54、王国の騎士、ガーレン調査団
ネルとアシミーが治療師ギルドに運ばれてから、三日が過ぎようとしていた。
王都では、ドゴール男爵領の調査のため、近隣の領地や街に王都から調査団が派遣されていた。
当然、関わりの深いグラードの街にも、例外なく調査団がやってくることになり、普段とは違った緊張感がグラードに広がっていく。
調査団は、隊長を含む10人の騎士を中心に構成され、更に付き人、騎士の部下などを含め、60人程になる。
そんな部隊が複数組作られており、その内の一つ、『ガーレン部隊』が、グラードの門を超えて街へと到着していた。
「ガーレン殿、貴族絡みとはいえ、ガーレン殿が自ら、このような商業都市に出向く必要があったのでしょうか? 本来ならば、我々を使いに出してくださるだけで、問題ないかと」
若い騎士がそう口にするのには、理由があった。
調査団の指揮をするガーレンは、伯爵家の人間であり、本来はエリート騎士である。
名を、ガーレン・ベルラスク。
伯爵家であるベルラスク家の次男に生まれ、剣術に才があり、騎士として王都で、クラム王国騎士団に所属している。
学問と武術に優れ、若くして将来を期待された存在である。
「有り難い申し入れだが、クラム王国にとって、その選択は出来ないな。我々はこの街での調査を陛下のご命令にて受けた身だからな」
「失礼致しました。出すぎたことを……」
「構わないさ。他の連中なら、そうするだろうからな。ただ、この街に来るまでに聞いた情報が本当なら、調べる価値もあるだろう」
「ガーレン殿。まずは領主である、ポルカ・ソルカ殿に挨拶を済ませましょう。既に使者が先んじて、話を通しているはずですので」
「そうだな。ポルカ・ソルカ殿も我が家と同じ伯爵家であろう。失礼がないように気を引き締めていくぞ」
銀色の鎧姿の一団は、グラードの街を進んでいく。
グラードには、領主の別邸があり、領主であるポルカ・ソルカは普段はグラードの街から離れた別の領地で生活をしていた。
今回は、あくまでもポルカ・ソルカ本人がグラードの別邸をガーレン達、調査団に貸し出すのが目的で訪れている。
街中を進んでいた一団は、平和な街の中で武装した冒険者達を見つけて視線を向けていた。
珍しくもない光景だと言われればそれまでだが、武装した冒険者達は、外に繋がる門ではなく、街中を真っ直ぐに直進していく。
「グラードの出入口は、何ヶ所だ?」と、ガーレンが口にすると、背後を走る馬から声が返される。
「出入口ですか……正面、つまり我々が入ってきた門になります。他になりますと、東門と西門がありますが、普段は閉ざされてますね」
その返答に、ガーレンは複雑な表情を浮かべる。
「つまり、あの冒険者達が向かう先には、出入口になる門はないんだな?」
「え、はい。そうなりますが……冒険者など、普段から武装しているものですし、気にする必要はないかと……」
「普通のパーティーならな、それが15や20になれば、話が違ってくる。まして、グラードにはクランといった集団は存在しないのだろう?」
グラードの街を進む冒険者達は、武装した状態で20名を超えており、その状況にガーレンは違和感を感じていた。
初めてグラードの街を訪れたガーレン達は知らなかった。
このグラードの街にクイーンの巣が作られ、冒険者ギルドでは、蜂蜜採取のクエストに冒険者達が毎日取り合いになっているのだ。
冒険者ギルドは、解決策として前日から、受注希望者を集めて、当日にクジ引きを行っている。
選ばれたパーティーは、その後10日間、クジ引きに参加できないというルールを同時に作り、トラブルを回避している。
ガーレン達が見つけた冒険者達は、そんな倍率の高いクジ引きに選ばれた者達だった。
