お誘い。
「原稿、書いてる?」
そんな声が携帯に入ってきたのは、夏休みも折り返し点に入ったある日のこと。
「書いて……ますよ。一応」
僕は少し見透かされたようでちょっとビビリながら答える。
「ふうん。ならいいけど」
「大丈夫ですよ」
「そっか。ま、カンシンカンシン、と褒めておこう」
「はいはい」
「で、馨くん。このお休みはどこか行った?」
「どこかって……まあ、友達と山の方へ」
山と言えば聞こえはいいが、実はサバイバルゲームだったりする。
エアガン持って野山を駆け回るのだ。
「山かあ。ちなみにあたしと映画でも見に行く気ある?」
「あります」
先輩のお誘い。
断ったらバチが当たる。
「じゃあさ、『ナイトオブザリビングデッド』見に行きましょ。ロメロ版よ、ロメロ版」
「……」
そんなもの、どこでやっているんですか……。
「リバイバルの名作ホラー特集なんだよ。そのうちの一本。嫌いだった?」
ええ。嫌いです、とは言えない。
「……」
「嫌いだったっけ? でもアレ名作だからね。やっぱ一度は見ておかなくちゃ。あ、同時上映が『レーザーブラスト』だから。一応、トカゲ型宇宙人がでてくる完全版ね。まあ、この機会を逃したら二度と見れないわよ」
どういう組み合わせだ、それは。
「いえ、おまかせします。はい」
「じゃあ、明日、十時にオアシス21ね」
「あ、はい。十時ですね」
「じゃ、待ってるね。少しはお洒落してきてね」
うっわー。
お誘いですよ。お誘い。
うわー。
と、ふと気づく。
「お洒落?」
うわー、服なんてろくなの持ってないよ。
どうする?
ユニクロへでも行くか。
決断まで0.1秒。
行くぜ。
我ながらユニクロしか思い付かないのは情けないが、言っても仕方あるまい。
思いつかないのは思いつかないのだ。
あわてて財布をポケットに放り込む。
お金は……、先月のバイト料が入っていれば何とかなる!
家を飛び出すと……、先輩がいる???
思わず固まった。
「あ……れ?」
僕が状況を理解できないでいると、先輩が手に持った携帯を示した。
「ああ言えば、きっと服買いに行くんだろうな、ってね」
さっきは家の前からかけてたわけだ……。
やられた。
「どこに買いに行くの?」
「ユニクロ……」
「じゃあ、行こうか。つきあうわよ」
えーと。まあ、いっしょに行けるのを素直に喜べばいい、のかな?
この人の行動には、どうせいつも驚かされっぱなしなんだし。
「はい。じゃあ、お願いします」
僕は頭を下げつつ笑った。
そして、ちょっとほっとした。
センスのない服を着ていって、先輩に呆れられる、という最悪のケースだけは避けられたからだ。
今日も2回更新。21時に。




