64.奥州決戦その1
〇蛎崎義広〇
「殿、海峡を渡る準備が整いました。」潮も穏やかで、晴れ渡った朝だ。
「うむ、一気に渡海するとしよう。」
南部家より分かれて、この蝦夷の地で力をつけて、数十年。ようやく本土へ帰り咲くことができそうだ。羽前の地は米が良く育つそうだ。米も育たないこの蝦夷の地は、ひたすらに辛抱との闘いであった。
相次ぐアイヌの反乱、不作と飢えと、ヒグマとイナゴとの戦い。もう懲り懲りである。
伊達殿は、同盟の勝利の暁には、最上領の20万石をおれに約束してくれた。
総数8万を上回る大軍だと言う。勝ったも同然である。
長年付き従ってくれた。家臣に腹いっぱい米を食わせてやれる。
そうだ徳山館は嫡男の季広に譲り、本土に館を建ててそこに住もう。
おれも歳だ。蝦夷の寒さは骨身に染みる。
◇◇◇
なんだあの船は! 渡海の最中、突然2隻の巨大な船が、凄まじい速度で煙を上げながら近づいてきた。
その船からパッと光が煌いたと思うや、「ドーン!! 」と聞いたことのない落雷のような噴火のような音が響き、味方の関船がバラバラに吹き飛んだ。
「何が起こっているのだ?! 」家臣に問う。
「分かりませぬ、1里(2キロメートル)は軽く離れております。」そんなところから攻撃する。武器など聞いた事も見た事もない。
更にパッパッと光が、次から次へと大破して沈む味方の船。
最上か!? 最上なのか!?
「いかん! 撤退だ! 法螺を吹け! 」
「はっ! 」
「ブオオオオ!!ブオオオオ!! 」撤退の法螺貝が鳴り響き、転進する味方船。その間に更に10艘は沈んだ。
「と・・殿、あれに・・・。」配下が震えながら指さす先に、更に2隻の敵船が。不味い囲まれた。
短い夢であった・・・・。
凄まじい衝撃と音で、おれの体が船から海中に投げ出される。乗っていた船は、濛々(もうもう)と煙を上げて、炎上していた。
負傷したらしく、手が動かない。海中に沈みながら、全てが終わったことを悟った。
〇稲生治太郎〇
「18隻が炎上中、158隻沈没。」副長がおれに報告する。
「よし、霧島は敵の救出に専念。残り3隻で徳山館を砲撃する。」
「了解。」
◇◇◇
「徳山館を視認。距離3000。」よし海図通りだ。
「僚艦に伝達。砲撃開始。」
「はっ! 」
2号20cm砲2連装砲塔が、ゆっくりと徳山館に向く。
「ドオオオン!! ドオオオン!! 」本艦の咆哮と共に、一斉に僚艦から砲撃が開始された。
双眼鏡を覗くと、爆炎を上げる徳山館と城下の町。約10分に渡り砲撃は続いた。
「目標完全破壊を確認。」徳山館があった場所は、炎上するただの瓦礫と化していた。
「僚艦にイ号作戦の終了と、ロ号作戦の開始を伝達。」
「了解。」
艦内マイクを握る。
「諸君。イ号作戦は、終了した。続いて本軍との共同作戦に移行する。海兵隊諸君の健闘を祈る。」
〇長尾為景〇
「滋野様、戦の末席を賜りました事。誠にありがたく。」
隠居後に最上家に参戦の意思を伝えた所、「滋野卿の旗下として、4男の虎千代と共に参陣されたし。」との指示を頂き、出家していた虎千代を還俗させて共に連れてきた。
参戦兵数は50名ほど、観戦武官[※1]の扱いとなっており、後方部隊に組み入れられ、格別の好待遇を頂いている。
「まだ手術より1カ月程であるが、大丈夫かね? 」滋野卿は、大隊長と言う軍団長たちと陣幕内で、地図を示し戦略を練っていた。虎千代が平伏の姿勢を取りつつ、その地図を興味深気に覗き込んでいる。
「はい、お陰様で今は何ともありません。」虎千代の頭を掴み、低く平伏させる。齢11の愚息には、参陣は早すぎたようだ。
「左様ですか、それは重畳。さて、軍議を再開する。長尾殿こちらへ。」卿に勧められ、床几に腰かける。
