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眠れぬ夜と灰色の朝。  作者: 阿月
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無邪気な笑顔。

 僕はこっそりと部屋に戻った。

 父さんは出張中。

 この家には僕しかいない。

 僕はまっすぐ風呂場に向かい、体を洗う。

 あらためて、自分の手を見つめる。

 血塗られた手。

 そう。

 僕は人を殺した。

 だけど、後悔はない。

 僕はやるべきことをしたのだ。

 それを正義と呼ぶつもりもない。

 そんなことはわかっている。

 わかっている。

 僕は体を吹き、とりあえず寝間着代わりのジャージを着る。

 そして冷蔵庫を開け、牛乳をパックのまま飲む。

 適当に買っておいた菓子パンを取って噛る。

 

 甘い。

 

 小倉あんと少し塩の効いたマーガリンの味が口に広がる。

 僕は食べかけのそれを持ったまま二階の自分の部屋へと向かった。

 寒々とした部屋のベッドに腰掛ける。

 いつもならパソコンの電源を入れ、いろいろと情報収集にはげむところだが、今日はそんな気力もない。

 機械的にパンを口に運ぶ。

 とにかく、糖分を脳に供給して、「考える_」ことを始めなくては。

 今は、のんびり立ち止まっているヒマはない。

 だけど、一向にエンジンがかからない。

 OSが起動しない。

 ふと痛みを思い出し、左手の甲を見る。

 そこには痣ができていた。

 松岡に殴られてできた痣だ。

 

 痛み。

 

 だけど、こんな痛み。

 痛みですらない。

 先輩に比べれば。

「怪我したの?」

 痣の上にそっと手が乗せられた。

 いや、乗せられようとしていた。

 感知したのは視覚。

 うっすらと浮かぶ手。

「先輩?」

 

 

「痛い?」

 声。




 先輩が来ていた。


 そして、そう意識すると少しずつ全身が姿を現す。

 心配そうな表情。

「いや、大丈夫ですよ。それに」

「それに?」

「うまくやれましたし」

 僕は成功の報告をした。

 デジカメを取り出す。

 

 コンパクトだけが売りのモデルだ。

 

 

 

 その液晶画面に血塗られた男の像が結実する。



「こいつ……」


 喜びとも怒りともつかない表情。

 ただ、それが悲しみでないことだけはたしかだった。



「くくく。ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。ありがと。馨くん」


 その言葉に僕は満足した。


「少しはすっきりしました?」

 


「うん。いい気分だよ」


 

「あと三人。もう少しだけ待っててください」


 

「うん。だけど、馨くんって、何であたしにこんなによくしてくれるの?」


 

 無邪気な笑顔はそう言った。



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