞いていたアシミーは固まっていた。
アシミー:ネル……なんて、連中に喧嘩売ってるのよ……
ガーレンがネルの横を通る際に「“ごっこ”と言った発言を許してほしい。済まなかった」と謝罪する。
ネルは笑いながら「親友だからね!」と返事をすると、ガーレンは頷き、そのまま冒険者ギルドを後にする。
そうして、冒険者ギルドは日常を取り戻していく。
本来の職務に復帰したガーレン達は、数日の間に溜まっていた調査内容に取り掛かり、商業ギルドへと向かっていくことになる。
その後、商業ギルドのギルド長であるアバリシア・フラッハの裏帳簿が見つかり、複数の関係先から証拠が発見され、アバリシアは罪人として、行方を探されることになる。
しかし、アバリシアを含む裏取引に関与したと思われる者達は、ドゴール男爵を含め、全員の消息不明という結果になり、調査団の調査範囲は広がり村や町を含むクラム王国全域へと広がっていった。
しかし、誰一人として、その後、アバリシアを含む罪人達を見たという証言が現れることはなかった。




