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眠れぬ夜と灰色の朝。  作者: 阿月
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金属バット。

 さて。日はまだ高い。やるべきことをやっておこう。

 とはいえ、どうする?

 何から始めようか。

 



 そう言えば、今日はオーダーしておいたものが届く日だ。

 

 さっさと帰って確保しておかないと。

 父さんにでも見つかったら、ややこしいこと、このうえない。

 とにかく、一度、帰ろう。


 家に着いてから、ほぼ同タイミングでその箱は届いた。

 スタンガン。ペッパースプレーに手錠。

 

 その中から、二十万ボルトというふれこみののスタンガンを手に取る。

 意外と……軽い。


 よく見ると、当たり前のことだが、電池を実装してない。だから軽いんだ。

 とりあえず、ゴツい、大型の電池をセットすると、ずしりと重い。

 その重みを実感しつつ、スイッチを入れる。

 電極の間を火花がはしる。

 ぞっとする。

 

 

 ただ、今の僕にとっては、これは力の象徴だった。

 喧嘩ひとつしたことのない僕が、たとえ力のかぎり、連中を殴ったところで、キズ一つつけることはできないだろう。

 だけど、こいつなら。

 

 火花が僕の心の中に入り込んだ。

 何か、よくないものが目を覚ます。

 

 僕はかろうじてそれを抑え、専用のケースの中にしまいこむ。

 そして、他のものも、一通り使い方を確認する。

 

 

 さて。

 こんなものばかり、というわけにもいかないだろう。

 後は。

 

 

 あちこち回って手に入れよう。

 そう。

 例えば……。



 最近の小学校は警備が厳しい、なんてことをテレビのニュースとかでやっている。

 だけど。

 何のかんの言っても、適当に塀を乗り越えれば簡単なものだ。


 投げ込んだボールを取りに行くフリでもすれば完璧だ。

 で。

 こっそり忍び込んだ僕は、お土産を手にしてくる。



 ま、お土産というより、これ自体が目的だった。

 金属バット。

 できれば足がつかない武器がほしかった。

 思いついたのが「これ」だ。

 少なくとも、この小学校自体、僕の家からは遠く離れている。

 むしろ「ヤツら」の家寄りだ。



 当然と言っては何だけど、指紋がつかないように手袋くらいははめている。

 ホームセンターで買った安いレザーのグローブだけど、これからの仕事には十分だ。

 僕はこのために持ってきた大きなスポーツバッグに突っ込む。



 もっともこれもホームセンターで買った安物。

 ああ、でも安物と言えど、僕の財布にはキツい。



 がんばれ、僕。

 節約人生だ。



 さて、こうしてスポーツ少年っぽく装った後は、一旦帰還。

 こいつをどう使うか、はこれから考えることだった。

 自転車に乗って走り出す。

 それで今日は終わり、のはずだった。

 だけど。




 僕は見てしまった。

 原付に乗った一人の男。

 半キャップをあみだに被ったその男は。

 間違いなく松岡だった。

 僕は振り返り、後を追った。

 追いつけるわけない、とあきらめそうになった瞬間、視界の向こうに前沢のおばけ病院が見えた。

 そして、原付はそこで止まった。





 何の用があるのだろう?

 よく見ると松岡の原付の他に、もう一台。

 こっちは原付なんかじゃなく、250ccのスクーター。



 僕はこっそりと忍び込む。

 暗い廃墟の奥から人の声。

 言い争いなのか、声を荒げている。


 松岡の声?

 僕はゆっくりと近づいた。

 すると女の泣き声まで聞こえる。

 痴話喧嘩、というヤツだろうか。



「どういうつもりもないさ。別に。そいつだってそのつもりだったしな」

「……!」

「そうだろ。お前だって喜んでたじゃないか。あの時」



 松岡の声。

 どうも、松岡が捨てた女のことで絡まれている、というところか。

「やっぱり口で言ってもわからないようだな」

 男がつぶやいた。

 目がすわっている。

 キレた目だ。

 ポケットから出したのはナイフ。

 それも結構大型のものだ。



「おいおい、マジギレかよ。そんなにいいかい? そんな使い古しの女がよ」

 松岡は平気で茶化し続ける。

「てめぇ……、それ以上言ってみやがれ……」

「どうするよ」

 その言葉とともに、松岡の右手に伸縮式の特殊警棒が現れた。

「へっ、こんなトコ来るのに素手なわけねぇだろ」

 松岡が笑う。



「てめぇ……、その気ならやってやらぁ!」

 男が切りかかる。

 松岡はあっさりと避けた。

 そして警棒を一振り。

 一撃が入る……、はずだった。

 男はあっさりと松岡の腕を掴んでいた。

「何?」

「素人がこんなもの使うなよ!」

 男はナイフを振った。


 赤い血飛沫が飛ぶ。


 手首を切られた松岡は警棒を取り落とす。

「あいにくと、こっちは日がな一日竹刀を振ってるんだ。あんたの動きなんざ手に取るようにわかるさ」

 そのまま、ナイフを突きつける。



 松岡の顔に。

 松岡の表情が情けないものに変わる。

「お……おい、は、話し合おうぜ……、な」



「その自慢の顔、切り刻んでやるよ」

「な、なあ、わ、悪かった……よ。そう、金でどうだ? な、な」

 男は黙って頬にナイフを当てた。

「死んでこいよ」


 僕は。

「おまわりさーん! こっちです! 刃物使って喧嘩してます! 早く!」

 叫んだ。

 あらん限りの声で。




「ちっ!」

 カップルが逃げ出した。

「松岡! せいぜい夜道に気をつけるんだな!」


 動きは早い。

 捨て台詞を残すとあっさり走り去る。



 松岡はへたり込んでいた。

 放心して。

「大丈夫かい?」

 僕は声をかけつつ、ゆっくりと顔を出した。



「お前か……、今の声は」

「うん。刃物使ってたからね。ちょっとマズいなって思って」

「サンキュ。助かったよ。で、警官ってマジか?」

「まさか。そんな都合いいわけないじゃん」

 僕の言葉に松岡は笑った。



「ドラマみたいだな」

「まあね。定番なネタだけど」

「お礼に何か奢るわ。何がいい? 焼肉だっていいぜ」



「豪勢だね。でも」

「でも? 何? 寿司か? それとも女でも紹介してやろうか?」

「それもいいけど」



 僕は右手に握った金属バットを振り上げた。



 松岡が怪訝そうな顔をしていた。


 

 

 

 そして。

 僕の復讐が始まった。 


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