「話を聞く必要がありそうだ。必要なら、捕らえても構わん。過去に街を占領しようとした馬鹿な冒険者もいたからな」
ガーレンの言葉に騎士達の表情が変化する。
一斉に向かう方向を冒険者達へと変化させ、馬は速度を上げて駆けていく。
冒険者達も突然の馬の嘶きと蹄が地面を繰り上げる音を耳にして、一斉に振り向き、視線をガーレン達へと向ける。
「なんだ、騎士?」と冒険者が口にした瞬間、ガーレンも口を開く。
「お前達、聞きたいのだが? なぜ、武装して門と別の方角に向かっている?」
その質問に冒険者達は顔を見合わせた。
「騎士様よう、この街は初めてかい?」
冒険者からの返答にガーレンの背後に控えていた騎士が声を上げる。
「キサマ! この御方をどなたと!」と、そこまで口にした騎士に対して、ガーレンは手を伸ばして言葉を止めさせる。
「まて、いいんだ。いきなり声を掛けたのは此方だ。連れが失礼した。それでだが、理由を教えて貰えないか? そんな装備をした状態で何処に向かっているんだろうか?」
「話せる騎士様らしいな。まぁ、隠すことじゃないし、構わないぜ。俺達は蜂蜜採取のクエストに向かうのさ」
ガーレンは、冒険者の言葉に耳を疑ったが、そのまま話を聞いていく。
「グラードは、簡単に言えば蜂蜜で有名な街なんだよ。その蜂蜜採取をクジ引きで朝に決められるんだ。選ばれた奴らは、クエストに向かうってわけだ。理解できたかい?」
「そ、そうなのか?」
「あぁ、まぁ、いきなり言われても嘘みたいな話に聞こえるだろうが、この街じゃこれが日常だからな。ギルドで確認してもらえればわかる話さ」
説明していた冒険者に他の冒険者から「早く来いよ! 時間がなくなっちまうぞ」と声が掛けられる。
「悪ぃな、これくらいで解放してくれよ。クエストにも、時間制限があるんだわ」
「すまなかった。詳しくは、冒険者ギルドで聞くことにするよ」
「おう、俺はダグだ。またな騎士様」
そうして、冒険者達は蜂蜜採取のために、旧バケット邸へと向かって駆けていく。
ガーレン達も、本来の目的を思い出したように、馬を領主であるポルカ・ソルカの別邸に戻し、移動を開始する。
「良かったのですか? あんな言葉を信じてしまって」
「嘘は言ってないらしい。魔導具で確認していたが、真実だったからな」
「本当に蜂蜜採取のためにあの装備なんですか! かぁ、冒険者ってのは、わけが分からないですなぁ」
「そう言うなよ。彼らの話じゃ、朝の時点で、採取に向かう冒険者をクジ引きで決めてるようだしな、外に狩りに向かうための装備だったんだろうさ」
「嫌になりますなぁ。魔物狩りで稼ごうと考えて、ギルドに向かったら、クジで蜂蜜採取とは……とんだハズレクジですなぁ」
ガーレンと部下の騎士は、蜂蜜採取に向かっていった冒険者達を哀れんでいた。
しかし、事実は真逆であり、グラードの外で魔物と死闘を繰り広げ、討伐部位を持ち込んだとしても、装備品や消耗品を考えれば旨みは少ない。
更に言えば、怪我などをした際に治療師ギルドの世話になることを考えれば、蜂蜜採取は冒険者からすれば、ボーナスタイムでしかなかった。
ガーレン達は、領主の別邸へ向かい、挨拶を済ませた足で冒険者ギルドへと向かう。
「ガーレン殿、些か、世話が過ぎるのでは? 冒険者ギルドに話をつけるなど……」
「いや、冒険者ギルドが、冒険者の利益を街のために犠牲にしているなら、正さねばならない。ギルド長に話して、聞き入れられないなら、王都に出向いてもらうだけさ」
ガーレンは、ギルドが不当に冒険者を虐げていると考えていた。だからこそ、ギルド長であるペルグと話をするためにギルドへと足を運んでいた。
「グラードの冒険者ギルド長は……ペルグ・ランテか……よし! いくぞ」
ガーレン達は、冒険者ギルドの扉を開いて中へと入っていく。




