紫色の夜
第2話 紫色の夜
――ギギ……。
玄関の扉を擦る音が、再び聞こえた。
ルナは口元を押さえたまま、動けずにいた。
扉の向こうにいる何か。
その姿は見えない。
けれど、そこにいることだけは分かる。
ドアスコープを覗いたときの、黒く塗りつぶされたような景色が頭から離れなかった。
(……何なの、あれ)
声に出してはいけない気がした。
もし、自分がここにいると気づかれたら。
そんな考えが浮かび、ルナは慌てて息を殺した。
――ギ……。
また音がした。
今度は、少し下の方から。
硬く尖った何かが、扉の表面をなぞっている。
ルナは一歩、後ろへ下がろうとした。
しかし、足が動かない。
心臓の音がうるさい。
こんなにも静かな場所では、その音さえ向こうに聞こえてしまいそうだった。
(……お願い。どっか行って)
目を閉じる。
数秒。
それとも、もっと長かったのか。
分からない。
やがて、扉を擦る音が止まった。
ルナはゆっくりと目を開けた。
玄関は静まり返っている。
(……行った?)
そう思ったが、自分の考えを打ち消した。
足音は聞こえていない。
まだ、すぐ向こうにいるかもしれない。
ルナはその場に立ち尽くした。
どれくらい時間が過ぎたのだろう。
足の感覚が鈍くなり始めた。
「うわあああああっ!!」
突然、遠くから叫び声が響いた。
男の人の声だった。
助けを求めるような、悲鳴。
(……人?)
誰かがいる。
自分以外にも、人がいる。
カツン!
扉のすぐ向こうで、あの音が鳴った。
続けて。
カツン、カツン、カツン――!
硬い足音が、急速に遠ざかっていく。
まるで、悲鳴の聞こえた方へ走っていくように。
ルナは息を呑んだ。
(……行った)
今度こそ、離れていった。
それでも、玄関を開ける気にはなれなかった。
あの足音が何だったのか分からない。
叫んだ人がどうなったのかも分からない。
ただ、扉の向こうにいた何かが、あの声に反応したことだけは分かった。
「……何が、起きてるの」
ようやく出た声は、ひどくかすれていた。
ルナは壁に背中を預けた。
膝が震えている。
このまま、家の中にいればいい。
外には、あんなものがいる。
誰もいなくても、家の中なら扉がある。
鍵もかかる。
そう考えた。
少なくとも、ここなら。
――コト。
「…………え?」
小さな音がした。
ルナは顔を上げた。
今の音は、玄関の外ではない。
家の中。
しかも。
(……二階?)
耳を澄ます。
何も聞こえない。
気のせいかもしれない。
古い家なら、木がきしむことだってある。
そう思おうとした。
――コツ。
また聞こえた。
今度は、はっきりと。
何かが床に触れるような音。
ルナは階段の方を見つめた。
紫色の薄明かりが届かない階段の先は、暗い。
そこから、ゆっくりと。
――コツ……コツ……。
足音のようなものが聞こえてきた。
「……お母さん?」
思わず声が漏れた。
返事はない。
さっき、家の中を探した。
誰もいなかった。
それなのに、二階を誰かが歩いている。
(……まさか)
ふと、寝る前のことを思い出した。
少し暑くて、自分の部屋の窓を開けていた。
そのまま、閉めた覚えがない。
(……窓)
背中に冷たいものが走った。
あの窓から、何かが入ってきたのだとしたら。
ルナは階段から目を離せなくなった。
――コツ。
音が近づく。
階段の上。
そこに何かがいる。
見えない。
何なのかも分からない。
ただ、さっきまで聞こえていた場所より、明らかに近い。
(……やだ)
ルナはゆっくりと後ずさった。
(……こっちに来ないで)
――コツ。
また一つ。
今度は、階段の一段目に何かが触れたような音だった。
ルナの身体が動いた。
玄関へ振り返る。
外には、さっきの何かがいるかもしれない。
でも。
このままここにいたら、二階から来る何かと鉢合わせる。
