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おとうとが勇者になりました。

『ギィギャァァアアツ‼』


「いやぁーッツ!!!」


まだ子供の体でありながら、俺は背後から咆哮を上げて追い掛けて来る魔物に接敵はされても未だに捕らえられていなかった。


「ハァハァッ!あと少しぃ!!」


必死に走る中、身体は疲れ息も荒いというのに、頭の中で羊に逃げている自分と、そんな今の自分の状況を冷静に見ている俺がいる。


そんな状況だ。

自分でもどうしてこんな事になっているのか解らない、死の恐怖から現実逃避するためか?


そんな風ではない、何故なら必死な俺も、冷静な俺もどちらも共通して言える事は、この状況の中からどうやって生き延びるかを考えているからである。


『ギャーッ‼』


「えっ⁈また来たっ!ぁーっと!今度は右‼」


魔物が俺を捕食しようと飛び掛ってきたと同時に、今おかれている状況を客観的に、冷静に見ていた俺が周囲の状況を見て的確と思える場所に誘導する。


バッキ‼

『ッギィ⁈』


そして必死な俺が生き延びたいという強固な思いから、火事場の馬鹿力を発揮し、その場から冷静な自分の指示に従い右に飛び退く‼


その数舜後、魔物はおれの前方にあった木へとその身体を激突させる!


「っし!まだ行ける!まだ生けるぞ!!」


背後の魔物を振り返る事なく走り続けながら、木へとぶつかった音と、魔物の足音が止んだことから、また魔物と距離を置くことが出来たことに安堵する。


此処から村までは後数十分程度、そこまで体力的に走り切れるのか自分でも分からない。いや恐らく俺の体力は村に着くまで持たないだろうと、そう冷静な自分が結論を出しながらも、他に生き延びる方法が無いかを模索している。


その間を必死な自分が死の恐怖にその足を後押しされながら、死に物狂いで走る‼


「ハァハァッ、…ハァハァ‼」


タッタタタ‼

『ギィッ‼ギィ‼』


暫くしてまた木にぶつかった痛みから回復したのか、魔物がまた俺へと走り追い掛けて来る足音が聞こえてき、近づいてくる‼


此の侭ではヤバイと、冷静な自分が告げる。必死な自分の意見も同じだった。


何故ならば村に近付いたせいもあり、今までに魔物をはばんでいた障害物である木が極端に減ってきているからである。


エリマキトカゲの様なモンスターはその体型から、森の中の様な木々が生い茂っている場所ではスピードにのらないのだ。


それは最初に出会った場所である少し開けた野原で体験してる。


「ハァハァ!」


数秒もしない内に数度のジャンプで俺へと襲い掛かってきたのだ。反射的に森の中に飛び込んでおらずに、あのまま開けた川沿いを走っていたなら秒殺されていたことは間違いないだろう。


『ギィギャァア‼‼』


「…ちっくしょー!またかッツ!!」


再度襲い掛かって来た魔物を今度は左にジャンプする事で躱す。


すると俺の身体の直ぐ横を魔物身体が通り過ぎて行き、今度は俺の進む方向の右前方、7メートル先にあった突き出した岩に体をぶつける。


ガン‼

『ギッギィ⁈』

「ひぃいい?!!」


魔物の身体が横を通り過ぎる際に、魔物の前足のかぎ爪が俺の髪を掠め、髪の毛を数本刈っていく。しかもあのジャンプ力、平地なら確実に俺、マッハで死ねる?!


「…死にたくねぇよッツ!」


そう叫び声を上げて、俺は更に身体の限界まで出せるだけのスピードを出す‼


唯一の救いは、どうやらあの魔物は直線的な動きが物凄く早い分、そのせいかは知らないが逆に曲がることなどは苦手な様だった。


その特性に運良く気付けた俺は自分の小さな身体を利用した動きで、ギリギリその恐ろしい切れ味を持ったかぎ爪から逃げ延びているのだった。


「…よしっ、行けるかもしれない‼」


岩に身体をぶつけ、その痛みでのた打つ魔物の身体を見る。

俺の必死の行動のお陰で、魔物はあちこちにぶつけた性もあり、その身体に結構なダメージを負ってるようだ。


これならあの魔物の足も鈍るはず!そう思い、生きる可能性を見い出した俺は村へ、いや、親父の元へと向ってラストスパートする‼


『…ギィッ、ギィ‼』


俺の目論見とおりに、漸く痛みから起き上がった魔物は立ち上がるも、何度かその足をフラフラとさせ、足取りがしっかりととしていない様だ。


これなら!生きれる!そう俺が楽観した時だった。


「兄さん‼こんな所に居たんだ⁈ッツ魔物!!?」


村から此方へと向って、そのイケメンな顔に煌びやかな笑顔を浮かべ走り寄って来たのは…⁈


「ティッ!ティックス!?ごっがぁ!!?」

『ギャァウッツ‼』


そうティックスを見て驚いてしまった性もあり、俺は今までずっと逃げ回っていた相手への警戒が薄れた瞬間、肩に鋭い痛みが走り前方へと勢いよく吹き飛ばされる。


その力は物凄く!俺の身体はゴム鞠の様に地を跳ねて飛び、大分先に居たはずのティックスすらも跳び越えて漸く止まる‼


「兄さんッ!!?」


俺に向って声を大きく叫び走り寄ってくるティックスの姿が見える。


しかしそのティックスの背後でティックスに飛び掛かろうとする魔物の姿を見つけ、痛い身体に鞭打ち俺は出せるかぎりの声を荒げる‼


「うしろっだ!!!」

『ギィ‼』

「っえ!?うっ、う…うぁああーッツ!!!!!?」


俺の声に後ろを振り向いた時にはもう、魔物のかぎ爪はティックスの顔へと振り下ろされていた‼


「や、やめろっ‼」


俺がそう声を発した瞬間にそれは起きた。目の前に突然、ウインドウが表示され、しかもメッセージが表れていた。


特殊スキル発動を確認しました。

スキル名称[火事場の馬鹿力]

発動者[ティックス]


「おぉぉおおおッツ‼お前なんかぁにやられてたまるかぁーっ!!」


肩の切り傷が傷む中、俺はその光景を某前としてみていた。


ティックスが魔物を、その小さな拳で殴り倒す様を…。


そして魔物がその一撃により後方へと吹き飛ばされると共に霧になる姿を…。


その霧となった魔物がティックスの身体へと吸い込まれる様に溶け込む姿を…。


Level up!

ティックスのレベルが3になりました。


ティックスは称号[小さな勇者]を獲得しました。


レックスは称号[韋駄天]を獲得しました。


俺の目前にあるウインドウにそう表示されるのを見た。


「…なんなんだよ、これ!?」

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