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『行く先々で問題を起こす“煙の魔女”とパーティーを組んだんだけど、私の胃は限界かもしれない』  作者: 夏カボチャ 悠元
家族の形、いるべき場所といたい場所

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38、サスタの手のひら、商人の力量

 苦々しい表情を必死に隠すアバリシアに向かって涼しい笑みを向けるサスタ。


 サスタが仕掛けた策略を未だに理解出来ていないアバリシアは、苛立ちを顕わにしながらも冷静を装う形で、両手を重ねながら交渉の糸口を探していた。


「どうやら、互いの意見に大きな行き違いがあったみたいだ……どうかね? 其方の条件にも譲歩しようじゃないか」


 さも当然であるような口振りで喋りかけるアバリシアだったが、サスタはその表情を崩さない。


 アシミー:これ、私達って関係ないよね……サスタさんには悪いけど、今すぐ逃げ出したいんだけど……


 ネル:なんか……退屈だなぁ……ボクちゃんはアシミーちゃんと一緒にご飯を食べに行きたいんだけどなぁ。


 2人の表情を軽く見てサスタはわざとらしく、アバリシアへと会釈をする。


「すまないが、連れがお前と話すのを不服そうに見ている。理解出来るだろう? 話し合いは無駄みたいだからな」


「ま、待ってくだされ……すぐに商業ギルドを支えるドゴール男爵が来られるはずだ! そうなれば、話し合いに意味も生まれるだろう……男爵はこのグラードでも、発言力のある御方だ、どうかね?」


 必死に呼び止めるアバリシアに、サスタはわざとらしく、悩む素振りを見せると、それから一つの提案を口にする。


「あらあら、必死な殿方の姿は見るに堪えないので、不本意だが、話し合いを受けようじゃないか。ただ、ドゴール男爵が現れない場合は、我の条件をすべて呑んでもらうのが条件になるが良いかな?」


