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『行く先々で問題を起こす“煙の魔女”とパーティーを組んだんだけど、私の胃は限界かもしれない』  作者: 夏カボチャ 悠元
家族の形、いるべき場所といたい場所

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52/58

52、テスト?

 アシミーが眠るテントでは、冒険者の女性が震えながら、必死にアシミーを介抱していた。


 彼女の名はメーム。

 回復職の冒険者であり、ランクはCランク。


 今回のドゴール男爵領の偵察任務の完了と同時にBランクに上がれるはずだった。


「なんで、こんなことに……簡単な調査依頼だと思ったら、男爵領の偵察任務だし……わけの分からない、首なしアンデッドが出てくるし……早く帰ってきてよ、リーダー」


 メームと一緒に行動していた冒険者達は、アイシャと出会った際に冒険者ギルドへと向かわされた。


 即ち、テントにはアシミーとメームのみが残されており、首なし兵に追われた事実から、震えながらアシミーに回復魔法を必死にかけ続けている真っ最中だ。


「アイシャさんがいるのも、予想外ですし、しかもアシミー先輩もボロボロだし……久しぶりにグラードに戻って来たのに……本当にどうなってるんですか」


 独り言を口にしながら気を紛らわしていくメームは、アシミーの傷を確実に塞いでいく。


 そうしている間に、テントの入り口が開かれる。


「ごめん、メームさん。アシミーの具合はどうだい? 傷だけでも何とかなってるかな?」


 アイシャの声にメームが嬉しそうに振り向いた途端に、歓迎するように喜びに満ちた表情は凍り付いていた。


 メームの視線は、アイシャとネルの背後に立つ、アンネロッタへと向けられている。


 実際にメーム達が首なし兵達から逃げるチャンスが生まれたのは、アンネロッタが冒険者達を取り囲むように展開していた首なし兵達を切り刻んでいたからに他ならない。


 逆に言えば、アンネロッタがその場に現れなければ、メーム達は無慈悲に依頼中の事故扱いで星になっていたことだろう。


 しかし、メームはアンネロッタの存在をしっていた。だからこそ、この場にいてはいけないアンネロッタに対して、身動きが取れなくなってしまっていた。


「アシミーちゃん! 大丈夫かい? ねぇ、キミ、アシミーちゃんは大丈夫なのかい、教えておくれよぅ!」


 固まったままのメームにネルが声を掛けながら、身体を揺するとすぐに意識を取り戻し、返事を返していく。


「だ、大丈夫です。たしかに傷はありましたが、致命傷になるような深い傷はありませんでした。むしろ、流し過ぎた血液が問題になりますぅぅぅ!」


「そんなに血が足りないのかい! なら、ボクちゃんの血をアシミーちゃんにあげていいから、助けておくれよぅ!」


 ネルは、必死にメームの肩を握りながら、懇願した。

 普段の明るい雰囲気はなく、ただ、横に寝かされたまま動かないアシミーのためだけに声を荒らげるネルの姿がそこにあった。


「慌てないでください。落ち着いてください。むしろ、血は本当に凄く危ないものなんです……間違えた血を選んだりしたら、死んでしまうのです、軽はずみに入れたり出したりしたら、ダメなんですぅぅぅ」


「なんでさ! ボクちゃんとアシミーちゃんは、親友で……だから、絶対に大丈夫だから、ボクちゃんの血は……アシミーちゃんの助けにならないの……悲しいよ、嫌だよぅ……アシミーちゃん……」


 泣き崩れそうな声がテント内に響いていくと、アンネロッタが、不思議そうに声を掛ける。


「あらあら? ネルったら、冷静さをいては、淑女しゅくじょとして、三流ですねぇ。何よりも、助けたい気持ちが先走り過ぎて、頼る相手を忘れてるじゃないのぅ……私が手伝ってあげるわぁ」


 アンネロッタはそう言葉を告げると、メームの傍に移動する。


「貴女はいい見立てをしてるわぁ……傷も綺麗に繋がれてる……本当にいい腕ねぇ」


「あ、ありがとうございます……」


「だからこそ、惜しいわぁ……凄くいい形にしてあるのに、手段を知らないのだから、私が貴女に教えてあげるわぁ……私ね、回復職の真似は得意なの」


 アンネロッタはアシミーの腕が見えるように袖を捲ると、鋭い木の枝を悩むことなく、腕に突き刺していく。


 その行動に一同が、唖然とする中、アンネロッタは枝から流れ出したアシミーの血液を(ウツボカズラのような)植物に吸わせていく。


 血液を吸った植物の中で次第に真っ赤な液体が作り出されると、アンネロッタはそれをアシミーの反対の腕に繋ぐように、再度、先端の鋭い枝と繋げて腕に差し込んでいく。


「はい、できたわぁ。植物には、血を複製して、獣に怪我をした仲間と誤解させたり、手負いの獲物と誤認させるものがあるのよぅ……それに、“ニードルウッド”の枝を融合すれば、簡単に本人の血を増やしてあげられるわぁ」


