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『行く先々で問題を起こす“煙の魔女”とパーティーを組んだんだけど、私の胃は限界かもしれない』  作者: 夏カボチャ 悠元
危険な魔女と亜人の少女

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28、ギルドのタブー、クイーン対アシミー

 ネルはベスパの森を駆け抜けていく。


 風を切るような音に混じり、ネルの耳に、ノイズ男(ブルーガ)の声が響いていた。


 耳障りなノイズに辟易へきえきした様子のネルは、不快そうな表情を浮かべながら、ろくでもない内容に苛立ちながら森の中を駆けていく。


「なんで、こうなるんだよぉぉぉぉ!」


 そう叫ぶブルーガの背後には、イヌ獣人とネズミ獣人の冒険者が続いて全力でベスパの森を駆けていた。


「だって、ブルーガさんが上級の魔物を倒すって言ったんじゃないですか!」

「そうですよ。『俺がいるからついてこい!』って言ったんじゃないっすか!」


 2人の獣人冒険者の声に、ブルーガは即答する。


「知るか! クイーンがあんな簡単に動き出すなら、最初からギルドも教えとけってんだぁぁぁ!」


 そんな、無責任で愚かな会話が繰り返され、内容が内容だけにネルは呆れと怒りを通り越して、殺気を浮かべていた。


 嫌でも入ってくるノイズにネルの殺気が漏れ出していくが、すぐに首を左右に振る。


 ネルはアシミーへと視線を向けると、ブルーガ達を無視して一気に加速する。


 ネル:馬鹿なノイズは無視だよ。アシミーちゃんと早く合流しないと……ボクちゃんとアシミーちゃんでクイーンを始末……間違えた……瀕死にさせないとだよねぇ……


 ネルが合流しようと急ぐ事実を知らないアシミーは、クイーンと必死の戦闘を繰り広げている真っ最中だった。


 普通に考えれば、上位の魔物と対峙した際に冒険者が無事に逃亡することは、ほぼ不可能である。


 * * *


 Aランクの魔物であるクイーンから撤退していたブルーガ達が今も逃走に成功している理由は単純にして冒険者としては最悪な行為を行ったからだ。


 世にいう“トレイン”である。冒険者が踏み越えてはならないルールを破った結果であり他人に魔物を擦り付ける最低な行為である。


 ブルーガ達は、低ランクの仲間を総勢28人ほど集めて蜂蜜採取クエストのパーティーリーダーとして、ベスパの森に入っていた。

 キラービーナが相手であったとしても、数の暴力で討伐と蜂蜜採取を行うのが最初の目的だった。


 しかし、ブルーガ達はクイーンのコロニーまで踏み込んでしまっていた。

 普通の冒険者なら、引き返すはずの場面で、大勢の下級冒険者を前に有頂天になったブルーガはあろうことか、クイーン討伐を口にしたのだ。


 本来なら有り得ない選択だが、ブルーガからすれば、冒険者ギルドで既に立場も居場所もなくなろうとしている状況だった。


 その原因もまたネルとアシミーの2人であり、多くのランクを無視した暴走と身勝手な魔物討伐は、ブルーガ達のクエストと重なることも多く当然、討伐対象が見つからなければ、クエストは失敗になる。


 ギルドで上位ランクに上がる為に必死な冒険者達からすれば、ネルとアシミーの2人は結果的に試験の討伐対象と成功するはずだったクエストを無意識に食い尽くす悪害でしかなかった。


 その為、ブルーガ達は上位の魔物討伐の対象として、判断を完全に誤ったのだ。


 どう転ぼうが、グラードの街でクイーンに手を出せば、未来などあるはずがないのにも関わらず、その事実すら霞むほどに、冒険者達はクエストの失敗に悩まされていた。


 仮にブルーガや他の冒険者が昇格クエストを失敗したとしても、討伐対象が存在していれば、こうはならなかっただろう。


 その結果が、クイーンに対しての戦闘行為という馬鹿げた話に発展し、最初こそ冗談のような話だったがギルドに不満を感じる者が集まったブルーガパーティーは、実際に実行出来ると勘違いするほどに追い込まれていた。


