55、騎士達のミス、禁句の代償
冒険者ギルド、それは街の荒くれ者や、力に自信がある者達が、自身の力と知識を武器に実力ですべてを手に入れる場所だ。
少なくとも、ガーレンの中で冒険者ギルドとはそういった場所のはずだった。
ギルドへと入った瞬間、ガーレンと部下達は動きを止めていた。
「なんでさぁ! ボクちゃんがせっかくギルドに来てあげたのにさぁ! なんで蜂蜜採取に行ったらダメなんて言うのさぁ!」
「ネル、頼むって、アタシだって何とかしてあげたいけどねぇ? 昼から来て、勝手に狩場に入るのは無理があるって……」
カウンター越しに、ネルとアイシャが言い合いをしており、その周囲では、冒険者達が関わらないようにそっぽを向いている。
ガーレンは、その光景に苛立ちを感じながら、止めていた足を前に踏み出すと、ネルとアイシャが言い合いをしているカウンターへと向かう。
「失礼だが、冒険者ギルドでは、狩場まで独占して、冒険者に立ち入りの禁止をしているのか?」
強い口調でそう話に割って入った瞬間、アイシャとネルは、同時にガーレンに視線を向ける。
「誰だぃ? 今はボクちゃんがアイシャちゃんと話てるんだけどさぁ? お目目付いてるなら、わからないかなぁ……それとも、耳が悪いのかぃ?」
ネルの言葉にアイシャが、必死に笑いを堪えており、ガーレンは言葉を失っていた。
しかし、ガーレンの背後から、1人の騎士が前に出ると我慢の限界だったのか、ネルに鋭い視線を向ける。
「話をきいていれば、身の程知らずの冒険者が! 言葉を選ぶことも出来ないのか!」
その一言にそっぽを向いていた冒険者達が立ち上がる。
「おい、騎士様よう? 聞き捨てならないなぁ。たしかに俺達、冒険者は騎士様みたいに頭をペコペコ下げるなんて、芸当はできねぇがよう」
冒険者達が、ニヤついた表情で、ガーレン達へと歩を進めようとした瞬間だった。
またしても、騎士の1人が口を開く。
「冒険者はやはり、冒険者か……話にならないな……仲良しごっこの代償は高くつくぞ!」
ネルの耳がピクリと動く。
冒険者達は、その瞬間を見逃さず、ガーレン達から逆に距離を取るように後退る。
「今更遅いぞ! 貴様らが喧嘩を売った相手は、何を隠そう、王都より」と、騎士が喋っていたが、それ以上の言葉が告げられることはなかった。
「誰と誰がごっこ遊びなのさぁっ! 【ノイズキャンセラー】っ!」
ネルの言葉がギルドに響き渡った瞬間、ガーレンの真横に立っていた騎士の姿が消え、次に壁際から“バギっ”という音がギルド内に響き渡る。
「「「おおぉぉぉ!」」」と冒険者達から歓声にも似た雄叫びが漏れ出す。
拳を前に突き出したままのネルは、外に吹き飛ばした騎士に向かって歩いていくと、顔を見てから喋り出す。
「ボクちゃんとアシミーちゃんも、アイシャちゃんも、ごっこ遊びなんかじゃないからねぇ……頭に叩き込んであげたから、しっかり覚えておいておくれよぅ」
ネルから仕掛けた一撃に、ガーレン達は即座に攻撃陣形を組む。
しかし、それは冒険者ギルドに存在するすべての冒険者を敵として挑発する行為に過ぎない。
何より、ネルはガーレン達が攻撃態勢に入った事実を不服そうに見つめていた。
ネル:なんで、ボクちゃんが優しく教えてあげたのに無視するのかなぁ……しかも、武器なんかを持ち出してさぁ……
「さっきの言葉にもイライラしてるけどさぁ、何よりも、今のボクちゃんは、アシミーちゃんのために新鮮な蜂蜜を取りに行きたいの! だから、邪魔したら許さないからねぇ!」
アイシャ:やめろよ! 何しでかしてんだよ……マズい、マズい、マズいって! ギルドの壁は、この前、直したばっかりなんだよ!
