51、味方? アンネロッタの微笑み
笑みを浮かべたアンネロッタに、ネルが身構える。
アンネロッタの視線がネルに向かう。
驚いたように目を丸くするアンネロッタは、一瞬でネルへと距離を詰めるように移動する。
ネルが動くより先にアンネロッタの両手が大きく開かれ、その手がネルの身体を完全にホールドする。
「あはぁ! ネルじゃないですかぁ……なんでこんな場所にいるのですかぁ……あぁ、こんな所で、愛しの妹弟子に会えるなんて……」
「な、なんで、アンネロッタ姉が……それより、さっきのヤツらを早く全滅させないと……」
「あらあら……久々の姉妹弟子の出会いをそんな風に断るなんて……ネル、私は貴女をそんなダメな淑女に育てたつもりはなくてよぅ……」
アンネロッタの腕がネルを締め上げ、次第に力を増していく。
ネル:ぐるじぃ……息が……
「ふふ。大袈裟に踠くわねぇ……品がないのも減点かしらぁ? 相変わらず力が可愛らしいんだから、ネルったら……あはぁ!」
「ネルからっ! 離れろよおぉぉぉぉっ!」
アンネロッタに向けて、鎖を叩きつけるように放たれた一撃。
アイシャの声にネルは驚いたように首だけを向け、声を出す。
「ア、アイシャちゃん……だめ……」
「あらあら……御行儀が悪いわぁ……いきなりオモチャを投げつけるなんて……私とネルの時間を邪魔する悪い子は……いい子に変えないとかしらぁ?」
放たれた鎖を軽々と片手を伸ばし、掴んだアンネロッタ。
それと同時に、力が緩んだ瞬間、ネルがアンネロッタの腕から脱出する。
ネルの脱出を助けるようにアイシャがバトルアックスを両手に握り、フルアーマー姿のまま、駆け出していく。
「はあぁぁぁっ! ウチの冒険者に何してくれてんだよぉぉぉぉ!」
斬りかかるアイシャに合わせるように、アンネロッタも巨大戦斧を手に握り、軽く一回転させるとアイシャのバトルアックスを受け止める。
アイシャ:ありえないだろ! アタシの全力の一撃なんだぞ! ドワーフに力で勝つ気なのかよ……
「あらあら、あら〜? 可愛らしいわねぇ……でも、子供は大人と力比べはしないものなんですよぅ……」
アイシャのバトルアックスが軽々と押し負けると、呼吸を整えたネルが2人の間に割って入る。
「アンネロッタ姉! 待っておくれよぅ! アイシャちゃんも、止まって!」
必死な形相のネルを見つめたアンネロッタが悩むように首を傾げる。
「ネル? 私は教えましたよねぇ……悪い子には、罰を……いい子には褒美を……貰った感情は100倍にして返すのが淑女の嗜みだと」
「アイシャちゃんは、ボクちゃんの友達だから、助けに来てくれたいい子だよ! だから、助けたいって気持ちがあるなら、100倍で助けないと嘘つきじゃないかぁ!」
ネルの言葉に、アンネロッタが巨大戦斧をその場に落下させる。
ゆっくりと歩き出した瞬間、ネルとアイシャが身構えた。
そのままアイシャの前まで移動したアンネロッタは構えられたバトルアックスを一瞬で掴むと、軽々と引き寄せてから、地面に放り投げる。
その瞬間、アイシャの顔が絶望に染まり、ネルが慌ててアイシャへと駆け出していく。
しかし、アンネロッタは止まらない。両手を大きく開き、力を込めていくのを2人は感じ取っていた。
アンネロッタは、静かに笑った。
一瞬で、アイシャがホールドされ、フルアーマーが“ギシギシ”と悲鳴をあげる。
「アイシャちゃん!」
「あぁ、なんていい子なの……私としたことが、友情のための覚悟を、単なる悪意と勘違いするなんて、ごめんなさいねぇ……よしよし、怖かったわよねぇ」
アンネロッタの言葉にネルの動きが止まると、その場にへたり込んだ。
「良かったぁ……慌てたよぅ」
ホッとしたネルに向けて、アイシャが声を出す。
