47、サスタ商会再び。目的地はどこ?
冒険者ギルドから移動する2人は、早朝の街をゆっくりと食堂に向けて歩いていく。
「ネル……本当によくないわよ。ペルグさんはギルドマスターなんだからね」
「ギルドマスターなら、朝ご飯にステーキを三枚要求されたくらいで怒らないでほしいなぁ、イライラするのは、よくないよねぇ?」
ネルはそういうと、煙草を取り出して、火をつける。
煙草を吸いながら、毎日のように食事をするタクマ親子の食堂に入る。
「いらっしゃい。お、ネルとアシミーか、朝からギルドは賑やかみたいだけど、なんかあったのか?」
タクマの声にネルがつまらなそうに返事を返す。
「なんかバタバタみたいだねぇ? まぁ、ボクちゃん達からしたら、朝ご飯の方が大切だけどねぇ」
アシミー:そんなわけないじゃない……ネルが怒らせたから、ギルドから出てきたんでしょうが。
世間話を程々にテーブルに案内されると2人は、素早く注文を決めていく。
「アシミーちゃん……朝から魚料理なのかい? お肉を食べないと力が出ないよぅ〜」
「昨日も同じようなこと言ってたわね……むしろ、朝からステーキを頬張るネルにびっくりよ……朝からよく入るわね……」
「ステーキはいつ食べても最高だからねぇ……それより、アシミーちゃん? サスタ商会に話を聞きに行く気なのかい? あのオジサンの話だとさぁ、詳しい内容はサスタ姉が知ってるみたいだけどさぁ」
アシミーは、サスタが笑う表情を思い出してから、軽く首を左右に振って見せる。
それから、目の前の白身魚のムニエルを落ち着いた様子で口に運ぶ。
「いきなり行ったら迷惑になるでしょ? とりあえず、向かうにしても話を聞くのは、その後になるわね」
「なんでさぁ? 冒険者ギルドには、直接話に行くのにさぁ〜。不公平だよぅ〜」
軽く頬を膨らませるネルは、タクマをテーブルに呼び、追加のステーキを注文していく。
アシミー:あの細い身体のどこにあの量の肉が入るのよ……何より、三食食べてるはずの私の栄養ってどこにいってるのかしら……不公平だわ。
追加のステーキをネルが平らげたタイミングで、アシミーは、小さく溜め息を吐いた。
「でも、よくよく考えれば、あのままドゴール男爵領に入って、お店を見たりあっちの冒険者ギルドで報告とかしてたら、私達も危なかったのよね……」
ネルが食後の一服を開始する。
煙草からゆっくりと煙が天井に流れると、ネルは不思議そうにアシミーを見てから、不敵な笑みを浮かべた。
「本当にドラゴンが相手でも、アシミーちゃんは絶対に守るから安心しておくれよぅ〜」
「分かってるわよ。ただ、守られるだけなんて、私は死んでも嫌よ! ネルと一緒に戦うんだから」
互いに笑みを浮かべ、2人は食堂から移動する。
向かった先はサスタ商会のある大通りだ。
本来ならば、個人が関わる内容ではないだろう。しかし、ネルはペルグへの嫌がらせを考え、冒険者ギルドに隠されている内容があると確信していた。
「ねぇ、ネル? 本当にサスタ商会に開示してない情報があるの?」
半信半疑といったようすで質問を口にするアシミーに、ネルが人差し指を立て、左右に軽く動かす。
「チッチッチ〜。ボクちゃんの知ってるサスタ姉は、冒険者ギルドなんかに全部話すなんて、絶対にしないのさぁ〜」
「なんでよ? だって、貴族の領地が一晩で壊滅状態ってのが本当なら、協力するべきじゃない?」
「冒険者なら、そうなんだろうけどねぇ……サスタ姉は、商人だからねぇ……情報は商品で、お試しって感じに少しだけ出したんじゃないかなぁ?」
アシミー:もしも、それが本当なら、私達に話を聞かせてくれるか分からないじゃない……情報料とか、必要になるのかしら……ネルの食費でそんなにないわよ……
「心配しなくても大丈夫さぁ〜。サスタ姉さえ、居なければ、ボクちゃんが絶対に説得するからさぁ〜、あはぁ」
ネルがパキパキと指を鳴らしてから笑う。
アシミー:絶対……話し合いじゃないわよね。サスタさん……今回は絶対に居てよ……
2人がサスタ商会に到着するが、当然ながら商会はしっかりと営業しており、従業員達も以前と変わらずに業務をこなしていく。
入り口から中に入ると、すぐにネルへと声が掛けられる。
「これはこれは、サスタ会長の妹君。ようこそ、おいでくださいました。一昨日は、急なご訪問に対応が遅れてしまい申し訳ありませんでした……今回も、ロバをお預けにこられたのでしょうか?」
慌てた様子ながら笑みを浮かべる男性にネルは満面の笑みを向ける。
「情報をおくれよぅ〜。意味は分かるよね?」
アシミー:普通分からないから! むしろ、頼む側なんだから、言葉を選びなさいよーーー!
