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『行く先々で問題を起こす“煙の魔女”とパーティーを組んだんだけど、私の胃は限界かもしれない』  作者: 夏カボチャ 悠元
家族の形、いるべき場所といたい場所

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48/53

48、楽しい旅路は、問題だらけ?

 サスタ商会で店長から情報を聞き出した2人は、早々にグラードの街からドゴール男爵領へと向かおうと考えていた。


 しかし……そうはならなかった。


 街の出入口である門の前に見慣れた女性の姿があり、2人の行く手を止めたからだ。

 2人を止めたのは、他でもない冒険者ギルドの受付嬢、アイシャであった。


 普段ならば、ありえない行動だが、今回は状況が違っていた。

 ネルとアシミーの2人は冒険者ギルドからすれば間違いなく事件の関係者扱いだったからだ。


 アイシャは残念そうな声を2人に向ける。


「やっぱり来たな……なんで、来ちゃうかなぁ。ペルグさんからの指示で、2人がグラードから出るなら同行しろって、言われてるから」


 そう口にしたアイシャにアシミーが不思議そうに質問をする。


「なんでよ? 私達、今回はクエストも指名依頼もなんにも受けてないわよ」


「わかってるよ。因みにこれはギルドに所属してる以上、断ることは出来ないから、なんせ、マスター指示だからさ……諦めてよ」


 アシミーは苦笑いを浮かべ、ネルは面倒くさそうにアイシャを見つめていた。


 そんなアシミーは、アイシャの姿に対して質問をしていく。


「言い分はわかったけど、なんでフル装備なのよ……鎧にバトルアックスなんて、狩りの支度じゃない」


「当たり前じゃない? アンタ達2人に同行するなら、アタシだってしっかり武装するさ」


 アイシャとアシミーが話しているとネルが苛立ちながらも笑みを浮かべ、会話に参加する。


「つまり、ボクちゃん達の監視がしたいんだねぇ……ギルドがそんなストーカー気質だったなんて、ボクちゃんってば、知らなかったよぅ〜」


「あのさぁ? ネル・ニルガル、アンタのその攻撃的な喋り方、何とかならないわけ? あんまり、ツンケンしてるとアシミーに嫌われちゃうよ?」


 その一言で、ネルが動揺したようにアシミーへと視線を向ける。


「そんなことないよねぇ! アシミーちゃんはボクちゃんを嫌いにならないよね?」


 アシミー:アイシャ! なんでそんな発言するのよ……あぁ、まったくもう……


「大丈夫よ。ただ、アイシャも私の友達みたいな存在なの、だから仲良くしてほしいのも事実なのよね」


 そう告げられたネルは、悩むように両手を組んでは離し、最後には両手で髪をガシガシとぐしゃぐしゃにしてから、深呼吸をする。


 真っ直ぐにアイシャに向き直ると鋭い視線から、一瞬で笑みを作り出して笑い掛ける。


「やぁ、ボクちゃんは、ネル・二ルガルだよ。アシミーちゃんの親友だから、改めてよろしくねぇ。アイシャちゃん」


 突然の豹変にアイシャが驚き、アシミーは、自身の出会いを思い出して笑う。


「あ、あぁ、よろしく頼むよ……ネル・ニルガル」


 挨拶が終わり、次にネルは目的地をアイシャに伝える。


「はぁぁぁ! わざわざ、ドゴール男爵領に向かう気なのか」


「そうだよぅ? だって、ボクちゃん達の知らない事実があるみたいだからねぇ〜。巻き込まれた側からしたらさぁ、見てみたいじゃないかぁ〜」


 ネルはそう告げると、グラードの街から外に向かって歩いていく。


 後ろをついて行く形のアシミーと、軽く項垂れるアイシャ。


 3人になり、移動を開始しようとしたネルにアイシャが声を掛ける。


「待てよ、向かうのはドゴール男爵領なんだろ? 馬車は借りないのか」


 ドゴール男爵領は、グラードの街から馬車なら二日程度の距離があり、本来は乗り合い馬車や個人で馬車を用意して進むのが一般的である。


 しかし、その問いに対して、ネルはつまらなそうに返事をする。


「馬とかは必要ないかなぁ? それにボクちゃんとアシミーちゃんが全力で走れば、一日くらいだろうからねぇ?」


 アシミーは、その発言にアイシャより先に、アシミーが声を上げる。


「待った! 待ちなさいよ。なによ、全力で走るって! 流石に今回はダメ、却下よ!」


 凄まじい勢いでネルの発言を止めるアシミーを見て、アイシャがホッとする反面、ネルは不服そうに頬を膨らませる。


 そんな雰囲気を察したようにアイシャが、手を挙げ、提案を口にした。


「なら、馬車はギルドから手配するから、それで向かおうじゃないか……どちらにしても、2人が朝ギルドに来る前にペルグさんが調査隊を派遣したから、馬車の一台くらい用意するのは可能なんだ」