 笑いながら、説明するアンネロッタにメームが質問を口にする。


「ニードルウッドって……剣も斧も通さない、硬さだけなら、最悪な植物ですよね……それと、血を作ってる植物は知りませんが……さっきの言い方だと、副作用とかもあるんですよね?」


「賢いのねぇ……ただ、副作用というには可愛い感じかしらぁ? 軽い眠気に襲われるのよねぇ……本来はそうして、獲物を眠らせて長く衰弱させるのが、この植物ブラッドムーンの生き方なのよ……」


 そこまで説明したアンネロッタは、ブラッドムーンをテントの天井から吊るしていく。


「少なくとも、数日は途切れることなく、血を作り続けるわねぇ……だから、抜くタイミングは、メームさん。貴女に任せるわぁ」


 このアンネロッタの行動により、アシミーは、一命を取り留める結果になった。


 その後、アンネロッタはネルだけをテントから呼び出す。


 アイシャは止めようとしたが、ネルが口を開く。


「大丈夫だよぉ。アイシャちゃんは、アシミーちゃんと居てあげておくれよぅ。すぐに戻るからさぁ」


 笑ってそう語るネルの姿にアイシャは頷いた。


 テントから多少離れた湖の畔に2人は立っていた。


「ネル。あの子が、アナタの特別な存在なのかしらぁ?」


「そうだよ……ボクちゃんの親友で、誰にもあげたくない存在なんだ」


 一瞬の沈黙が流れ、次にアンネロッタが口を開く。


「いいわねぇ……ネルに特別な存在が出来たなんて、本当に嬉しいわぁ……でも、まだ早いと思うのよ……私からしたら、早すぎるくらいに感じてるわぁ」


 ネルの表情が真顔になると、アンネロッタはゆっくりとネルに向き直る。


「久しぶりに、私が稽古をつけてあげるわぁ。ネルが大切な存在を守れるか、覚悟をテストしてあげないとだものねぇ」


 それが合図であり、アンネロッタはトラベルバッグから、一瞬で巨大戦斧を取り出すと、ネルへと斬りかかる。


 ネルが後方に飛び、回避したと同時に、アンネロッタが前に飛び、バランスを崩しかけるネルの首目掛けて、巨大戦斧を振るう。


 首すれすれを高速で振り抜かれたネルは、驚くと同時に、両手に煙を纏わせると【煙撃えんげき】を発動させ、煙の刃を突き出していく。


 ネルからのカウンターに対して、アンネロッタは身体を屈め、僅かな動作で回避すると巨大戦斧を手放し、拳をネルの腹部へとめり込ませた。


 最初の一撃が拳、二撃めからが手刀になり、ネルの腹部からは真っ赤なシミが浮かび上がる。


 連撃によるダメージがネルを離さず、数秒の出来事が致命傷に変化する。


「ネル……わかったでしょう? アナタは弱いの……弱い淑女しゅくじょは、守られないとならないの……悲しいわぁ、だから……アナタにあの子は守れないわぁ……」


 そう口にしたアンネロッタの腕をネルが掴み、【炎煙えんもく】を自身を巻き込む形で発動する。


「ボクちゃんは、たしかに、まだまだだよねぇ……だから、アンネロッタ姉も、やさしく止めてくれてるんだよねぇ」


「驚いたわ……自分まで、焼いちゃうなんて? 情熱的ねぇ」


「だって、これがボクちゃんの覚悟だからねぇ。へへ……」


 ネルはそのまま、気を失って倒れる。


「本当に驚いたわぁ? 私の手には、痺れ粉に眠り草の鱗粉……色々なものを纏わせてたのに……最初の手刀で意識を保っていただけで、覚悟だけなら、合格かしらぁ……まだまだだけど、強くなったわねぇ、ネル」


 その後、ネルもアンネロッタの植物により、傷が塞がれ、テントに連れ戻されると、アシミーの横に寝かされた。


 冒険者ギルドから、増援がテントに到着したのは、それから二時間後のことだった。

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