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『行く先々で問題を起こす“煙の魔女”とパーティーを組んだんだけど、私の胃は限界かもしれない』  作者: 夏カボチャ 悠元
家族の形、いるべき場所といたい場所

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42、ネルの提案とおもてなし?

 夜が更け、アシミーとネルの見張りにも僅かながら、余裕が生まれていた。軽く欠伸を浮かべるアシミー。

 その様子を眺めていたネルが優しい微笑みを向ける。


「アシミーちゃん。見張りは交代でやるべきじゃないかなぁ……提案だけど、最初は眠そうなアシミーちゃんから休みなよぅ」


 アシミー:眠そうだなんて、久しぶりの見張りで緊張してるのかしら……頑張らないと。


「私は大丈夫よぅ……まだ眠くないんだから……」


 アシミー:なんで……ネルは眠くないわけ……私が先に寝るなんて、お姉さんとしてありえないんだから……


 ネル:アシミーちゃんたら、無理してるんだねぇ……眠くないって頑張るアシミーちゃんは可愛いなぁ〜


 次第に舟を漕ぐように身体を前後させるアシミーがガクッと下を向いた瞬間、ネルが優しくかかえる。


 お姫様抱っこをしたまま、ネルはアシミーを馬車の荷台に横にさせると、軽く頬に手を伸ばす。


「無理はお肌に良くないからねぇ……それにボクちゃんは、お・も・て・な・しをしないとだからねぇ……ゆっくり寝ててね、アシミーちゃん」


 静まり返った馬小屋の中でネルは両手を広げる。

 両人差し指を真っ直ぐに伸ばして四角形を描くように動かしていく。


 普段使う防衛用の煙を何倍も濃くした密度の煙が馬小屋を覆うように広がっていくと、ネルは小さく頷き、馬小屋の外へと移動する。


 周囲を見つめ、わざとらしく数回首を縦に振ってから声を出す。


「居るんだよねぇ〜。かくれんぼがしたいのかなぁ……ボクちゃんは、鬼も得意なんだよぅ……最初の悪い子さんはどこかなぁ?」


 子供が誰かを探すように始める1人遊び、そんな印象を与えるが、隠れて様子を窺っていた男達はその発言に警戒しながらも、相手が女であり、少女としか見えないネルを見て笑い出していた。


 ネルが1人、動き出すと男達は、小さく笑みを浮かべていく。


「見ろよ。あいつ、わざわざ外に出てきやがったぞ。ガキにしちゃあ、スタイルがいい方だな」


「気の強そうなガキだな……俺はパスだわ……ただ……可哀想だけど、出てきたならつまみ食いくらいはしないとだよな、へへ」


 そんな最低な会話に男達が小さく笑う中、一瞬でネルがその場から姿を消す。


 遠目から見ていた男達は慌てて、馬小屋の周囲を探すように望遠鏡を動かしていく。


「どこに行きやがった……くそ、暗くて分からねぇ、見失ったら見つからねぇじゃねぇか……」


「分からねぇよ……多分、中に戻ったのかもしれないな──ッ!」


「おい? どうした」


 突然、会話が中断した事実に軽く苛立ったような声を上げる。ただ、その理由はすぐに明らかになる。


 別の男が突然、暗がりから顔を出す。


「うわ! 馬鹿野郎、脅かすな……それより、女は見つけたか……あの生意気そうな女冒険者を泣かせて、ついでにもう1人も二度と冒険者をしたいなんて思えないくらいイイ声で鳴かせてやる」