「なんの騒ぎだ?」
そんな声が、ギルド奥から聞こえた瞬間、アイシャの表情が固まり、それを合図に冒険者達は怒りの感情を放り投げたように、壁側を向いていく。
そして、ネルは何かを思い出したようにアイシャに向かって元気な声を発した。
「そうだよ! ベスパの森があるじゃないかぁ! 忘れてたよぅ。ごめん、アイシャちゃん。ボクちゃんはすぐに行かないと、またねぇ〜」
ネルが動き出した瞬間、ガーレンの剣が抜かれ、凄まじい剣速がネルに向けて放たれる。
一瞬、睨むような視線をネルがガーレンに向けたが、軽々と斬撃を躱すと、空いた穴から外に向けて駆け出していく。
「待て!」そんなガーレンの言葉に止まることなく、ネルは消えていった。
ギルド内に残された騎士達は、慌ててガーレンに駆け寄り、怪我の有無を確認する。
そんなガーレン達に、次に向けられたのは、凄まじい殺気だった。
「あぁ、なんだこりゃ? おい! 誰か説明しろ、なんで壁に穴が空いてやがる!」
声の方向に視線を向けるガーレン達は、ペルグの姿を見て、再度、身構えた。
「おい、アイシャ? なんだそいつらは、新しいボンボンの冒険者か?」
ペルグの言葉にアイシャが説明しようとした瞬間、ガーレンが一歩踏み出す。
「貴方は?」
「あぁ? ったく、近頃の若僧は冒険者ギルドに来ても、マスターの顔すら分からねぇのか」
ガーレンは、軽く呆れた表情を浮かべ、言葉を返していく。
「貴方が、ペルグ・ランテか? 話に聞いていた冷静な人物とは違うらしい。我々は、王都より派遣された調査団である」
そこまでガーレンが口にする最中に、アイシャが、壁に穴が空いた理由と、今までの言動をペルグに伝えていく。
ペルグは頷くと下を向いたまま、ガーレンの元へと歩み寄る。
その反応を見て、ガーレンは軽い溜め息を吐いた。
「分かります。部下の不手際は付き物です。しかし、それに対して、責任を感じられる貴方は」とそこまで口にしたガーレンの顔面に巨大な拳が放たれる。
「ペルグさん!」と、アイシャの声が響いた次の瞬間には、ペルグが苛立ちを表情に出していた。
「王都の誰だか知らねぇが、ネルの馬鹿を怒らせて穴を作りやがって……それでいて、“分かります”だと? 上等な口を聞いてんじゃねぇぞ!」
それを合図に、騎士達とその部下達が抜刀する。
ここが王都ならば、騎士に分があっただろう。
しかし、そこは冒険者ギルドであり、マスターが手を出した事実を前に冒険者達も我慢の限界と得物を握り出す。
「ギルドのルールは、冒険者同士の争いを禁じるだ! 上等な口を聞いたガキどもに、ギルドのルールがなんで存在するか教えてやれ!」
「「「おおぉぉぉ!」」」
冒険者達が騎士に襲い掛かり、ギルド内は一気に戦場になっていく。
「あちゃぁ、ペルグさん。どうするんだよ、これ?」
「知るか! 壁の修繕とギルドに喧嘩を売った事実を王都に伝達しろ! オレの管理するギルドに馬鹿を送ったやつに直接来いと言ってやれ!」
「無茶だよ!」
アイシャの困り果てた声は、冒険者と騎士達により掻き消され、その後、ガーレン達は冒険者達により、拘束される。
「キサマら、ガーレン・ベルラスク家の人間に手を出して、どうなるか分かっているのか……私が止めても、貴族社会がお前達を赦しはしないのだぞ!」
ガーレンの必死な言葉にペルグは、呆れたように返事をする。
「冒険者ギルドの組織力をなめんなよ? あと、家名を簡単に語るな? 戦場なら、利用されて晒し首にされるぞ?」
ドゴール男爵が仮に“ドラゴンの尾”を踏んだとするならば、ガーレンはまさに冒険者ギルドという、“ベヒーモスの尾”を踏んだと言えるだろう。