ルナは玄関の扉に近づいた。
ドアスコープを覗く。
今度は、外が見えた。
紫色の道路に向かいの家。
鍵に手をかける。
カチャ。
小さな音が、やけに大きく響いた。
扉を少しだけ開ける。
外には、誰もいない。
――コツン。
背後から音がした。
さっきより、ずっと近い。
「……っ!」
ルナは扉を押し開けて外へ飛び出した。
*
走った。
ただ、ひたすらに。
振り返らない。
振り返れない。
後ろから何かが追いかけてきているのかさえ、分からなかった。
それでも、足を止めることができなかった。
家の前の道路を駆け抜ける。
角を曲がる。
また曲がる。
靴が地面を叩く音だけが、静かな住宅街に響いていた。
「はっ……はっ……!」
息が苦しい。
胸が痛い。
それでも走る。
もし止まったら、何かに追いつかれる気がした。
見慣れたはずの家々が、次々と後ろへ流れていく。
いつも通学で通る道。
近所の公園。
小さな交差点。
そのすべてが、暗い紫色に染まっていた。
どの家にも明かりはない。
誰も歩いていない。
車も通らない。
まるで、自分だけが取り残されたようだった。
「はっ……もう……無理……!」
ルナは住宅の塀に手をついた。
膝が折れそうになる。
息を吸おうとしても、うまく吸えない。
喉が焼けるように痛かった。
しばらく、その場で肩を上下させる。
ようやく呼吸が少し落ち着いたところで、ルナは顔を上げた。
「……ここ、どこ?」
見覚えのある住宅街だった。
なのに、自分がどこにいるのか分からない。
逃げることしか考えていなかった。
何度曲がったのかも覚えていない。
ルナは後ろを振り返った。
誰もいない。
追いかけてくる足音もない。
それでも、安心はできなかった。
(……帰りたい)
自分の部屋に戻りたい。
ベッドに潜り込んで、朝になるのを待ちたい。
けれど、あの家には戻れない。
二階から聞こえた音を思い出す。
あれが何だったのか、確かめる勇気なんてなかった。
「……お母さん」
名前を呼んでも、返事はない。
ルナは唇を噛んだ。
泣いたところで、誰も来てくれない。
それが分かっているから、余計に涙が出そうになった。
ルナは歩き始めた。
どこへ向かえばいいのか分からない。
それでも、じっとしているのは怖かった。
しばらく歩くと、道路の先に何かが見えた。
最初は、落ちている荷物かと思った。
暗い紫色の道路に、黒っぽいものが横たわっている。
ルナは足を止めた。
「……あれ?」
人だった。
誰かが、道路に倒れている。
「……だ、大丈夫ですか?」
返事はない。
ルナは恐る恐る近づいた。
倒れているのは、大人の男性だった。
顔は横を向いている。
服がひどく汚れていた。
「……あの」
もう一度、声をかける。
動かない。
ルナはさらに一歩近づいた。
そして、気づいた。
男性の身体の下に、黒い染みが広がっている。
紫色の薄明かりの中でも、それが血だと分かった。
「....っ!」
足が止まる。
男性の服には、いくつもの穴が開いていた。
その周囲が、赤黒く染まっている。
胸元にも。
腹にも。
まるで、太い針のようなもので何度も突き刺されたようだった。
「……うそ」
ルナは口元を押さえた。
男性は動かない。
胸が上下している様子もない。
ルナは、これ以上近づけなかった。
(……死んでる?)
頭の中で、その言葉が浮かぶ。
認めたくなかった。
さっきまで、誰かが倒れているだけだと思っていた。
助けを呼べば、どうにかなるかもしれないと思っていた。
けれど。
こんな傷を負って、無事でいられるはずがない。
ルナは後ずさった。
玄関にいたときの悲鳴を思い出した。
あの男の人の声。
そして、悲鳴の方へ遠ざかっていった硬い足音。
(……まさか)
ルナは倒れている男性を見つめた。
(……あの声の人?)
