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『行く先々で問題を起こす“煙の魔女”とパーティーを組んだんだけど、私の胃は限界かもしれない』  作者: 夏カボチャ 悠元
家族の形、いるべき場所といたい場所

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41、非常識? 美味しいステーキと招かれざる男達

 世界にはワイバーンや鳥型の従魔を使っての移動方法が存在する。

 しかし、スキルは本来、術者のみを対象にするのが一般的であり、複数人を同時に連れて空を移動するという常識の外側の行動を前にアシミーは、驚きと感動を隠しきれずにいた。


「すごいじゃない。何よこれ! 空を飛んでるじゃないのよ。なんで飛べるわけ、どうして馬車が浮いてるのよ!」


 子供のように質問を次々に口にするアシミーを見て、ネルは嬉しそうに声を弾ませる。


「あはぁ、珍しく大興奮じゃないかぁ〜。アシミーちゃんたら、お子ちゃまだなぁ。ボクちゃんみたいに落ち着いた振る舞いをしないとダメじゃないかぁ。それが淑女しゅくじょの嗜みなんだからさぁ」


 アシミー:いつも思うけど……淑女しゅくじょは、空にロバとか荷馬車を飛ばさないと思うのよね。


 次第に速度を上げていく煙の馬車は、グラードの街を目指して進んでいく。


 そんな空を走る馬車の下を慌てて進む10数人の影が存在していた。


 暗がりの中で男達の声が響いていく。


「早くバクスの村に向かうぞ! 稼ぎのいい仕事だからな」


「しかし、貴族様もわけのわからない依頼を出すもんだよな?」


「まぁ、金さえ貰えりゃいいんだよ。トライゾンの奴も上手く例の2人組を見張りにさせてるだろうからな。あとは矢を撃ち込んで品物を壊せばいいだけの楽な仕事だ。ガハハ!」


 男達の正体は、冒険者崩れの盗賊だった。今回、男達が請け負った仕事はアシミーとネルの襲撃であり、今回の指名依頼は最初から、ある人物により仕組まれた偽りのクエストであった。


 ただ、彼らは知らなかった。既に見張りの常識はネルにより、非常識な形に変化していた。

 その事実に気づいた時には既にすべてが遅いのだが、男達はその事実を知る由もない。


 男達の笑い声だけが、森の中に響いて消えていく。



 森を進む男達がバクスの村に向かう中、アシミーとネルは無事にグラードの街に戻っていた。


「さぁ、アシミーちゃん! ご飯にしようよぅ! ボクちゃん、お腹ぺこぺこだよぅ」


「待ちなさいよ? まったく、ネルたら、まずはロバを何とかしないとでしょ? あの食堂の前に荷物ごと置くなんて絶対にダメだからね!」


 ネルの発言を見越したアシミーの発言にネルは、小首を傾げると何かを閃いたように明るい表情を浮かべた。


 ネル:あるじゃないかぁ〜、ロバ君もご飯が食べれて、ゆっくり出来る場所!