 そして、ブルーガは引けなくなってしまった。本来は格上とは、“キラービーナの群れ”を指す言葉だったはずが、最悪な選択をしてしまったのである。


 * * *


 クイーンを擦り付けられたアシミーは苛立ちを顕わにしていた。

 何より完全にクイーンのターゲットにされてしまった為に退路を失ってしまう。


「もう! なんでクイーンが出てくるのよぉぉぉぉ! Aランクの魔物なんてお呼びじゃないのよぅぅぅ!」


 アシミー:私が逃げたら、きっとクイーンは追い掛けてくるよね……蜂蜜より薬草採取にするんだったわ。


 叫びながらクイーンに向かって距離を取るアシミー。

 ただ、諦めているわけではない、触腕髪を左右に大きく広げ、鋼糸を先端に作り出していく。


 クイーンに反応はなく、アシミーに頭部を向けたまま行動を見つめていた。それは警戒というよりも観察に近い行動だった。


 アシミー:私は敵じゃないってことみたいね。バカにされてる気分だわ。絶対に後悔させるんだから……いくわよ!


 鋼糸を素早く操ると無防備なクイーンの首元に鋭く尖らせた無数の鋼糸が矢のように撃ち放つ。


 クイーンはそれでも微動だにしなかった。硬い装甲にぶつかった鋼糸が鈍い音を奏でて地面に落下する。


 アシミー:嘘でしょ! あの一撃で傷もつかないわけ……


 巨大すぎるクイーンの身体。

 他の魔物にはない硬すぎる装甲。


 アシミーの鋼糸ですら、僅かなダメージを与えられない現実がそこには存在していた。

 それはまさにアシミーが得意とする戦法と行動の半分が無力化されることを意味していた。


「硬すぎるのよ! でもね……私だって、手数なら負けないんだから!」


 僅かな可能性を信じて放たれる攻撃、すべてが各関節へと放っていく。

 鋼糸による物理攻撃と同時に水系スキルを合わせた強力な攻撃スキルを休むことなく撃ち続ける。


 それでもクイーンの装甲に傷がつくことはない。

 攻撃により生まれた変化はアシミーの期待する結果にはならなかった。


 クイーンの巨体がゆっくりとアシミーに向けて移動を開始する。


 即座に回避を選択したアシミーが森の中へと駆けていく。


 少し離れた巨木のてっぺんから、ネルは表情を曇らせながら攻防を見つめていた。


「ありゃりゃだねぇ……アシミーちゃんには、ちょっとだけ相性が悪いよねぇ……ボクちゃんが助けてあげたら、褒めて貰えるかなぁ?」


 ネル:もし、途中から攻撃したら、アシミーちゃんに“横取り”って言われちゃうかもだしなぁ……悩んじゃうよねぇ……ボクちゃんはどうしたらいいんだろう。


 アシミー:私だけじゃ、クイーンを防げない……本当についてないなぁ……こんな事なら、ネルと一緒に行動しとくべきだったわね……


 クイーンがアシミーを追い掛け、木々を押し倒しながら迫っていく。

 その光景に、ネルは悩むことをやめたように視線を真っ直ぐにクイーンへと向ける。


 ネル:嫌われるより……ボクちゃんから、アシミーちゃんがいなくなっちゃう方が嫌だね……謝れば許してくれるはずだよね? だって……ボクちゃんとアシミーちゃんは親友なんだから!