確かめる方法はない。
でも、もしそうなら。
あの玄関の向こうにいた何かが、この人を。
「……うっ!」
吐き気がこみ上げた。
ルナは口元を押さえ、顔を背けた。
自分も、ああなっていたかもしれない。
もし、あのとき玄関を開けていたら。
もし、あの足音が遠ざからなかったら。
そう考えた途端、身体の震えが止まらなくなった。
「……いや」
ルナは小さくつぶやいた。
「……いやだよ、こんなの」
目の前の男性は、もう動かない。
助けを呼ぼうにも、スマートフォンは使えない。
周囲には誰もいない。
なにより、この人を殺した何かがまだ近くにいるかもしれない。
ルナはその場を離れた。
*
どれくらい歩いたのだろう。
ルナは、住宅街の中をさまよっていた。
家には戻れない。
ほかに行く場所もない。
交番へ行けば、誰かいるだろうか。
でも、街から人が消えているのなら、警察官だっていないかもしれない。
そもそも、ここがどこなのかも分からない。
「……誰か」
声が漏れる。
「誰か、いないの……?」
返事はなかった。
ルナは腕を抱きしめた。
寒いわけではない。
それでも、身体の震えが止まらなかった。
道の先には、曲がり角がある。
その向こうには、また同じような住宅街が続いているのだろう。
ルナは足を進めた。
そのとき。
カツン。
聞き覚えのある音だった。
足が止まり、全身に寒気が走る。
すぐそこの曲がり角。
その向こうから、聞こえた。
カツン。
硬いものが地面を叩く音。
玄関の向こうにいた、あの何か。
そして、倒れていた男性の身体に開いていた穴。
すべてが頭の中でつながった。
(……うそ)
逃げなきゃ。
そう思った。
けれど、身体が動かない。
足が地面に張りついたようだった。
カツン。
また近づいてくる。
角を曲がってきたら、見つかる。
分かっているのに。
(……動いて)
ルナは必死に足を動かそうとした。
(……お願い、動いてよ!)
その瞬間、背後から突然手が伸びてきた。
「んっ――!」
口を塞がれ、同時に身体が後ろへ引かれる。
ルナは目を見開いた。
(……何!?)
必死に抵抗する。
腕を振り回し、相手の手を振りほどこうとする。
しかし、口を押さえた手は離れない。
そのまま、建物の間にある狭い路地へ引き込まれた。
(……やだ!)
ルナは足を踏ん張った。
けれど、背後の誰かが耳元でささやいた。
「……静かに」
男の人の声だった。
ルナは身体を硬くした。
「頼む。今だけ、動かないで」
その声は小さかったが、妙に切実だった。
ルナは抵抗する手を止めた。
直後。
カツン。
路地の入口のすぐそばで、あの音がした。
ルナは息を止めた。
背後の誰かも、動かない。
カツン。
また鳴った。
今度は、すぐ目の前。
ルナは目だけを動かした。
路地の入口から、道路が少し見える。
その向こうを、黒い何かが横切った。
2mくらいだろうか、人にしてはかなり大きい。
細長いものが、地面に触れる。
カツン。
ルナは口を塞がれたまま、震えていた。
それが何なのか、はっきりとは見えなかった。
ただ、人間ではない。
それだけは分かった。
カツン。
カツン。
音が少しずつ遠ざかっていく。
それでも、背後の誰かは手を離さなかった。
ルナも動かなかった。
どれくらい経ったのだろう。
足音が完全に聞こえなくなってから、ようやく口元の手が離れた。
「……ふぅ」
背後で、小さく息を吐く音がした。
ルナは慌てて振り返った。
そこにいたのは、一人の少年だった。
短く整えられた髪。
前髪を少し上げた、高校生のような顔立ち。
黒いジャケットの下にパーカーを着ている。
背中にはリュック。
