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『行く先々で問題を起こす“煙の魔女”とパーティーを組んだんだけど、私の胃は限界かもしれない』  作者: 夏カボチャ 悠元
家族の形、いるべき場所といたい場所

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46、2人の日常は、ほのぼのと

 グラードの街を目指すアシミーとネルは、行きと同様に【煙馬モクバ】を使うことで、日が暮れにはグラードの街へと辿り着いていた。 


「本当に便利なスキルね。半日で、三日掛かるはずの距離を移動できるなんて、改めて驚いたわ」


 アシミーの言葉にネルが胸を張りながら、嬉しそうに喋り出す。


「そうだよねぇ〜。まぁ、ボクちゃんとしては、もう少しアシミーちゃんと空のデートを楽しみたかったけどねぇ」


 2人は【煙馬モクバ】から地面に降りると、グラードの街へと続く門を進んでいく。


 既に繁華街からは料理とアルコールの匂いが風にのり、街全体に広がっていた。


 鼻を動かしたネルは、アシミーに向き直る。


「大変だよ、アシミーちゃん! ボクちゃんの腹時計が夜ご飯の時間だってさぁ〜。アシミーちゃん、何食べる?」


 アシミー:まったく、まずは冒険者ギルドに報告って考えはないのかしら……


「ネル、冒険者としての意見だけど……冒険者ギルドに報告とかって考えにはならないの?」


「え? なんでさぁ、ボクちゃん達はタダ働きして戻ってきたんだから、わざわざ報告する必要あるのかなぁ〜」


「たしかに、タダ働きだけど……」


 ネルはアシミーが納得したのを確認すると大袈裟な動作を交えて話を続ける。


「それにさぁ? あのじいさんが冒険者ギルドに失敗報告しない限り、どっちになるか分からないじゃないかぁ〜、依頼は間違いなく達成したのも事実なんだしさぁ〜」


 アシミー:なんで、変に説得力ある言い方するかなぁ……はぁ。


「わかったわよ。トライゾンさんが報告するまでは、その話は保留ね……ギルドで聞かれても、トライゾンさん待ちだって説明するわ」


「なら、まずはご飯だよねぇ。やっぱり、タクマの食堂で、ステーキを食べないとだよねぇ」


「え、昨日も食べてたじゃないのよ! あ、待ちなさいよ、ネルったら!」


 ネルの足は軽快に進み、止まった先は食堂である。


 昨日と同じ扉を潜り、タクマと親父さんが「いらっしゃい」と明るい声で入店した2人に向けた。


 悩まずに注文をするネルと僅かに悩み、メニューを決めたアシミーがタクマに注文を口にする。


 しばらくして、ネルの前にはステーキが置かれ、アシミーの前には魚料理が置かれる。


「アシミーちゃん、お肉食べないと小さいままだよ?」


「うるさいわね! 私は小さくないわよ。小柄なだけよ! 何より、魚を食べないとやる気が出ないのよ」


 そんな他愛ない会話をしながら、料理を楽しむ2人、既にギルドへの報告を保留にしたことから、アシミーは追加でワインを注文していく。


「アシミーちゃんがお酒なんて珍しいねぇ? ボクちゃんは、絶対に果汁水の方が美味しいと思うけどなぁ?」


「わかってないわね? 魚料理には、ワインが一番なのよ」


 触腕髪を真っ赤に染めながら、ワインと料理を楽しむアシミーを見て、ネルは微かに笑った。


 食事が終わり、食堂から出た2人、気持ち良さそうな表情のアシミーがネルに抱えられており、ネルはそんなアシミーを見て頬に軽く手を触れる。


「本当に手のかかるアシミーちゃんなんだから、ボクちゃんがいなかったら、危ない人に攫われちゃうじゃないかぁ」


 そうして、2人は宿屋に戻っていく。


 宿屋の主人が、ネルとアシミーを見てから問い掛ける。


「今日は湯は要らんかな?」


「今は眠いみたいだけど、アシミーちゃんは、すぐに起きるから、頼むよぅ」


 宿屋の主人は軽く頷くと「湯ができたら、部屋に持ってくよ」とネルに伝える。


 ネルは部屋にアシミーを連れて上がると室内にあった椅子に座らせてから、水差しから水をグラスに注いでいく。


「アシミーちゃん。水は飲めるかい?」


「あれ、なんで宿屋なの? 水……貰うわ」


 アシミーが受け取った水を一気に飲み干すと、タイミング良く、扉がノックされる。

 宿屋の主人が桶に入った湯を持ってくるとネルはそれを受け取り、テーブルに置く。


「アシミーちゃんも、身体を拭くだろう? 用意して貰ったんだぁ〜。ボクちゃんはアシミーちゃんといるとすご〜く幸せだよぅ」


「いきなりなんなのよ? ネルったら、いきなり幸せとか言われても困るじゃないのよ」


 ネル:幸せって言えちゃったぁ。ボクちゃんってば、素直なんだからぁ。


 アシミー:飲み過ぎたかしら……いきなり幸せってなんの話しかしら……頭が回らないわね。


「いつもの感謝を込めて、ボクちゃんがアシミーちゃんを拭いてあげるからねぇ!」


 アシミーに振り向いたネルの顔が悪い笑みを浮かべていた。


「なんなのよ。そのニヤリ顔、私は自分で拭けるわよ」


「ボクちゃんに洗われるのがそんなに嫌なのかぁ〜い? 悲しいなぁ」


「ち、違うけど、変なことしたら、怒るわよ……約束よ」


 そうして、賑やかな室内で2人は身体を拭き合い、騒ぎながらも最後は仲良く一つのベッドで眠りについた。


「アシミーちゃん……寝ちゃったかい?」