 そんなゲスな言葉は、突然転がる男の首と共に無音へと変化する。

 物理的に男は言葉を発せなくされていた。

 男の口に無理やり押し込められた未だに脈打ち、余った赤い液体を吐き出す男の一部が、ゲスな笑い声を出していた男の気道を完全に塞いでいく。


 その背後から、闇に紛れて笑うネルが顔を出す。


「すご〜く……悪い子には、淑女しゅくじょのボクちゃんから……教育をプレゼントだよぅ……好き嫌いはダメだから……しっかり味わって食べておくれよぅ……」


 無邪気にネルがそう口にすると、無理やり男の顎を掴み、肉というにはフレッシュ過ぎる塊をただ噛み砕かせていく。

 意識の消えた男が、真っ赤に染まった泡を噴き出し、歯がボロボロになろうと掴んだ手で噛ませ続けていく。


 ネルは幼い子供に向けるような声色を出しながら、笑顔を浮かべる。


「は〜い……よく出来ました……次は、いい子になれるといいねぇ……悪い子はお終いの時間だよぅ……」


 振り上げた手に煙が纏われ、勢いよく振り下ろされる。

 数分前まで、ネルを欲望の対象としていた男達がただの肉へと代わる中、異変に気づいた生き残りの男達は慌てて、バクス村から逃げ出していく。


「なんなんだよ! なんで……先頭の奴らがいきなり、やられてんだよ!」


「俺が知るかよ! 楽な依頼自体が俺達を集めるための罠だったんだ……ドゴールの野郎……許さねぇ!」


「リーダー、やべぇ! また後ろの奴がやられた! マジに俺らを皆殺しにする気だ!」


 男達は必死にバクス村から逃げていく。村の外へと逃げ延びた男達は依頼主であるドゴール男爵に怒りの矛先を向ける。


 情けない話だが、彼らも元は冒険者であり、実力の差が測れないような愚か者達とは違った。


 男達のリーダーは、すぐに仲間を集めると、ドゴール男爵の屋敷に向かって馬を走らせていく。


 同時刻、ネルは村に散らばった肉の塊を集めて、飛び散った液体を掃除していた。


「急がないとアシミーちゃんが起きちゃうじゃないかぁ……まったく、汚したら自分で片付けてくれたらいいのにさぁ、バラバラになったらみんな動かないんだから、まったく!」


 大きな独り言を呟きながら、煙が地面に染み込んだ真っ赤な液体を吸収しては霧散する。


 地面がキレイな土色に戻るとネルは、次に肉の処理を開始する。


「くさぁ! 何を普段から食べたらこんな臭いになるのさぁ……はぁ……燃やすのは諦めて、捨てに行こうかなぁ……よし、なら入口に運んでっと」


 ネルは、肉になった男達だったものを【煙縄もくなわ】を広げ、包み込むと無造作に並べていく。


 そうして、眠っていたアシミーの元に向かうと、優しく身体を撫で、起こさないように呟いた。


「すぐに戻るから、ゆっくり寝ててねぇ……ボクちゃんが居なくても泣いたらダメだよぅ〜」


 優しい笑みを浮かべたネルは、闇夜の中を大量の肉を包んだ【煙縄もくなわ】を抱え、空に向けて駆け出していく。


 向かった先は、ベスパの森であり、ネルはクイーンが失われたことで、冒険者達が訪れることの無くなった森に餌をバラ撒くように肉を空中から投げ与えた。


 地上では、突然降り注いだ餌にキラービーナ達が慌ただしく活動を開始する。


 その光景を見て、ネルは小さく頷き、空を悠々と移動していく。


 軽く水浴びをしてから、ネルはバクス村へと戻る。


「やっぱり、無駄がないなんて素敵じゃないかぁ〜。ボクちゃんはやっぱり、淑女しゅくじょらしい振る舞いが似合っちゃうんだよねぇ〜あはぁ」


 バクス村に舞い戻ったネルを待っていたのは、怒りに震えたアシミーであった。


「ネル……私が寝たのはたしかに悪かったけど、アンタは見張りをしてたのよね……なのに! なんで、煙の防壁を作ってネル本人がいないのよ!」


「あ、あはは……色々あって、ボクちゃんは村の外にゴミ片付けの再利用をしに行っててねぇ……遊んでたわけじゃないんだよぅ……」


「はぁ、まったく、それなら私を起こしなさいよ?」


 アシミー:いつ寝たか分からないけど……少なくとも十数分は、いなかったんだから、怒られて当然よね?


 ネル:ありゃりゃ……やっぱり、一緒に連れてくべきだったのかなぁ……


「次からは絶対に起こしてね! 目が覚めて、ネルが居なくてびっくりしたんだから……」


 ネル:ボクちゃんが居なくて、寂しかったのかぁ! 怒ったわけじゃなかったんだ……良かったぁ〜。


「アシミーちゃん〜照れないで抱きついてくれたらいいのにぃ〜」


「違うわよ! 抱きついてくるのは、いつもネルでしょうが! もうぅぅぅ!」


 そんなアシミーの叫び声がバクス村の真夜中に響いていく。


 空に広がる雲が風に流れると、ネルに抱き締められる光景を月明かりだけが静かに照らすのだった。

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