「わ、わかりました……ただ、時間を頂きたい……ドゴール男爵は、既にグラードにお越しのはずだ……二時間、いや……三時間待っていただきたい……」


 本来なら有り得ない要望にサスタは反論せず、静かに頷く。


「構わないさ。ならば、三時間後にまた来るとしよう、我らは食事もまだなのでな」


 サスタはそう口にすると踵を返す。


 冒険者ギルドからネルとアシミーを連れて馬車に乗るとその場を後にした。


 馬車に乗り込んだネルは、気怠そうに感想を口にする。


「なんか、退屈な時間だったねぇ。アシミーちゃんもつまらなかったよね?」


「つまらないとかより、私は場違い感が凄すぎて、やっと一息つけた気分よ」


 2人の会話にサスタは楽しげに微笑むと本来の目的を口にした。


「さぁ、食事に向かおうじゃないか……楽しい時間は食後に待っているのだからね」


 そこから、3人は街中を馬車に揺られながら移動していく。

 到着した店舗を見て、アシミーが驚きを顕にするとサスタは、当たり前と言わんばかりに堂々とした足取りで店内を進む。

 冒険者の稼ぎ数ヶ月分を注ぎ込むほどの高級店であり、席に腰掛けたアシミーは震える手でメニュー表を開いていく。


「あ、あのサスタさん……値段が載ってないんですけど……」


「当然じゃろ? 値段を見て食事をするなど、愚の骨頂、味わう料理の価値は舌でのみ判断されなければならんからなぁ」


 そう語るサスタの横でネルがメニュー表をパタンと閉じる。


「ボクちゃんは決まったよぅ。アシミーちゃんとサスタ姉は決まったかい?」


 ネルの言葉にサスタが「アシミーならば、我と同じ料理で構わぬか?」と口にするとアシミーは首を縦に振る。


 そうして、頼んだ料理が運ばれ、食事を開始する3人の時間はあっという間に過ぎていった。


 アシミー:料金が載ってない料理なんて初めて食べたわ……雰囲気のせいで味が分からなかったけど……


 ネル:美味しかったぁ〜。お腹いっぱい食べれたし、デザートまで食べれて幸せだよぅ〜。


 食事が済み、デザートを食べ終わった後、紅茶がテーブルに運ばれてくるとサスタは、たっぷりと蜂蜜を流し込んでいく。


 サスタはスプーンを持ち上げて呟く。


「不思議だな……このスプーン数杯分の蜂蜜がこの街を支える柱なのだからね……どの蜂蜜よりも魔物が作る蜂蜜が芳醇で濃厚なのだからな」


 3人は紅茶を飲み終わると、冒険者ギルドへと再度移動する。


 冒険者ギルドの前に馬車が止まると真っ青になったアバリシア商業ギルド長の姿があり、取り巻き達も困り果てたように俯いていた。


「どうしましょう……アバリシア様、サスタ商会の会長が戻ってきましたよ」


 取り巻きの声にアバリシアは絶望的な表情を浮かべていた。


「わかっている……わかっているさ……ドゴール男爵は……まだ見つからんのか!」


「はい……少なくとも、分かっているのは……確かにグラードに入られたようですが……なぜか、その後にグラードから離れたようです」


 そんな悲痛な会話を終わらせる馬の嘶き、停車した馬車から堂々とした態度のサスタが降りると、冒険者ギルドの扉を開く。


 最初に案内された部屋に入ると、サスタはすぐに笑みを浮かべた。


「さぁ、時間です。話し合いを始めましょうか……」


 冒険者ギルドの会議室で話し合いが始まる。


 その場に座るのは一部を除き、大物ばかりであった。


 冒険者ギルド ギルドマスター──ペルグ・ランテ。


 商業ギルド ギルド長──アバリシア・フラッハ。


 サスタ商会 商会長──サスタ・クローシア。


 そんな3人と同じように席に座る2人。


 元Bランク冒険者──アシミー・ノーク。

 新Hランク冒険者──ネル・ニルガル。


 そして離れた別席には書記役として、冒険者ギルドのアイシャが座っている。


 アイシャ:本当にありえないな……ペルグさんは優しすぎるんだよ。いいじゃんか、商業ギルドなんか放置でさ、なんで話し合いの席まで用意するかなぁ。


 アシミー:絶対に私がいるのはおかしいわ……間違いよ……悪夢だわ。


 集められた面々は、無言の時間を僅かに過ごすと、サスタが呆れたように口を開く。


「さぁ……始めましょうか……まずは、ドゴール男爵は何処でしょうか? 挨拶をしたいのだがな」


 わざとらしい振る舞いと、大きくも小さくもない声で煽りだしていた。


 ただ、そんな態度に、アバリシアは力無く対応していく。


 本来ならば、どんなに大きな商会の人間だろうと、商業ギルドを敵になどしない。

 不運だったのは、グラードを含む複数の街には既に『サスタ商会』が存在し、転送陣という新たな運送技術を牛耳っている事実であった。


 商業ギルドは確かに巨大な組織ではあるが、内情は張子の虎と言って他ならないのが実情だった。


 話し合いが開始されると、クイーンの幼体についての話が中心に進められる。


 アバリシアは必死にサスタへと訴え続けていく。


「つまり……ワシら商業ギルドとしては、クイーンが消えることによる利益の損失は街全体の損失に繋がる……わかるだろう?」


 最初こそ、控え目な態度で話を小馬鹿にしていたサスタだったが、次第に苛立ちを顕わにしていく。


「話にならんな……其方の頼みで時間を与え、商人の時間を無駄にさせ、さらに泣き落としか? 下らぬな」


 その一言が決め手だった。

 商業ギルド側も、頼みの後ろ盾であったドゴール男爵が現れない事実とそれに代わる交渉材料がないためか、反論が出来ないまま、話し合いが進む。


 内容としては、クイーンの幼体について、幼体そのものは既にサスタが抑えている為、その後についてが議題になり、それはそのまま、利益の分配についての話し合いに他ならない。


 サスタは、自身の商会が取り分を5として、残りを商業ギルド2、冒険者ギルド2、あまりの1を税金とするなら、協力すると提案する。


 アバリシアは激昂する。本来なら、有り得ない分配額であり、商業ギルドと冒険者ギルドが同じ金額である事実が、アバリシアには到底受け入れられる条件ではなかったからだ。


「そんな話があるか! 商業ギルドからすれば、ほぼ利益にならないじゃないか! それに何故、冒険者ギルドと同じなのだ!」


 商業ギルドは蜂蜜を売る手段があるが、冒険者ギルドには存在しない。つまりは、商業ギルドの売上げから冒険者ギルドに分配金が生まれる事実にアバリシアは顔を赤く染めた。


 サスタは冷たく冷静に言い放つ。


「勘違いしないでほしいな……これは交渉であると同時に譲歩だ。本来なら、貴様らに銅貨一枚すら払わなくていい立場でありながら、救いの手を差し伸べてるだけなのだからな」


 話が拗れ、商業ギルドの利益が完全に消え去ろうとした時、無言で話を聞いていたペルグが口を開く。


「──冒険者ギルドは、二割の分配金は構わない。商業ギルドに譲渡するつもりだ。それは問題ないか?」


 ペルグの発言に次はアイシャが立ち上がると、苦言を口にする。


「な! 何言ってるんだよ! ペルグさん、普通に考えて、いい人過ぎますっての!」


 サスタは2人のやり取りを見ながら、ペルグへと返事を返した。


「我は構わないが? ただ、そこの女が言うように、冒険者ギルドに利益が生まれない話になるぞ? よいのか」


「いや、商業ギルドとサスタ商会には、ギルドで蜂蜜採取の依頼の際には、特別手当てを上乗せしてもらう。これが冒険者ギルドとしての見解だ」


 サスタが不敵に笑う。


「そういうこと……我は構わぬぞ? 依頼など、最初から考えていないからな」


 サスタとペルグの会話にアバリシアは苦々しい表情ながら、同意していく。


「……クッ、わかった……それで条件を呑もうじゃないか……」


 すべてが話し終わると、次にサスタはアシミーへと向き直る。


 アシミー:なに……私は何も言ってないし、静かにしてるじゃない……


「話に出さなかったが、我が商会はアシミーと契約した内容の通り、サスタ商会での蜂蜜の利益から一割を譲る。後に振り込み用の口座を渡すので、安心するがよいぞ」


 その場にいた複数の視線が一斉に向けられたアシミーが顔面蒼白になるが、無事に話し合いは終了した。


 新たなクイーンの育成地は、サスタからの要望により、あろうことかベスパの森から旧バケット邸跡地に存在する庭という名の小さな森になる。


 それにより、クイーンの小型化が成功し、冒険者達はAランクの魔物であったクイーンは弱体化、更に言えば、キラービーナも小型の魔物に変化し、蜂蜜採取の量は減ったが、難易度が大幅に下方修正される形となった。


 ただ、それでも冒険者から見た安全なランクは一般人からすれば危険である事実は変わらず、商業ギルドだけが依頼の手数料と特別手当てを支払う形になり、アバリシアは後日、発狂するのだった。

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