 その場で待つように言われたネルとアシミー。

 アイシャは急ぎ、冒険者ギルドに戻っていく。


 ネルは仕方ないといった様子で、防壁に背中を預けると煙草に火をつけていく。


 そんな様子を見ながら、アシミーは小さく呟いた。


「ねぇ、どうして、ドゴール男爵領に向かうようにサスタさんは伝言を残したのかしら?」


「さぁ……ボクちゃんは、サスタ姉の考えは分からないやぁ……なにかあるんだろうけどさぁ」


 煙草の煙を空に向けて吐き出しながらそう口にするネルをアシミーは不安そうに眺めていく。

 そうしてる間に、アイシャが小さなほろ付きの馬車に乗りやってくる。


「待たせたね。急ぎだから、小さな馬車になったけど、何とかなったよ。さぁ、乗って」


 言われるままに馬車の荷台に2人が乗り込むと、アイシャは手網を引き、馬車は軽快に動き出していく。


 揺られる馬車の中で欠伸をしながら、眠り出すネルにアシミーが呆れながら、馭者台に座るアイシャの横に移動する。


 手網を握るアイシャが横に腰掛けたアシミーに声を掛ける。


「どうしたんだい? アシミーも楽にしてなよ。どうせ、二日は馬車移動なんだからさ」


「そうだけど、流石に巻き込む形になったアイシャに全部お願いするわけにいかないわよ」


 アイシャは笑った。


「相変わらずだねぇ? ふふ、さて……急がないとね。夕暮れまでに安全な場所を探さないと」


 昼を目前にグラードを出発した馬車だったが、夕暮れには既にバクス村を通り過ぎていた。


 更に次の村を超えて、ドゴール男爵領とグラードの中間地点に存在する湖まで馬車が軽快に走った結果、辿り着くことができていた。


 馬を休ませるアイシャが声を2人に掛けていく。


「2人共、今日はここで、夜を明かすよ。食材は積んであるから、夕食の支度も始めるよ」


 その言葉にリンゴを齧りながらネルが返事をする。


「仕方ないなぁ。まぁ、親友のアシミーちゃんと、新しい友達のアイシャちゃんのために頑張るかなぁ」


「友達のアイシャちゃんって、恥ずかしいだろって、なんで先に食べてんだよ!」


 アシミー:アイシャって意外にネルといい感じに見えるわね……仲良くやれそうね、ふふ。


 そんな3人は、手早くテントを設置し、夕食の用意を開始する。


 鍋に水を入れ、沸かす間にネルはアシミーから鋼糸の糸を貰い、長い木の棒に縛り付けると齧っていたリンゴを砕いてから針につける。


 アシミーはそんな様子を見て首を傾げる。


「そんな餌で魚が釣れるの?」


「まぁ、見ててよ。それに果実は魚にも人気なんだからさぁ〜」


 湖で釣りを開始したネルは鼻歌を歌い楽しそうに竿を振るう。


 そんなネルを横目にアシミーはアイシャと共に野菜を切り、鍋に入れていく。


「アシミー、悪いんだけど、鍋に塩コショウで味付けよろしく。アタシは炒め物をしとくからさ」


 アシミー:え、私に味付けさせる気なの……りょ、料理なんて、切って煮込んで塩を入れてよね……


 不安そうな表情のアシミーは塩を、ぐっと掴む。


「ア、アイシャ? 塩って、濃いめくらいが美味しいわよね?」


 背中越しに、野菜と肉を切るアイシャはそんな質問に対して、軽く「まぁ、疲れてるなら濃いめでもいいかもね?」と答える。


 その言葉にアシミーは、ホッと息を吐くと、握った塩を見つめる。


 アシミー:これくらいよね? いつも、食べてる魚料理も結構濃いし、多分……これくらいのはずよ、うん!


 そうして、握られた塩が鍋に、ゴボっと広がっていく。


 アシミー:大丈夫よね? 色も変わってないみたいだし……


 アイシャが炒め物を作り終わると、アシミーに声を掛ける。


「アシミー、ごめん! 鍋の火はそのままでいいからさ、木皿を出しといて、あと器も」


「あ、うん。わかった!」


 鍋を一瞬見つめながら、アシミーは木皿を取りに馬車に向かう。


 その後の夕食で全員の顔が渋くなるのだが、今のアシミーはまだ知らない。


 塩辛い夕食を迎えた一行は、喉のヒリつく渇きを必死に水で癒していた。


「アシミー……アンタ、常識ってやつを知らないわけ……ありゃ、海水だよ」


 アイシャの発言にネルが笑い出す。


「あはは……やられたなぁ、まさかのアシミーちゃんからの不意打ちは予想外過ぎて、びっくりだよ」


 そうして、笑う2人にアシミーが謝罪しながら、ゆっくりと夜は流れていく。


 水の補充をするために湖から汲んだ水を鍋で沸かしてから冷ますことになり、アシミーは焚き火の前で鍋を見つめていた。


 アシミー:やっちゃったなぁ……塩があんなに辛くなるなんて……色はそのままだったのにさぁ。


 事実、アシミーはあまり、塩の辛さを感じていなかった。

 アシミーは、蜘蛛ダコの亜人であり、本来、蜘蛛ダコの亜人は塩分の高い地域の海水を好み生活している種族であり、塩に対して強い耐性がある。


 その結果、味音痴になりやすい種族でもあった。

 普段、アシミーがグラードの街で食べている魚も塩漬けにしてある物を焼いていたが、アシミーはそれを単体で食べていたが、薄味だと感じるくらいには味音痴である。


「アイシャにまで、常識の話をされちゃったし、私って、非常識なのかなぁ……正直落ち込むわね……」


 そんなアシミー達の耳に草木を勢いよく掻き分けて複数の人間が迫るような音が次第に近づいてくる。


 そうして、木々を押し退けるように姿を現したのは、数名の装備がボロボロになった状態の冒険者達だった。


 冒険者達の背後からは、馬の蹄が大地を震わせるような地響きが迫ってくる。


 アシミーは強い口調で、声を上げる。


「なんなのよ、アンタ達!」


 冒険者達の姿を確認したアシミーは慌てて、戦闘態勢に入る。

 しかし、アシミーを見た冒険者の1人が慌てた様子で叫び声をあげる。


「アンタも逃げろ! 奴らがくるぞ!」


「奴らって誰よ!」


「いいから、走れ! 来るぞ!」


 ただならぬ冒険者達の言葉、その先からは無数の草木が擦れるような音が次第に向かって来ており、アシミーは視線を冒険者から音のする方角へと向け、身構えた。

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