「ボクちゃんってば、やっぱり、さすが過ぎるなぁ。アシミーちゃん、ロバ君、付いてきておくれよぅ」


 ネルが向かった先は、サスタ商会であり、いきなりの訪問に従業員だけでなく、慌てた店長の姿もあった。


「これは、これは、サスタ会長の……此度はどうなさいましたか? 生憎と会長は当店には不在ですが?」


 店長がそう口にすると、ネルはにっこりと笑う。


「今回は、お願いがあって来たんだよぅ。実はロバ君と荷物を少しだけ預かってくれないかなぁ?」


 ネルの発言に店長は首を傾げる。


「ロバ、で、ございますか? 一時的でしたら、納屋が空いておりますので、問題ありませんが?」


「そうかい。ありがとう! ボクちゃんとアシミーちゃんがご飯を食べてる間だけでいいんだけど、頼めるかい?」


「かしこまりました。大切にお預かり致します」



 話が纏まり、荷馬車とロバをサスタ商会に預けることになり、2人は食事に向かう。


「それじゃあ〜、ロバ君のご飯も任せたよぅ〜」


「はい、かしこまりました。ネル様、アシミー様、行ってらっしゃいませ」


 サスタ商会で既に2人の存在は認知されていたため、ネルの頼みはあっさりと受け入れることになり、アシミーはその事実に驚いていた。


 そんなアシミーの横でネルは気楽そうに口を開く。


「いやぁ〜サスタ姉の商会がロバ君を預かってくれて助かったねぇ」


「いやいや、普通はいきなり馬車を預けたりしないのよ……まぁ、今更だけど」


「それより、ご飯だよねぇ〜。ステーキがボクちゃん達を待っているからねぇ」


 グラードの街にある、ネルのお気に入りの食堂に2人は入っていく。

 店内からは時間を知らせる魔道具がバクス村を離れてから、二時間程たった事実を音色で伝える。


 2人の姿に気づいたタクマが声を掛けてくる。


「あれ? ネルにアシミーじゃないか、もう依頼を終わらせたのか?」


「やあ、タクマ。違うよぅ〜、ボクちゃんはステーキが食べたくて仕方ないから、急いでご飯を食べるために戻ってきたのさぁ」


 ネルの発言にタクマがアシミーに視線を向ける。


「事実よ。わざわざ、グラードにご飯を食べに戻ってきたのよ……」


「それは……はは、やっぱり、ネルはとんでもないな。すぐに親父に言って、肉を焼いてもらうから、待っててくれよ」


 タクマはそう言うと厨房に向かっていく。


 テーブルで料理を待つ2人は自然と昼からの移動についての話になっていた。


 アシミー:二時間って……わざわざ昼過ぎから歩いて移動した数時間の意味ってなんなのよ。


「ネルがこんなに早く移動できるなら、最初から荷馬車を移動してあげたら良かったんじゃないの?」


「なんでさぁ? ボクちゃんは別に急いでないからねぇ〜。わざわざ楽をさせてあげる必要なんてないじゃないかぁ」


 ネル:それにせっかくのアシミーちゃんとのお出掛けなんだから、のんびりしたいじゃないかぁ〜。


 会話がひと段落すると同時にタクマがステーキを運んでくる。ネルとアシミーは、焼きたてのステーキにナイフを入れると、美味しそうに食べていくのだった。


 * * *


 その頃、バクス村に辿り着いた男達は唖然としていた。

 指示にあった宿屋を探す為、村人にバレないように忍び込んだまでは順調だった。しかし、肝心の荷馬車が宿屋の馬小屋には置かれていない。


 本来、矢を放てば終わるはずの依頼だったにもかかわらず、それが叶わない現実が目の前に広がっていた。


「なんで馬小屋に何もないんだよ」


「黙れ、大声を出したらバレちまうだろうが……とにかく……一旦、村を探すぞ。予定が狂うなんてのは、言いたくないがよくあることだからな」


 男達は、数人に分かれて、村の中をバレぬように荷馬車を探していく。

 しかし、荷馬車があるはずもなく、男達のリーダーも頭を悩ませていた。


「やっぱり居ないらしいな……まさかとは思うが、次の村まで移動してるのか……」


「だとしたら、目印を残すはずだろ……そんなものは見当たらないぞ。とりあえず、トライゾンのやつが泊まるはずだった宿屋に話を聞きにいくか?」


「チッ、だとしたら、俺達の格好はマズいな……一旦、服を変えるぞ」


「え、なんでだよ?」


