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武道家とおれと敗北

「………」


「っお?お前ってたしかティックスの兄たゃんだったな?えーっと、ソックス?」


誰が靴下か、このクソガキ…。


俺が村の中心地へと、母さんから頼まれた買い物をしに行く道中、ティックスに会いに行こうとしていたのか、村から俺の家へと向かうモルドに出会った。


目の前から元気一杯で全速力で走ってくるモルド。普段から村や河原で会っても俺はいつも通り無関心を貫いていたので彼に構うこともなかったし、モルドから俺に話しかけてくる様なこともなかった為、最初はいつも通り無視して通り過ぎようとした俺だったが、それは当のモルドが俺の進む道を遮る形で止まったことで出来なくなってしまう。


そして開口一番がさっきのあれだ。

村の人達は大体の人が俺の名前を間違えて覚えているか、名前を知らないかのどちらかだ。


会っても会話しない、話掛けても反応も返さなければ、まあ、それも当然なんだろう。


しかしならばどうして、今になってモルドは俺に話しかけてきたんだ?


「ティックスから聞いたぜ。ソックス、お前ってば実は話せたんだってな?」


「………」


なるほどそういうことか、ティックスから俺が意思を持って話せる様になったことを聞いたから、今日は突然、俺に話しかけて来たんだな。


「…ちぇ!黙りかよ?ミリアからも聞いたぞ。お前が目に見えない様な速さでケニーを倒したって、な」


「……」


ケニーの名前は覚えていて、親友の兄である俺の名前は覚えていないとか、いやってか変態に認知度で負けてるとか、ものっそい心にデカイダメージを負ったね今の俺。


「…俺もティックスの父ちゃんから武道を少し習ってんだ」


「…」


別に俺は親父から習っている訳ではなく、ただ韋駄天のスキルを使用して、加速域の世界で…、単純に言ってしまえば、スピードで圧倒したに過ぎないんだがな。


正直、武道のブの字も知らんから、ケニーを倒したのも全部喧嘩殺法だった訳だしな。


「どうだソックス?俺といっかい戦ってみねぇーか?」


「……」


戦うか…。確かに武道の経験がある人と戦えるのは、俺もいい経験になるかもしれない。


今後、将来の話ではあるが、この村にずっと居る気はない。

ある程度、歳をとったら出稼ぎに行くとでも言ってこの村を出て世界を回って見るつもりなのだ。


だがそれには問題がある、

こんな後進的な世界だ、法の整備などは行われていないだろう。となれば旅の道中に山賊や野盗といった危ない連中も居ることだろう。

そんな連中から自分の身は自分で守れるくらいの実力は、今の内につけておきたい所ではあるのだが…。


しかし、武道を習っているとはいえ、まだ幼い子供を相手にした所でそれがいい経験になるとは思えない。


「…へっへ!無言はオーケーだってことに思うことにするぜ!!⁉」


ダン!

「ちょっつ⁉」


なんてポジティブな子なのっ⁉

モルドはそう言うと同時に俺に向かって突っ込んでくると、俺の目前で急にかがみ身体を捻ると回し蹴りを放ってくる!!


しかも想像していたよりもぜんぜん、動きが早い⁈


だが避けれないほどではないな!!


そう内心で判断すると俺はモルドの蹴りをその場から後方へと飛ぶことで回避する!


「突然仕掛けてくるとかどういうつもりだクソガキ?」


スキルを使用し続けていたことで動体視力が上がってなかったらさっきの一撃は避けられなかったぞ!!?


「何だ、やっぱ話せるんじゃねーかよ!」


「……」


やだ、俺ったらこんな風に話すのが家族以外と話す最初の言葉になろうとは…。


「現実ってのは何時も、うまくいかない」


「何言ってんだソックス?」


俺の独り言にモルドがそう聞いてくる。


分からないだろうな、俺の考えていたレックスらアホな子、だから話し掛けても、無視されるのは当然、木的を持たずに村や川原などをウロウロしているのも、一人で山に入って行くのも仕方ない作戦。


それが、モルドとご機嫌に会話してしまったせいで崩壊するかもしれないのだ。


「……」


まだモルドが口が固ければ、その作戦も継続が可能かもしれないが…。


「へっへへ!ミリアに自慢してやろうっと!!ソックスと一番に話したのは俺だってな!」


うん、これは口止めしても仕方がなさそうだな。


「…はぁー、まあこれもいい機会ではあるのかもしれない。これからは普通に過ごすことにするかな」


「…でも、突然こんなに話し出すとちょっと気持ち悪いや」


ブッチ!!


「ブーストはつどぉおおお!!!!」


「…ん?へぇ!ソックスもスキルを使えるんだな!!これは楽しくなって来たぞ⁉」


「ソックスじゃねぇ!おれはレックスだ!!」


ダン!

「ってぇ!速いな⁈ちょっと驚いたぞ?」


「…え?」


「次はこっちからだ!」


スキルの発動を確認しました。


スキル名称[二連撃]

発動者[モルド]


いつも通り俺の目の前にメッセージウインドウがひらいた瞬間、顎に強い衝撃が走ったと思ったら俺の身体は宙へと浮き上がっており、チカチカと名目つする視界には、モルドが顔面蒼白目掛け踵落としを仕掛けてくるのが見えた!!


ガスッ!ドコッツ‼

「がはっ⁈」


「うりゃぁああ!!」


ドン!

「ぐふっ‼⁉」


どうやら俺はケニーを倒したことで調子に乗っていた様だ。


自分だけが特別なスキルを使用できる。そう思っていた。


だけど実際は弟は勇者だし、その幼馴染の少女二人は賢者に魔術師、三人とも稀有な才能をもっていた。


そして今、倒れている俺を見下ろしている少年は稀有な才能こそないが、努力の元、武道家になり俺とは比較にならないくらい強かった。


井の中の蛙、まさに俺という存在を表すに相応しい言葉だ。今の今まで俺はそんな状態だったのだ。


スキルだけに頼り、日々をティックスやモルドの様に訓練や修行を行い自身を鍛えることなく、ただ思いつくままにスキルを発動して使いこなしている気になっていただけなのだ。


自分自身の基礎能力、判断濃緑を上げなければ、いくらレベルが上だといっても負けるのは当然だろう。


「…くっそ!気付くの遅すぎるだろ」


いやこのまま気付かないままでいたよりも、気付けたことでこれから一から身体を鍛えやり直せることに感謝すべきだ。


自分が選ばれた存在ではなく、凡百な存在だと気付けたことに…。


「…鍛えてやる‼次は負けねぇ」


「は、ははっ!いいぜ⁉俺も次も負けない様にさらに鍛えとく!」


カラカラと年齢に不釣り合いな大きな身体を揺らし笑っているモルドを見て、どうしようもなく悔しく虚しくなる。


「悔しい…、でもなんだろな。お前が憎いとは思わない」


彼のその佇まい、精神の姿勢に人としての器の大きさを感じたからだ。


「当然だろうがッ!俺はソックスに恨まれる様なことした覚えないんだからな‼」


「レックスだ。俺の名前は……」


やはり少し憎いのかもしれない。そう感じながら俺は瞳を閉じる。


殴られたダメージのせいではなく、ただただ眠たかったから…。

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