「確か虎千代殿であったな。こちらに来られよ。」卿が愚息に手招きをする。
「恐れながら、齢11の若輩にて、陣幕の外で待たせておきます。」城郭模型の遊びで、家の者を驚嘆させた事があるが、未だ若輩。卿や最上家中の方の怒りを買うかもしれん。
「構わんよ。お虎や、こっちおいで。」はらはらして、最上家中の方たちの様子を見たが、大隊長の皆は涼しい顔をしている。矢立を重ねた机に広げた地図を卿が扇子で指しながら、我らに状況を教えてくれる。
「蛎崎の6千は、小半刻前(30分前)に海軍が壊滅させた。当方6千対8万の戦いとなる。」どう見ても絶望的な兵力差である。!!!なんと、小半刻前に壊滅だと。
「卿よ。よろしいですかな? 」思わず手を挙げてしまった。
「どうぞ。」卓上のお茶を取り、優雅に飲み始める卿。
「この地(羽後)と蝦夷の海とは、相当に離れておるようですが。」
「左様、作戦海域とは70里(140km)以上離れております。」扇子で現在地と作戦海域を示してくださる。
「その連絡をどのようにされたのですか? 」
「無線と言う唐栗にて、遠隔地に瞬時に連絡を取れます。」これには、ワシも虎千代も絶句した。その顔をいたずらが成功したかの如くの憎らしい笑顔で、こちらを見る卿。
「お虎よ、無線機見るかね? 」
「はい! 虎は見たいです! 」それは見たい。ワシも見たい。
「丁度よい機会だ。最新の無線車のお披露目だな。大隊長の皆も付いて来てくれ。」陣幕から出て、皆が卿に続く。すっと透明な透き通った大盾を構えた者が4名。陣幕より卿を囲んで付き従ってくる。
「どうやら伊達に、当方の武器が渡りましてな。その用心でござる。」見渡す限り軍兵が、集結しているのだが。この蟻ですら紛れ込むのが難しい隙のない陣に、攻撃できる武器とは・・一体。
「あれにござる。」卿が示す先に、巨大な鉄の塊が、上に鉄の棒を多数乗せた。不可思議な車が。
「指揮作戦車に似ておりますな。」権兵衛殿がタイヤと言う
、巨大な車輪を触りながら呟く。
「よく分かったな、権兵衛。指揮車と同じ車両を使っている。」コンコンコンと無線車の後ろを叩く、卿。
パカリと鉄の扉が開く、中には3名の兵が乗っていた。
「百里(200km)四方と連絡が取れる。各大隊に配備するので、大隊長はこの性能と運用法を把握しておいてくれ。」
「はっ! 」大隊長たちが頭を下げる。このような車両が、連絡を取り合い、大隊が同時に攻撃を仕掛けたら、相手はたまった物ではない。
「お虎やこっちにおいで。」車両に乗り込んだ卿が、虎千代を車内に招く。喜び勇んで乗り込む虎千代。
「内部が狭いのでな。大隊長は後で技術主任から、運用法と性能を聞いてくれ。お虎、これが無線機でこれがマイク。」複雑な唐栗を虎千代に触らせる卿。虎を何故にあそこまで優遇するのかよく分からんが、卿には4名の有能な養女がおられると聞いた。まさか、虎千代を養子に・・・それはなかろう。
◇◇◇
「長尾様。走行中は双眼鏡を使わない方がよろしいですぞ。車酔いします。」四郎殿がワシの背中をさすりながら、教えてくれた。
「左様でしたか。うっぷ。」双眼鏡の性能に驚き、ずっと指揮車に乗り、覗き込んでいた。今は酔って戻している。
「ある程度戻したら、四郎酔い止めを渡してやってくれ。」
虎千代とずっとリバーシと言う、囲碁のような遊戯をしている。滋野様。
信じられない光景を見せつけられた。指揮車を囲み4両の装甲車と12両の戦車で、敵の前線を楽々と突破してしまった。後方から武装歩兵が続き、崩れて敗走する敵を次々と屠っていく、戦車から砲声が轟く度に、地面が抉れて敵が吹き飛んだ。「8万と正面からぶつかる。」と卿から聞いた時は、卿の正気を疑った。