「起きてるわよ……どうしたの」


「ボクちゃんさぁ……ずっと一緒に居たいなぁって、思ったから……」


「当たり前じゃない。私が居なくなったら、ネルの暴走を誰が止めるのよ……いちいちペルグさんを呼ぶとか大変じゃない」


「あのオジサンが来たってボクちゃんは止まらないけどねぇ……ふふ、おやすみアシミーちゃん」


「えぇ。おやすみなさい、ネル」


 2人が眠りについた後、ドゴール男爵領の惨劇が離れた街、グラードにも届けられる。


 早朝から慌ただしい冒険者ギルドにアシミーとネルの2人は足を運んでいた。


「まったく、アシミーちゃんは真面目すぎるよぅ」


「昨日は、流されたけど、理由くらいは伝えとかないとマズいでしょ? とりあえず、アイシャに状況だけは話したいのよ。そんなに嫌なら宿屋に戻って、寝ててもいいわよ?」


「ボクちゃんも今更帰らないよぅ。起きちゃったからね。何より、アシミーちゃんに着いてきたんだから、戻らないさぁ」


 そうして、2人は冒険者ギルドに入る。すぐに受付にいたアイシャがアシミーとネルの姿に気づくと、慌てて駆け寄ってくる。


「良かった。アシミーにネルも無事に逃げて来たんだね。すぐにペルグさんに伝えないと、とにかく本当に無事でよかったよ」


 嬉しそうにそう口にしたアイシャは慌てて踵を返すとマスタールームへと向かって走っていく。


 状況が理解できない2人は互いの顔を見合わせると首を傾げた。


「私達が無事で良かったって、何かあったのかしら?」


「さぁ、ボクちゃん達には、関係ない話だろうから分からないやぁ」


 近くの冒険者がアシミーに向けて喋り掛けた。


「アシミーとネルじゃないか! ドゴール領に護衛依頼で向かってたみたいだけど、無事だったんだな」


 アシミーは困惑しながら、冒険者に聞き返す。


「え、無事って、なんの話なの?」


「なんだ、まじに知らないのかよ……ドゴール領にドラゴンが現れたらしい。一晩でドゴール男爵の屋敷のある一帯が酷い状態らしくてな……」


「何よ、その話……それにドゴール男爵領から、グラードまでかなりの距離があるわよ。なんでそんな話が伝わってくるのよ」


「落ち着けよ! なんでもドゴール男爵領の近隣の領地から、サスタ商会の転送陣を使って連絡があったらしい。朝からその話で大騒ぎだからな」


 他の冒険者達を見れば、多少のざわめきの中に「ドラゴンだとよ……」「強制依頼にされたら、堪らねぇな」などの声が飛び交っていた。


 そこまで話すと冒険者の仲間達も遠征依頼のクエストを手にやってくる。軽く挨拶を済ませると冒険者達はその場から立ち去っていく。


 残された2人は、それから間もなくして、ペルグに呼ばれることになり、ドゴール男爵領についての話を詳しく聞かれることになった。


 ギルド内の会議室で、アシミーは指名依頼についての話を事細かに説明していく。


「──と、言うわけで、私とネルはドゴール男爵領に入る手前でトライゾンさんとは、別れてるんです。何より、ドラゴンなんて見てません」


 説明する横で欠伸を浮かべるネル。


「オジサンさぁ、ドラゴンが居たとして、ボクちゃんとアシミーちゃんには関係ない話だと思わないのかぁ〜い?」


 ペルグの眉間に苛立ちが形になるが、軽く咳払いをするとネルの発言を無視するようにアシミーへの質問を続けていく。


「つまり、お前達2人は、ドゴール男爵領の傍まで依頼主を護衛して、その場で依頼をクリアとなったんだな?」


「まあ、そうなるわね……ペルグさん、それより本当にドラゴンなんですか?」


「正直、分からん……ただ、一晩で男爵領を崩壊させるなんて話を考えれば、そう思う他ないだろうな」


 真剣な話をするすぐ側で、ネルが舌を出しペルグをバカにする。


 アシミー:本当になんで……


 次第にネルの行動にペルグの表情が変わっていき、ネルが変顔を始めた瞬間、ペルグが立ち上がる。


「てめぇ! ネル・ニルガル! こっちは大切な話をしてんだ! 少しは常識ってもんがねぇのか!」


「常識人のボクちゃんに失礼じゃないかなぁ? それより、すぐにドラゴンが本当にいるか確認したら済むじゃないかぁ〜」


「言われんでもしてる最中だ! ただ、転送陣の魔力が貯まらないと使えんと言われて、報告待ちだ!」


 ペルグはサスタ商会でのやり取りを思い出して、軽く溜め息を吐いてみせる。


 サスタ商会の転送陣は、優秀ではあるが、万能ではない。

 魔力を大量に消費して、発動するため、往復の魔力を考えれば送る側と受け取る側の両方に魔力を使うからだ。


 夜中に報告に来た者を受け取り送り返した結果、魔力の補充をしなければ再度使うことはできないのだ。


 ペルグの言い分を聞いたネルがポツリと呟く。


「なら、ボクちゃん達は帰ろうか?」


 アシミー:え? いきなり、なに言ってるのよ。本当に……どう考えたら、そんな発言に繋がるのよ!


「ネル、少し落ち着かない?」


「落ち着いてるから帰るのさぁ……だって、ここで待ってても、朝ご飯を食べて待っても結果的に一緒じゃないかぁ?」


 そこから、ペルグとネルの言い合いが更に激しさを増していくが、最終的にネルから「なら、今すぐに朝ご飯だしてよ〜」という要求にペルグの限界が突破することになり、2人は冒険者ギルドを後にするのだった。

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