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赤髪と俺 魔術と加速+1

穏やかな午後、今日も今日とて河原の川上で過ごす。


それが俺の日常だが、それは以前とは少し変化が起きていた。


以前であれば河の水の流れを眺めで日がな一日中ぼーっとしているだけだったが、今は違う。


「ブースト発動‼」


スキル発動を確認しました。


スキル名称[加速+1(ブーストアップ)]

発動者[レックス]


俺がキーワードを言うと同時に俺の視界は一変する。


気から落ちる木の葉の落下速度が遅く、重力が軽くなったのではと錯覚するほどの遅さになり、目の前を飛んでいた小鳥の羽根の羽ばたきが、下手くそなパラパラ漫画の様に上下に動いていったん止まり、再度動作するまでもを認識することが出来る。


「…よしっ!」


正常にスキルが発動していることを確認すると、俺はそのまま河の中へとは入り、水面の中を泳ぐ魚へと手を伸ばす。


パシャ!

「お魚ゲットだぜ!」


魚は俺の手に取られ、水面からその身を持ち上げられてから漸く気付いたのか跳ねる。

俺は逃がしてしまわない様に魚の体をしっかりと抱えると、岸の岩の上へと放る。


「さて後もう一匹は欲しいな」


魚をもう一匹獲り終わると、スキル発動を停止してから一度河から岸へと上がり、予め集めておいた小枝に家から持ってきた火打石で火をつける。


さらに獲った魚の腹をナイフで捌き内臓を取り出すと、枝で肴を口挿しにして火にくべる。


俺がタスクメニューに気付いてから称号を韋駄天にしてから数週間経っていた。


そして称号を韋駄天にする事により、付随効果がある事にも気付いた。


韋駄天スキル、加速+1だ。


効果は自身の体感時間の鋭敏化による高速移動を可能とする。


簡単にいうと動体視力を飛躍的に上げる事で、自分以外の物や人の動きを粒さまで見ることが可能になるというものだ。


これにより上がった動体視力は本当に素晴らしいものだった。

蝿の羽の羽ばたきが1秒間に何回行われているかも見て数えることが出来る程だった。


俺はそれを利用して、河に泳ぐ魚を手掴みで獲るという半人外なことを可能に出来た。


「…もちろん良いことばかりじゃなくて、欠点もあるんだけど」


それは余りにも良くなり過ぎた目に身体の動きがついていかないということ。


鋭敏化した動体視力により、俺の目は物や人の動きがスロー再生又はコマ送りの様に見える様になった。


しかし動作がゆっくりと見えたからといって、実際の動きのスピードが遅くなっている訳ではないのだ。


体感速度と現実の速度の不和、認識の相違、それによりこのスキルを使い始めた当初は、逆に動きが緩慢になってしまうという風になっていた。


まだまだ届かない距離にあると思っていた物が目の前にあったりするのだ。


「最初は本当に苦労したよ。今じゃ慣れたもんだがな」


そう慣れてしまえばこれ程有利な能力は無いのではないだろうか?


自分より圧倒的なスピードを持つ相手、例を言うならばジェット機と紙飛行機程の差がなければ大概の相手の動きは見切れ、初動で躱すことが可能となる。


それ程にこの韋駄天スキルの加速+1とは凄まじい能力なのだ。


「…まあ、扱えるまでに身体中傷だらけになってしまったけどな」


だがその傷にしてみても、週に二度程、河原に来るフレアの神術によって全て治っていたので、俺は傷や打ち身に屈することなく、ある程度の無茶をし続けたことで感覚を掴むことに成功した。


神術は本当にチートだ。

骨折でもものの数秒で治してしまうのだから…。


「…んもぐ、もぐ。神術に較べると、このスキルもそうすごいものでも無いのかもしれないな」


良い具合に焦げ目がつき火の通った魚を口に頬張り咀嚼してからそう言う。


シルフの村は立地が山奥の為、

塩は高級品で有る為、魚の塩焼きなどという概念は無い。

ただ焼いて食うのみ、塩焼きが恋しくなる。


「……元の世界に戻りたい」


そんな弱気の発言が無意識にでてしまう程に、現実として体験する異世界生活は良いものではなかった。


「はぁー、こうしててもしゃーない。もう少しスキルの訓練したら今日は家に「いやぁっつ‼誰か助けてぇええ⁈」ッツ⁉なんだ⁈」


溜息を吐きながら立ち上がり、スキルの訓練を開始しようとした時、何処かからか解らないが女性の悲鳴か聞こえてきた!