困った表情の男性は軽く考える仕草を見せた後、ネルに質問をする。
「質問に質問を返すのは、無粋なのですが、私どもにも、話せる内容に制限がございますので、会長にお伺いを立ててもよろしいでしょうか?」
次にネルが悩むように目を瞑り唸り出す。
「うーん……ダメだよねぇ?」
アシミー:え?
男性も驚き「へ?」と声を出す。
一瞬、その場が凍りつくとネルは悩まずに言葉を続ける。
「だってさぁ、サスタ姉に商会の商品を任されてるんでしょう? ボクちゃんは、情報を貰いに来たのにさぁ、判断できないから相談なんて……首が何個も飛ばされちゃうんじゃないかなぁ〜」
その言葉に男性とアシミーの2人は天井に軽く視線を向ける。
次の瞬間には、男性が表情を青ざめさせる。それだけですべての答えが出ていた。
「わかりました……私が話せる範囲で情報をお話いたします。ただ、妹君……あくまでも、私の知る範囲ですよ?」
そうして、ネルとアシミーはサスタ商会の男性もとい、店長から情報を手に入れる。
別室に案内された2人は長椅子に座ると話を聞いていく。
内容としては、ドラゴンかの確認は取れていない事実と、ドゴール男爵領は、一晩で壊滅状態であること、そして、ドゴール男爵がその騒動の中で死亡していた事実だった。
アシミーが声を上げる。
「えぇぇ!」
そんな声に慌てて、店長がアシミーに黙るように人差し指を立てる。
「しー! この話は、まだ外に出したらマズい内容なんです……商会としても、貴族の死は軽はずみに扱えないので、本当にお願いしますよ」
小声でそう言われたアシミーが首を縦に振る。
静かになった室内に、ネルが口を開く。
「つまり、サスタ姉は……その内容を知ってるけど、表に出してないんだよねぇ?」
「そうなります。本来なら話すべきか悩みましたが……サスタ会長から、妹君が来られた場合は構わないと言われていましたので……」
「ふ〜ん。つまり、もっと怖〜い事実が他にあるってことだよねぇ〜?」
ネルの言葉にアシミーは、引き気味で質問する。
「なんでそうなるのよ。今だって凄い話じゃない?」
「だって、貴族が死んだのは、ボクちゃんに伝えて構わないって言い方だとさぁ、もっとやばい話があるんだろうなぁ〜って思うじゃないかぁ」
そこまで話すと、店長は少し困ったように頭を抱える。
「サスタ会長からは、妹君が来られて貴族の死から先について聞かれた際、転送陣を使って、元ドゴール男爵領に送るように言われています。すぐに向かわれますか?」
店長の言葉を聞いたネルは、何かを悩むように唸り出す。
「う〜ん。転送陣はいいやぁ。ボクちゃんはアシミーちゃんと2人で直接向かうことにするよ」
店長は驚きながらも、冷静さを取り戻してから、口を開く。
「本当にそう言われるんですね……正直、驚きました。サスタ会長も『我の妹は断るだろうが、提案はしろ』と言われてましたので」
話が終わり、2人を見送る店長は頭を下げる。
「本当に……会長といい、妹君といい……はぁ、竜の尾を踏むなかれ……気をつけないとですね……」
グラードの街にサスタ商会から店長の溜め息が大きく響いた瞬間だった。