年齢は、ルナと同じくらいだろうか。
少年は、ルナの顔を見るなり小さく笑った。
「……危なかったな」
その言葉を聞いた瞬間、ルナは少年の胸を両手で突き飛ばした。
「いっ……!」
少年がよろめく。
「な、何するんだよ!」
「それ、こっちのセリフ!」
ルナは後ずさった。
「いきなり何!? 誰なの!?」
「ちょっ、声でかいって!」
少年は慌てて口元に指を当てた。
「まだ近くにいるかもしれないんだぞ!」
ルナは言葉を飲み込んだ。
さっきの足音を思い出したからだ。
少年は周囲を確認し、少しだけ肩の力を抜いた。
「……悪かった。びっくりさせたのは分かってる」
ルナは何も答えない。
「でも、あのまま立ってたら見つかってた」
「……あれ、何なの?」
ルナの声が震えた。
「さっきの……あれ」
少年は、路地の入口へ目を向けた。
「……分からない」
「え?」
「俺にも、何なのか分からないんだよ」
ルナは少年を見つめた。
ようやく会えた人間。
それなのに、この人も何も知らないのだろうか。
「俺も気づいたら、街がこんなことになってたんだ」
「……家族は?」
「いなかった」
短い返事だった。
ルナは目を伏せた。
自分と同じだ。
少年は少し迷ったようにしてから、口を開いた。
「俺、ショウ」
「……え?」
「名前。ショウっていう」
ルナはしばらく黙っていた。
それから、小さく答えた。
「……ルナ」
「ルナ、か」
ショウはうなずいた。
「よろしく、って言っていい状況じゃないけどな」
ルナは笑えなかった。
ショウも、それ以上は何も言わなかった。
しばらく二人の間に沈黙が流れる。
遠くの住宅街は、相変わらず紫色に沈んでいた。
誰の声も聞こえない。
車の音もしない。
ただ、さっきまで一人だったルナの隣に、今はもう一人いる。
それだけが、少しだけ違っていた。
ルナは路地の外へ目を向けた。
そして、ずっと聞きたかったことを口にした。
「……ここ、どこなの?」
ショウは答えなかった。
ルナが顔を上げると、彼も同じように紫色の空を見つめていた。
やがて、ショウは小さくつぶやいた。
「……俺も、それが知りたい」
ショウの言葉を最後に、二人は黙り込んだ。
紫色の空を見上げても、答えは見つからない。
どこへ行けばいいのか。
どうすれば元の世界に戻れるのか。
何も分からなかった。
「……とりあえず、ここを離れよう」
ショウが路地の外を確認した。
「さっきのやつが戻ってくるかもしれない」
「……うん」
ルナは小さくうなずいた。
二人が歩き出そうとしたところで、かすかな声が聞こえた。
「……誰か……」
ルナは足を止めた。
「……ショウ、今……」
「ああ。聞こえた」
「……助けて……」
女の子の声だった。
二人は顔を見合わせた。
住宅街の向こうから、小さな少女が歩いてくる。
十歳くらいだろうか。
少女は泣きながら、何度も周囲を見回していた。
「……お母さん……」
震える声が、静かな道路に響く。
「……どこにいるの……?」
少女は袖で涙を拭った。
少し歩いては立ち止まり、また辺りを見回す。
その姿を見て、ルナは胸が苦しくなった。
「……あの子、一人なのかな」
「……みたいだな」
「助けないと……」
ルナが歩き出そうとすると、ショウが腕をつかんだ。
「待って」
「……どうして?」
「さっきのやつが、まだ近くにいるかもしれない」
「でも……」
「分かってる。俺だって放っておきたくないよ」
ショウは少女の方を見た。
「ただ、慎重に行こう」
ルナはもう一度、少女に目を向けた。
小さな身体。
涙で濡れた頬。
自分だって、ショウに出会うまでは一人だった。
あの怖さを思い出す。
