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『行く先々で問題を起こす“煙の魔女”とパーティーを組んだんだけど、私の胃は限界かもしれない』  作者: 夏カボチャ 悠元
家族の形、いるべき場所といたい場所

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36、トップの争い? 交渉は馬車の中で

 サスタ商会の特別室の中、睨み合うペルグとサスタ、そんな冒険者ギルドとサスタ商会のトップ2人が一歩も譲らない空気の中、ネルが唐突に口を開いた。


「サスタ姉、話し合いが長引きそうだしさぁ? ボクちゃんってば、お腹空いちゃったから、アシミーちゃんとなんか食べてきていいかなぁ?」


 アシミー:いや、空気を読みなさいよ! 普通にこの雰囲気で私はお腹なんか空いてないわよ。紅茶の味も分からなくなってるんだから……


 サスタはネルの発言に、諦めたような表情を浮かべると小さく肩を落とした。


「はぁ……本当に困った妹弟子だ。話し合いはどうせ後になるだろうからな。ペルグ殿が話し合いを受け入れないならば、我らは食事に行こうではないか」


 次にサスタの視線がアシミーに向けられていく。タイミングを同じくして、ペルグも視線をアシミーへと向ける。


 この場で一番非力な存在であるアシミーに三方向から視線が集まっていく。


 最初に口を開いたのはペルグだった。


「アシミー、ギルドマスター権限を行使する。ついてこい」


 ペルグの言葉に驚いたアシミーを見て、次にサスタが口を開く。


「あらあら……冒険者ギルドは、冒険者の自由を簡単に奪う組織だったのかい……怖い怖い、ふふ」


 そんな発言も、結果的にペルグが怒りを呑み込む形になり、最終的にサスタの提案が受け入れられることになった。


 ネルとアシミーに加えてサスタを連れて冒険者ギルドへと向かうことに決まるとペルグは深い溜め息を吐いた。


 ペルグは急いで移動しようと考えていたが、サスタはそんなペルグを嘲笑うように商会の人間を呼び出すと、軽く指示を飛ばす。


「まったく、人を呼び出すならば、馬車の手配は基本だろうに……ただ、冒険者ギルドは馬車よりも早く人を運ぶスペシャリストだというなら、是非、依頼を出したいものだねぇ」


 冒険者ギルドを軽視するようなサスタの発言だったが、ペルグは冷静に返答を返していく。


「喧嘩を売りたいなら、後日にして貰えると助かるんだがな……軽い挑発は底が知れますよ? 会長殿()


 再度、火花が散り出しそうになるが、サスタが用意させた馬車が商会の正面玄関に到着したことで、空気が変わる。


 玄関へと全員が移動すると、待機していたのであろう冒険者ギルドの職員達がペルグへと駆け寄っていく。


 職員達に今の状況をペルグが説明をしていると、ネルの楽しそうな声が叫ばれる。


「見ておくれよ。アシミーちゃん! デカい馬車だよ!」


「見たらわかるわよ……なんでこんなに大きな馬車を用意したのか分からないけど……何人乗りよ、これ?」


 2人の会話を聞いたサスタは勝ち誇ったようにペルグに視線を向けてから、馬車について話し始める。


「あら? 商会の馬車としては、普通のサイズだぞ? まして、会長である我と妹弟子、その連れが乗るのだから、見窄みすぼらしい外見の馬車など有り得ぬだろう?」


 用意された馬車は二台であり、一台にはペルグが案内される。そのまま、ペルグが乗った馬車へとアシミーが続こうとするとサスタから声が掛けられる。


「待ちなさい。貴女と虫は我と一緒の馬車だ。それとも、我やネルの馬車に乗るのは不服かい?」


「え、いえ、そんなことはないです……」


 顔を引き攣らせたアシミーは、言われるがままに馬車へと乗り込む。

 ネル、アシミー、サスタの3人が先頭の馬車に乗り、後方の馬車にはペルグと冒険者ギルドの職員達が乗車する。


 全員が馬車に乗ると、サスタが馭者に合図を出し、ゆっくり動き出していく。


 馬車の中では、サスタの正面にネルとアシミーが腰掛ける形で座り、ネルは真っ赤なクッション製の長椅子で飛び跳ねていた。


 アシミー:なんて、落ち着きがないのかしら……ただ、サスタさんもネルだから許してるのかな……


 本来は静かなはずの馬車が激しく揺れる度にサスタの目が細まっていく。


 アシミー:全然許してないじゃない!


 サスタの視線を気にしないと言わんばかりにネルがアシミーに満面の笑みを向ける。


「アシミーちゃんもやらないのかぁ〜い。凄く面白いよぅ〜」


 その発言にサスタの口が静かに開く。


「いい加減にせぬか……流石にはしゃぎ過ぎだ。それよりも、今の間に話をしておこうじゃないか?」


 そう切り出したサスタは優しくアシミーを見つめてから、そのまま喋り続ける。


「改めてになるが、我は『サスタ商会』の会長をしておる。名をサスタ・クローシア。妹弟子であるネルとは、同じ師に学んで生きてきた存在だ」


「わ、私はアシミー・ノークと言います。見ての通りの蜘蛛ダコの亜人で、元Bクラス冒険者です」


 緊張した様子のアシミーを見て、ネルは軽く笑みを浮かべると、肩に手を伸ばす。


「アシミーちゃんたら、緊張してるんだねぇ〜大丈夫さぁ。サスタ姉は、姉弟子の中で一番落ち着いてるんだからさぁ」


 アシミー:そんな人は、いきなり斬り合いを受け入れないし、冒険者ギルドのマスターに喧嘩なんて売らないのよ!


