走る。
オアシス21に向かう前に、まんが喫茶によって、着信を確認する。
たくさんのメールが届いていた。
いくつか読んで無視することにする。
「オアシス21で待っている。ついでに金は三越の紙袋に入れること。松坂屋でもかまわない。でも高島屋はダメだ」
そうメールを打ってオアシス21へ。
夕暮れのオアシス21は人にあふれていた。
春山はまだ来ていない。
僕は喫茶店の一つに入ってコーヒーをオーダーする。
そして待つ。
ポケットの中のMP3プレイヤーのスイッチを入れる。
耳の中に「冬の手紙」が広がる。
三人目。
必ず。
必ず。
三人目を。
カフェインが体を満たす。
昂ぶる気持ちを押さえつけ店を出た。
ターゲットは春山ではない。
近藤だ。
おそらく、僕が春山に接触した後、近藤が僕の後を尾行してくる、もしくはそれに準じた何らかの手を打ってくるはずだ。
そんなに馬鹿なヤツらじゃない。
ただ、すなおに金を渡すなどありえない。
だから僕は、そっと近づいてきているはずの近藤をターゲットにする。
裏をかくんだ。
そのために、ゆっくりと歩いて人の顔を確認する。
見つけた。
サングラスにグレーのコート。
近藤。
僕はゆっくりと近づく。
少し離れた場所でしばし観察。
近藤の視線の向こうには春山がいた。
バカみたいに、三越の紙袋を持って立っている。
思わず笑みがこぼれる。
近藤はポケットからタバコを出した。
ふうん。生徒会長でもタバコ吸うんだ。
しかもマルボロだ。
百円ライターで火をつける。
なかなか点かない。
ガスがほとんどない感じだ。
何回も試して、ようやく点いた。
そしてそのままライターを捨てた。
環境に優しくないヤツだな。
何となく僕は足を踏み出した。
ふと捨てられたライターに手を伸ばす。
ホテルシャングリラ。
最近、できたばかりの高層ホテル。
何故こんなライター?
何かの役に立つかもしれない。
そう思ってポケットへ。
ついでにMP3プレイヤーを止める。
そして。
「ちょっといいですか?」
僕は近藤に声をかける。
「何だ、お前?」
「少し、お時間を」
「宗教には用はない。消えろ」
「宗教じゃないんで」
僕はガーバーのフォールディングナイフを取り出して脇に突き付ける。
「お……前」
「トイレでも行きませんか?」
僕はゆっくりと言った。
「ね」
近藤はゆっくりと歩き出す。
僕もそれについてゆっくりと歩く。
あらかじめ清掃中の札を出しておいたトイレだ。
「そのへんにしてもらおうか」
いきなりスーツの男が脇に立った。
拳が飛んだ。
星が飛ぶ。
トイレの中に倒れこむ。
体中の神経接続が切れた気分だ。
そして、黒光りする凶器が突き付けられる。
S&Wのリボルバー。
「坊ちゃんに手を出そうとはいい度胸だな」
ヤクザかよ。
そんな付き合いがあるとは知らなかった。
「どうします? 坊ちゃん」
「さっさと始末したいとこだけど、いろいろ聞きたいこともあるんで連れていこうか」
近藤はにやにやと笑って言う。
さて。
とりあえず、ここで死ぬわけにはいかない。
けど。
額に突き付けられたリボルバー。
ヤクザの男と、近藤。
狭いトイレ。
僕は。
「連れていきますか?」
視線がはずれた。
そのタイミングでレンコンみたいな回転式弾倉を掴む。
「な、何しやがる!」
ヤクザが引き金を引く。
だが、引き切れない。
無知なヤツめ。
ダブルアクションのリボルバーは回転式弾倉を掴むと撃鉄を起こすことができなくなる。弾丸を連続して発射するため、回転式弾倉と撃鉄が連動して動くようになっているからだ。
すなわち、回転式弾倉を固定してしまうと撃鉄も固定される。それは弾丸を発射することができなくなることと同意だ。
アメリカのように、そういった知識が当たり前の国の連中はリボルバーの拳銃を相手に突き付けることはない。
「な、何でだ?」
僕はそのまま拳銃を捻る。
「な?」
引き金にかけた指が逆関節となり、手を離してしまう。僕は手に収まった拳銃を持ち替え、そのままヤクザの男に向ける。
「お! おい?」
こんなものは出したらさっさと使うものだ。脅しなんかしているヒマがあったらね。
僕は引き金を引いた。
ヤクザが後ろに跳ね飛んだ。
「ひ?」
近藤にそのまま向ける。
「バイバイ」
一発、二発。
近藤の体が跳ねる。
トイレの壁に咲く血の花。
「どうしました? アニキ?」
血相を変えたヤクザがもう二人入ってきた。スーツ、と言ってもやたら水商売風の派手なスーツを着ている。二人とも拳銃を抜いていた。
僕は容赦なく引き金を引く。
一発ずつ撃ち込む。一人は喉から、一人は腹から血を吹き出させる。
腹に当たった方には頭にもう一発撃ち込む。
そして弾丸が切れた。
さて。
時間がない。
僕は手に持った拳銃を捨て、入ってきた二人の拳銃を奪い取る。
こちらはオートマチック。
念のため近藤に近づく。
胸と腹が血まみれだ。
だけど。
口に銃口を入れ、もう一発。
後頭部がはじけた。
これでゾンビだって死ぬ。
僕は拳銃を鞄に放り込み、トイレを出た。
あたりがざわついていた。
誰かが通報したのかもしれない。
僕は走った。
走って、逃げた。