「……ねえ、ショウ」
「ん?」
「ここから声をかけるだけなら、いいよね?」
ショウは少し考えてから、うなずいた。
少女はこちらに気づいていない。
「あの……!」
ルナが声をかけようとしたとき、別の声が聞こえた。
「……お嬢ちゃん」
少女が顔を上げた。
道路沿いの一軒家。
門の奥から、白髪のおばあさんが顔をのぞかせていた。
「……こっちだよ」
おばあさんは周囲を気にするように、道路を見回した。
「早くおいで。そんなところにいたら危ないよ」
少女は立ち止まったまま、おばあさんを見つめている。
「……おばあちゃん……?」
「そうだよ。こっちにおいで」
おばあさんは優しく手招きした。
「一人で怖かったねえ」
少女の顔が、くしゃりと歪んだ。
「……お母さんが……いないの……」
「そうかい、そうかい」
おばあさんは門を開けた。
「とにかく中にお入り。ここにいれば大丈夫だから」
少女はゆっくりと歩き始めた。
ルナはほっと息を吐いた。
「……よかった」
ショウも、黙って二人を見守っていた。
少女が門の前まで来ると、おばあさんは身をかがめた。
「さあ、おいで」
少女は小さくうなずいた。
おばあさんが、その手を取る。
「もう大丈夫だからね」
少女がおばあさんの方へ一歩近づいた。
二人の姿が、門柱の陰に半分隠れる。
「……あら?」
おばあさんは何かを確かめるように、少女を見ている。
「……お嬢ちゃん、それ……」
声が途切れた。
おばあさんの身体が、ぐらりと傾いた。
「……え?」
ルナは思わず身を乗り出した。
おばあさんが門の内側へ倒れ込む。
塀に隠れ、その姿は見えなくなった。
ドサッ。
鈍い音が響いた。
「……おばあちゃん?」
ルナは思わず一歩踏み出した。
ショウが素早く、その肩を引く。
「……待て」
「でも、今……!」
「……静かに」
ショウの声が低くなった。
その視線は門の奥に向けられたまま、少しも動かない。
二人は塀の陰から、家の門を見つめた。
おばあさんは起き上がってこない。
少女の姿も見えなかった。
何が起きたのか分からない。
転んだだけなのだろうか。
具合が悪くなったのかもしれない。
ルナは助けに行こうとしたが、ショウの手が肩を掴んだままだった。
「……もう少し、待って」
その表情を見て、ルナは動けなくなった。
門の奥から、小さな物音が聞こえた。
何かを引きずるような、湿った音。
すぐに静かになった。
「……ショウ……」
「……分かってる」
ショウは門から目を離さなかった。
長い沈黙が続いた。
やがて、門の陰から小さな足が現れた。
少女だった。
服も髪型も、何一つ変わっていない。
しかし、その顔には先ほどまでの怯えた様子がなかった。
少女はゆっくりと道路に出てきた。
ルナはおばあさんの姿を探した。
けれど、門の奥から誰かが出てくる気配はない。
少女は立ち止まり、辺りを見回した。
右。
左。
そして、また歩き始めた。
「……ねえ、ショウ……」
ルナの声は震えていた。
「……あのおばあちゃん、どうなったの……?」
ショウは答えなかった。
少女は二人のいる路地とは反対の方向へ歩いていく。
小さな背中が、紫色の暗がりに遠ざかっていった。
ルナは、さっきまで少女を助けようとしていた。
今も、あの子が何者なのか分からない。
ただ、一つだけ分かることがあった。
おばあさんは、まだ出てこない。
少女は数歩進んだところで足を止めた。
「……誰か……」
ルナは息をのんだ。
少女は再び、泣きそうな声で呼びかけた。
「……誰か、助けて……」
ルナがショウの腕をつかんだ。
少女の呼び声だけが、誰もいない住宅街に響く。