 ネルは、一瞬で足場にしていた木がへし折れる勢いで片足に力を込め、空中へと飛び上がる。

 クイーンの位置を再確認すると周囲に煙の壁を作り出し、力任せに壁を蹴る。

 一瞬で空気を切り裂くような轟音が空に響いた瞬間、ネルは弾丸のような速度で空中を移動していく。


 鋼糸で牽制するアシミーの横をネルが通り抜けていき、クイーンへと迫っていく。


 巨大なクイーンの頭部に向けて【煙撃えんげき】が発動され、クイーンの頬を弾く。

 勢いのまま、宙を蹴り回転を加えたネルは、そのまま【戦鎚煙武せんついえんぶ】を発動させる。


 ネルの手に巨大な煙の鈍器が形成される。巨大なクイーンの顎下から煙の鈍器が振り上げられると、鈍い音と共にクイーンの頭部が振動する。


 天を見上げる形になったクイーンの姿にネルはニヤリと笑う。


「あはぁ! アシミーちゃ〜ん! ボクちゃんも混ぜておくれよぅッ!」


「ネ、ネルぅぅ……来るのが遅いじゃないのよ、バカぁ……」


「あはぁ! 遅れてごめんよ。アシミーちゃ〜ん。改めてボクちゃんも害虫駆除のお手伝いをするからねぇ〜」


 クイーンに強烈な一撃を食らわせたネルは、アシミーの傍に着地する。

 動きが止まったクイーンを背にする形でネルは悩まずにアシミーへと振り向いていく。

 真剣な表情を浮かべ、胸に手を当て足を引き、頭を軽く下げて見せる。


「やぁ〜アシミーちゃん。淑女しゅくじょであるボクちゃんの登場に喜びのハグをしてくれてもいいんだよぅ〜」


 そんな冗談めいた声を掛けながら、頭を上げるとニッコリと笑みを浮かべて見せる。


「ネル……ありがとう。抱きしめてあげたいけど、今はクイーンを先になんとかしないと」


 動きを止めていたクイーンが叩き上げられた頭部をカタカタと鳴らすように動かすとネルへ視線を向ける。


 標的が切り替わったことを理解したネルは振り返り、冷めた視線をクイーンへと向ける。


「やる気満々みたいだねぇ? 大丈夫だよ、ボクちゃんが跡形もなく焼き払ってあげちゃうからねぇ!」


 ネル:アシミーちゃんを困らせたんだもんねぇ……生きたまま焼きクイーンにして、ゆっくり骨まで噛み砕いてあげないと……あはぁ!


 両手に揺らめく真っ赤な煙を纏わせたネルが、クイーンに駆け出そうとした瞬間、アシミーが叫び声を上げる。


「だ、ダメだからね! ネル、なにを考えてるのよ! クイーン居なくなったら、ベスパの森で蜂蜜を生み出すキラービーナ達もいなくなっちゃうでしょ!」


 ネル:ボクちゃんからしたら、蜂蜜が取れないのは残念だけど……仕方ないと思うのになぁ? アシミーちゃんは真剣すぎるんだよねぇ。そこも可愛いからありだけどさぁ。


「う〜ん……なら、仕方ないから……半殺しにしてから、寝てもらうことにするよ……」


「本当に殺したらダメなんだからね! 生きたまま眠らせてよ!」


 ネル:アシミーちゃんに死なないか心配されるクイーンが憎たらしいなぁ……でも、殺したらボクちゃんが嫌われちゃいそうだから、仕方ないなぁ。


 クイーンの脇腹付近まで移動したネルは、巨大な身体に向けて、【炎煙えんもく】を纏わせた真っ赤な拳を手加減しながら叩き込んでいく。


 硬いピンク色の装甲が微かに焦げ、変色していくのを目で確認したネルは悩まずに同様の攻撃を繰り返す。

 一撃が叩き込まれる度に、威力と火力が増していき、クイーンの装甲にまだらな焼き跡が刻まれていく。


 悲鳴にも似たクイーンの絶叫がベスパの森を振動させる。


「あぁ! もう、うるさいなぁッ! 本当に頭をネジ切って黙らせちゃうよ!」


 ただ、離れた位置から「ネル! 絶対にダメだからねぇーーー!」と、アシミーからの声がネルへと向けられる。


「わかってるからね、冗談だから……」


 クイーンはネルに向けて、巨大な顎を打ち鳴らす。

 ネルはクイーンを見て、小さく口角をあげた。



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