反射的に辺りをギョロギョロと見回しながら、悲鳴の元を探る!


「放してよっ!この変態‼大人が子供相手になに考えてんの‼」


また声が聞こえてきた事でその方向を知る事が出来たため、足音を立てないように、忍足で喧騒があがる方角へと向かって行く。


すると其処に居たのは、村の高台の下でティックスと話していた赤髪の方の女の子、確か名前はミリアといった美少女と、

村で唯一、頭のてっぺんに浮かんで見えるゲージが赤のケニーだった。


「…う、うるせぇ‼大人しくしやがれ!」


パン!

「っ!…痛い⁈」


ケニーに掴まれている体を捩りながら必死にその拘束から逃れようと声をあげるミリアに耐えかねたのか、ケニーは右手を振り上げると、その手をミリアの頬へときつく叩きつけた!


「…はぁっはぁっつ‼痛い思いしたくなけりゃ黙って言うこと聞け糞ガキッ‼」


「「………」」


迫力のあるケニーの声と、子供に暴力を振るうという暴挙に、ミリアと俺は息を呑み、その恐怖からケニーの言うとおりにただ黙ってケニーを見上げる。


ただ一つだけ違うのは、ミリアの目には精神まで負けた様子は見られず、ケニーを強く睨んでいること、対する俺はビビって目を丸くしていることだろう。


「っへ、へへ!はなっからそうやって大人しくしてやがれば、痛い思いもせずに済んだんだよ!」


「ッツ‼⁉」


ケニーはそう言うと同時に、ミリアの頬を自分の顔へと力ずくで引き寄せると、その荒れひとつない綺麗な肌をペロリと舐める⁉


「…」


さて俺はどうすれば良いのだろうか?いやそんなもの考える前から分かり切っているか…。


「助けねぇとッツ‼」








…と男前な奴等ならなるんだろうが、あいにく俺にそんな根性はない。


「ひっひひ!ずっとこの時を待っていたんだ‼存分に楽しませて貰うからな!」


「…ぃ、ゃ」


やはり助けを呼ぶべきか…。

親父かティックスを呼びに行こう。


「……」


襲われている少女に背を向けながら俺が村へと戻ろうとした時だった。


「…ぃ、いっ!いやぁああッツ‼‼‼」


そんな彼女の叫び声と共に俺の目の前に何時ものウインドウが表れる⁉


魔術の発動を確認しました。


魔術名称[ファイアーボール]

発動者[ミリア]


「う、うぁあ⁈‼」


メッセージの表示にミリアの名前あるのに気付いた俺が背後を振り返ると、情けない声をあげ狼狽するケニーと手から火の玉を放ったミリアの姿が見え、さらに俺の方へと向かって来る火の玉が見えた………っえ⁉


「っつつつぅ‼⁈」


慌ててその場から横に飛ぶことで火の玉を躱す‼俺の避けた火の玉は背後にあった木にぶつかると少しの焦げ跡を残して消えた。


「な、なんだったんだ⁉今の、はッツ⁉レッスン⁉何時からいやがったんだ!?」


火の玉に当初こそ驚いていたケニーだったが、一行に追撃が来ないことと、魔術を放った本人が驚いていることに、マグレだったのではと考えたのか、気を持ち直すと、先程、自分に向かって来た火の玉の行方を追ってか俺の方へと顔と視線を向ける。


「レックス⁉」


当然、俺と目が合う訳だ。

そしてケニーが何時の間にか見ていた俺に驚いてか声を上げると、さらに残りのもう一人のミリアもその声で俺が居ることに気付く。


「…………」


気付かれてしまえば戦わず終えないだろう。


何故ならケニーは俺を逃がさないだろうし、ミリアにしてみてもいくら俺の頭が弱いと思ったままの状況であっても、助けなければ怨むこと必至だろう。


以上のことから此処で俺がアホな子のフリをして逃げるという選択技は摘んだ。


「…ブースト発動ぉお⁉」


そして半ば焼けくそ気味にスキルを発動すると共にケニーに向かって駆け出した‼


いま、この時、世界は俺を中心に加速を開始した。

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