 ネルの行動に一瞬、驚いた表情を浮かべたサスタは、ネルが落ち着いてから会話を続けていく。


「確かにな。我は溶鉛ようえんの名を有しているが……他の姉妹弟子とは、違って常識はある方だと自負している。まあ、当然だな」


 アシミー:常識ってなによ……あったんだろうけど、インパクトが強すぎて見る影もないのよ!


 会話に反応するように、ネルは頬を膨らませる。


「ズルいじゃないかぁ……ボクちゃんだって、魔女としての二つ名の一つや二つ欲しいのにさぁ〜」


 しかし、ネルの態度にサスタが鋭い視線を向ける。


「黙りなさい……二つ名などとは違うだろ? 師が与える魔名は巣立ちの証だ。それは我らが我らである証の名だ。ただ、ネルにはまだ早かろう」


「早くないさぁ! ボクちゃんは立派な淑女しゅくじょなんだよ!」


「そうか? ならば……時期を見て、我と姉妹弟子で話し合い、魔名を与えるかを決めるとしよう。それまでは待つがよい」


「もう、みんなして、ボクちゃんを子供扱いするんだからさぁ……せっかく、立派な淑女しゅくじょになったっていうのにさぁ!」


 サスタは、複雑な表情をネルへと向け、ゆっくりと諭すように喋り続けていく。


「ネル、いつまでも駄々をこねられては、話が進まぬだろうに? 本題に入らせてくれないか」


 そう告げたサスタを見て、ネルが飛び跳ねるのをやめ、しっかりと席に腰掛ける。


「ふむ。本題というのはペルグ共、冒険者ギルドが考えている無駄な足掻きについてになる。我が同行したのもそれが理由だからな」


 アシミー:なんのことよ? 内容がさっぱりなんだけど……ペルグさん達は単純にネルが騒ぎを起こしたから来たんじゃないわけ?


 ネル:う〜ん。つまり、ギルマスが悪ってことかな? でも、違うみたいだよねぇ? サスタ姉の考えは複雑過ぎるんだよなぁ。


 頭を傾げる2人の姿にサスタは苦笑してから、説明していく。


「よいか、お前達が手にしている虫はクイーンの幼体なのだ。その幼体からは無限の富を生成するだろう……言うならば、金貨を吐き続ける宝箱に他ならんのだ」


 アシミーは自分の手で抱きしめていたクイーンの幼体とサスタの顔を交互に確認する。


 サスタは頷き、会話を再開する。


「つまりは、冒険者ギルド、商業ギルドの2つの組織が、お前達からその虫を奪いたいのであろうな……知らぬは、愚かな領主くらいだろう……そこで提案なのだがな……我にその虫を預ける気はないか?」


 アシミー:いやいや、ダメでしょ! 今の話からして、絶対にダメな話じゃない!


「浮かない表情じゃな? アシミーよ、悪い話じゃないだろう。お前達では、交渉にならないだろう、かと言って……我の意見に奴らは納得するまい? 搾り取られる側と奪われる側ならば……搾り取る側にいたいだろう?」


 サスタは優しい笑顔でそう口にする。ただ、これもまた交渉であり、アシミーとネルの選択一つでサスタは豹変することもまた事実であった。


 選択肢を与えるように話すサスタだが、最初から選択肢の向かう先は決められている。


 断れば、ネルを足らう存在と敵対する事実を前にアシミーの表情は次第に青ざめていく。


 ネルは興味なさそうにサスタへと質問を口にする。


「因みにだけどさぁ、サスタ姉の提案を断ったらどうなるんだい? ボクちゃんからしたら、どちらの場合の答えも知りたいのが本音なんだよねぇ〜」


「確かに話してなかったな。済まない。断られたとすれば、我が商会としては痛手になるだろうなぁ……それこそ、グラードの街に流れる物流をすべて停めたくなるくらいには、我も不快に感じてしまうことになるだろう」


 淡々と語るサスタは口元を隠しながら、悪戯っぽく笑う。


「なら、渡した場合は?」


 ネルの問にサスタは即答する。


「そうさな? 利益率から算出した場合の支払いになるが、お前達2人が生きてる間に虫が稼ぐ金額から毎月、安くない金額が手元に届くことになるだろうな」


 悪魔の囁きにも似たその声にアシミーはネルに視線を向ける。


 ネルはそんなサスタの返答に対して、予想外の提案を口にする。


「なら、蜂蜜食べ放題にしてよ!」


「え?」と、サスタとアシミーの声が重なった瞬間、サスタは急いで紙を取り出すと手早くペンで魔法文字を書き記していく。


「良い提案ではないか。さぁ、ネルよ……サインをするがよい。アシミーだったな? お前さんは報酬は金の方が好みだろうから、こちらにサインを頼む」


 そうして、勢いのままに2人はサスタの作った契約書にサインを書き入れていく。


 それが更なる問題になる事実を2人はまだ知らない。


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