後から合流した。義守様率いる武装親衛隊が、徹底的に敵を撃ち殺し、死体の山を築いている。
最上兵は手柄首を獲らない、殺してそのまま打ち捨てている。
何故首を獲らぬのか。四郎殿に伺がったが、「首獲りなど合理的ではない。」と一笑に付されてしまった。軍制改革に成功して、兵は全て専門職であり、農民兵は一人もいないそうだ。
通りで強いわけである。銃と機関銃と大砲の組み合わせの前に、槍と弓では全く相手にならない。死体の数は3万を越えて、捕虜も2万を越えたと言う。残りは必死に敗走しているが、後方より上陸した。海兵隊に退路を断たれて、包囲攻撃をうけている。
ようやく落ち着いて、酔い止め薬を四郎殿より頂いて飲んだ。
「ビシッ」と言う音と共に、指揮車の外面に張っていた防弾ガラスと言う透明な盾一面に、ひびが走った。
空かさず、双眼鏡を覗き込む卿。虎千代もほぼ同時に、双眼鏡を覗き込んでいる。
「7時の方角、逃がすな! 」
小銃で武装した。騎馬隊が一斉に駆けていった。
「やはり来ましたな、伊達は優秀であるな。お虎よ、見えたかね? 」
「はい、2名の黒ずくめの者が逃げていきました。」
「よく見ていたな、大した者だ。さて、夕餉にしますか。」どう見ても、卿が狙われていた。
「お虎よ、夕餉に菓子もでるぞ。美味いから食べてみろ。」何事もなかったかの如く、虎千代と話す卿。こういう方を敵に回した。反最上同盟の不運と、最良の降り方を選択した。己の幸運に感慨深い物を感じた。
〇長尾虎千代〇
虎は僧俗で、終わる物と思っていました。嫡男の晴景兄上が家督を継ぐので、虎は林泉寺に出家しておりました。
父上が迎えにいらした時は、何の冗談かと思いましたが、従属先の最上家より強い要望があったと聞かされました。
最上の滋野卿の下に、父と共に参ります。
今町湊(直江津)より、最上の高速駆逐艦に乗り込み、長尾家の人質として最上家に向かう物と覚悟しておりました。
船室にて父上と大人しくしておりました。
艦長殿に案内されて、父上と艦内を見て回りました。
驚きの連続でした。凄まじい船の速さ、みた事もない武装、エンジンルームと言う船の心臓部。「よろしいのですかな、このような機密を我らに見せても? 」
父上が心配気に艦長殿に訊ねた。
「艦内の全てを見て頂いて、構いません。滋野卿よりそう指示を受けております。」この一言で、艦内は虎の最高の遊び場と化しました。砲兵に砲の事を聞いて、魚雷の発射管を好きに覗く、通信兵に手旗信号を教わり、そして艦橋に自由に出入りした。ここには、長尾に無い物ばかりです。
◇◇◇
能代の湊が見えてきました。・・・・・今町の湊と比べる物ではありませんでした。巨大で周りを壁に囲まれています。父上が家内の反対を押し切り、最上家に降った理由がよく分かりました。
能代の街で、石造りの整備された街並みや、壁内の埠頭を見ました。街に活気が溢れていて、多くの人々が行きかう様子は、忘れられません。
トロッコ列車と言う、鉄の道を走る乗り物に乗って、最上の本城の大五稜郭へと向かいました。沢山の人と物を運べる列車は、日の本の物の流れを根底から覆すでしょう。
小半刻で大五稜郭に到着。圧巻でした。入り組んだ壁が交差している。その壁上には、大砲や機関砲や見た事のない兵器が満載されていて、難攻不落とはこういう物であると実感しました。
「長尾殿、御子息殿よくぞ参られた。この義守歓待いたす。」最上権中納言義守様に拝謁しました。とても理知的で、繊細さを感じるお殿様でした。
先発していた50名の長尾兵と合流して、いよいよ前線に向かいます。虎の初陣です。
※1 観戦武官 第三国の戦争を観戦するために派遣される武官のこと。
次回投稿は05/27の予定です。