「お願い……だすけで……つぶれる、潰されぢゃうがら……」
そうして、潰されそうになったアイシャをネルが説得して解放させる。
「はぁはぁ……本当に死ぬかと思った……これでもアタシは力なら、ペルグさんの次に強いんだけど……へこむわ」
「アイシャちゃん……大丈夫? それと、アシミーちゃんはどうしたの?」
落ち着いたアイシャにネルが質問をすると、アイシャは、逃げてきた冒険者を捕まえて、介抱させた事実を伝える。
因みに捕まえた冒険者は女性であり、ネルはその事実にホッと息を吐いた。
ネルとアイシャが話していると、果実水を飲みながら、見つめていたアンネロッタが口を開く。
「色々とごめんなさいねぇ? 私とネルの再会を邪魔しに来た、お邪魔虫さんだと勘違いしちゃったのよ。私も淑女として、まだまだだったわねぇ……」
そこまで話を聞いたネルが、何かを思い出したように周囲に視線を向けて辺りを警戒する。
「どうしたのかしらぁ、ネルったら、落ち着かないわねぇ?」
「アンネロッタ姉、ボクちゃんの大切なアシミーちゃんを怪我させた奴らがいるんだよ! ボクちゃんは、すぐに全滅させないとだから」
「あらあら……大丈夫よ? あのダメな子達(首なし兵達)は、処分したもの。好き勝手する子は要らないもの……他の子達は、すぐに処分できたのだけど、逃げ出した子を追ってきたのよ」
アンネロッタは嘘はついていない。
事実、ドゴール男爵領にて、ドゴールの屋敷を焼き払った後に、アンネロッタは用済みになった首なし兵達を死体へと戻していた。
しかし、一部の意志の強い首なし兵達が僅かに解除された瞬間に逃亡したのだ。
逃亡した首なし兵達は、逃げる最中にペルグの指示で調査に向かっていた冒険者達と出くわしたことで、戦闘になり、本能のままに攻撃を仕掛けていたのである。
しかし、アンネロッタはその原因が自身であることを告げなかった。むしろ、既にすべてを始末した後であるため、伝える必要もないと判断した結果だった。
「悪かったわねぇ……100体くらい、いたから、ゆっくり処分してたせいで、もっと早く来れていれば、ネルの友人も怪我をしなかったのに、淑女としての汚点だわぁ……」
アンネロッタはネルを見つけるまでの間に、逃げ出した“火竜の団”だった首なし兵達を処分していた。
アシミーを追い詰めた首なし兵が、アンネロッタに強い怨みを持っていた“火竜の団”の団長であるガウスであった事実は誰も知らない。
そんな話が進む中で、ネルは一つだけ、アンネロッタに対して、訂正を口にする。
「アンネロッタ姉、アシミーちゃんは、ボクちゃんの親友だよ。ただの友達じゃないし、アイシャちゃんも次に仲のいい友達なんだよ……友人以上だからね?」
「それは素晴らしいわねぇ。是非、ネルの姉として、私も会いたいわぁ……」
そうして、3人はアシミーと冒険者達が待つ、テントへと向かって移動していく。
その間も、アイシャは何かが引っ掛かるのか、何かを思い出そうと首を傾げていた。
「どうしたんだぁ〜い? アイシャちゃん?」
「いや、アンネロッタって名前が気になってさ……」
そんな会話にアンネロッタが優しい笑みを浮かべる。
「自己紹介を忘れてたわねぇ? 私は、ネルの姉弟子で、モルアナ・アンネロッタよ。よろしくお願いするわねぇ……アイシャさん」
その自己紹介に対して、アイシャの顔が青ざめる。
「モルアナ・アンネロッタって、断頭の……アンネロッタさん……ですか?」
「あらあら……私って意外に有名なのかしらぁ? 何故か、よく言われるのよねぇ……恥ずかしいわぁ」
アンネロッタの微笑みにアイシャも引き攣った笑みを浮かべた。
アイシャ:アタシ……断頭のアンネロッタに喧嘩売ってたのかよ……首、繋がってるよな……笑えないって……