「こんな盗賊丸出しの姿で宿屋に行ってみろ、手違いで冒険者達が中にいたら、間違いなく疑われるだろうが!」


 そうして、男達はバクス村から急ぎ離れていく。

 身なりを小綺麗にして、武器も冒険者風に装いバクス村に舞い戻る。


 状況判断が難しいため、男達のリーダーと2人の手下が冒険者として、宿屋に向かうことになり、夜の宿屋に足を踏み入れる。


 宿屋の中にある食事スペースで、酒を片手に肉料理を食べるトライゾンの姿を見つけた男達は苛立ちを顕わにする。


 当然だ、男達が必死にバクス村の中を身を隠しながら探していた。

 だが、トライゾンは酒と肉を貪り、下手な鼻歌を奏でている。


「あのやろぅ……」


「いや、トライゾンがいるなら、荷馬車はどこにあるってんだ……」


「俺が聞いてくるぜ」


 そうして、3人の中で一番、気さくな顔の男がトライゾンの座るテーブルへと向かう。


 多少疑った様子のトライゾンは、いきなり慌て出すとすぐに入口側の男達へと近づいていく。


 気まずそうなトライゾンは、声を小さくして質問をする。


「ここはマズい、誰かに聞かれたら厄介だ。とりあえず、部屋に来てくれ……」


 しかし、トライゾンの提案に男は首を横に振る。


「そいつは無理だな……部屋で冒険者に待ち伏せされてたら堪らないからな」


 トライゾンが宿屋に居たにも関わらず、荷馬車がないという状況に男達も警戒していた。


 当然、トライゾンは慌てて聞き返す。


「なら、なんできた? 計画変更の話し合いのためじゃないのか! それに外の2人以外の冒険者など雇っとらんぞ」


 そこまでの会話で互いの認識がズレている事実に両者が気づき、状況を整理することになるとトライゾンは慌て出した。


 当然、トライゾンの中では荷馬車は、ネルとアシミーの2人が見張っていると思っていたからだ。


 しかし、男達から「荷馬車はない」とはっきり言われてしまう。


 トライゾンが慌てて、外に駆け出していく。


「あ、待て!」


「待てるか、もし、荷馬車ごと奪われたなら、すぐに冒険者ギルドに訴えてやる!」


 自分自身が、ネルとアシミーを罠にめようとしたのも忘れて駆け出していた。


 息を荒らげたトライゾンが馬小屋に到着すると、ロバは気持ち良さそうに眠っており、ネルとアシミーは何も無かったと言わんばかりに荷馬車の周りに立っていた。


 慌てて走ってきたトライゾンを見て、アシミーが声を掛ける。


「あ、あら、トライゾンさん……どうしたんですか?」


 アシミー:危なかった……あと五分、早く来られてたら、完全にバレてたわね。


 トライゾンは、怪訝そうに怒鳴り声を上げる。


「うるさい! 積み荷の確認だ」


 荷馬車に向かったトライゾンは積み荷を一つ一つ確かめていく。

 当然、異常などあるわけもなく。トライゾンがすべての瓶を確認し終わると鼻息を荒くして、その場から宿屋に戻っていく。


 ネルはそんなトライゾンの姿に目を細めていた。


「態度が悪すぎるんじゃないかなぁ……さすがにイライラしちゃうなぁ……」


「正直、同意見だわ……なんて言うか……片道依頼でよかったと思うわね……荷馬車を届けたら、すぐに離れたいわね……」


 そんな会話をする2人、しかし、宿屋に戻ったトライゾンは焦っていた。


 理由は2人が荷馬車の見張りをしていたにも関わらず、この場には、2人を無視してトライゾンに直接会いにきた3人の男達が居たからに他ならない。


 トライゾンは男達を警戒しながら、問い掛ける。


「改めて、聞くが……計画変更ではないんだな……」


「しつこいぞ? それより、荷馬車はどこにあるってんだよ」


「荷馬車なら間違いなく、外の小屋にあった……疑うなら、見てこい」


 そうして、男達は荷馬車を確認にいく。いなかったはずの荷馬車が戻っており、男達も困惑した。


「分からないが……計画どおりにやるぞ……一旦、戻ろう……片方が寝てから、仕掛けるぞ!」


 そんな男達のリーダーの会話を静かにネルは捉えると、ニヤリと口角を吊り上げたのだった。

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