カラオケとカレーとハヤシライス。
「……奪っていくぅぅぅぅぅ」
歌とともにカラオケの伴奏が終わる。
マイクを握った先輩がペコリと頭を下げた。
「さ、馨くんの番だよ」
マイクを渡される。
「はいっ!」
とりあえず、元気よく。今さらシブくカッコつけてもダメみたいだし。
店に入って、いきなり、カッコつけて唄おうとした流行歌に強制停止をかけられた。
そしてセットされたのは、とあるアニメの主題歌。
三十一人の女の子がみんなで歌うアレだ。
「何、今さら。本音で行こうよ。ね」
いや、本音って。
頭をかきつつ、苦笑してみせる。
ま、そう言いつつ、唄って気持ちいいのはたしかで。
先輩も一緒になって合わせてくれると、やはり気持ちいいわけで。
次々とセットされるのはそんな曲ばかり。
フリードリンクのジンジャーエールとオレンジジュースで喉を潤しながら、次から次へと。
先輩の声はのびやかな高音が綺麗だった。
ふと、この声が。
僕の曲にこの歌声が乗ったりしたら最高なんだけど。
そんなことを思った。
僕が最近はまっているのはゲーム音楽の耳コピだった。
コピーしたそれに、アレンジを加えていく。
ネットでは結構流行りで、そうやって「作品_」を作っている連中も大勢いる。
そこをステップにして、プロに行く連中も少しずつ出てきている。
もっとも、僕はそんなレベルではない。
オリジナルなんてまだまだ先の話。
今は遊びのレベルだ。
だけど。
僕は物心ついた頃にはもう鍵盤を叩かされていた。
そして、母さんが死ぬまで、ずっと続けて。
母さんの葬式の後、僕は通うのをやめた。
母さんの喜ぶ顔。
それだけが教室に通っていた理由だったからだ。
だけど。
最近、ようやく面白さがわかってきた気がする。
自分の指がその「音_」を生み出す。
その快感。
もっともまだまだ下手で。
あの後も続けていたら、もう少しマシだったのかな?
そして先輩に「この曲を歌ってください_」なんて、いまどきマンガでもないようなことを言っていたんだろうか。
一通り唄い疲れてカラオケ屋を出ると、辺りはもう赤い夕暮れ。
「馨くんちはちゃんと家でごはん食べないと怒られちゃう?」
「え? いえ」
「じゃさ、どうせならごはん食べていこっか」
「え? いいんですか?」
帰る、帰らないという意味では女の子である先輩の方に問題がありそうだけど。
「あたしはね。どうする?」
「じゃあ、食べていきます。でも何を?」
正直、そんなに財布に余裕はない。
かと言って、先輩誘って牛丼屋というわけにはいかない気もする。
「あそこにしよっか」
指差した先は、ココイチ。名古屋が誇るカレーのチェーン店。
ま、あそこなら牛丼屋よりは。そしてリーズナブル。
「はい」
僕らはそこでカレーとハヤシライスをオーダーして。
そして、また他愛ないことを話して。
二時間くらい粘って。
そして帰途についた。




