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眠れぬ夜と灰色の朝。  作者: 阿月
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部誌。

 僕は教室を出て学食へと向かった。

 

 あの日、ヤツらのしっぽを手にしてから、とりあえず学校をサボるのはやめにした。

 事を起こし始めたとき、できるだけ目立ちたくなかったからだ。

 

 

 もっとも、学校へ来ても、みんな腫れ物を触るかのような扱いだった。

 たしかに、扱いにくいだろう。

 僕は気にせず放っておく。

 別に皆と遊びたいわけでもコミュニケーションを取りたいわけでもなかった。

 やることはただ一つだし、それに他人を巻き込むわけにはいかなかった。

 

 幸いなことに、うざい体育祭も終わってしまった。

 クラス全員の協調なんて言葉は聞かなくてすむ。

 あの日、僕がしっぽを掴んだ話をした時の先輩はとても嬉しそうだった。

 

 もちろん、犯人の素性がわかったわけでもないけど、とりあえず一歩前進したのはたしかだ。その表情で僕は落ち着くことができた。

 やたら焦っていた、あの日までの僕とは少し変化している。

 

 

 それはやはり、先輩がすぐそこにいるからだろう。もっとも、夜だけだけど。

「笹原ー」

 

 

 扉の近くで神崎、同じクラスのヤツが声をかけてきた。

 僕がそっちの方を見ると、見覚えのない上級生が一人、立っていた。

 お呼び出し、というヤツだ。

 逃げても仕方ないので、僕は素直にそちらへと向かう。

「笹原くんだね?」

「はい」

 

 やっぱり見覚えはない。誰だろう?

「僕は一応、文芸部の部長をしていた鈴原という者だけど」

 

 えっ? 正直、初めて見た。

「一応、君には伝えておかなくちゃ、と思ってね。文芸部は解散することになったんだ」

 

「解散……ですか」

 誰も出てきませんでしたからね。僕ら以外。

 

 胸の奥でそう毒づいてみるが、もっとも僕自身先輩のいない文芸部に興味はない。

「今週中に部室の整理をするから必要なものがあったら引き上げてね」

 鈴原部長は何となくつらそうな表情だ。

 

 まあ、たしかに僕と先輩のことを知っていて、なおかつ自分自身の素行も承知のうえでこんな宣言をするのはつらかろう。どうせなりたくてなった部長でもないのだろうし。

 そう思うと、ここでこの人に当たっても仕方ない、という思考に行き着いた。

「わかり……ました」

 僕は返事をした。

 

「とりあえず、今日から金曜までは部室は開けておくから」

「はい」

 ふと思い立った。

「あ、部長」

「何だい?」

「部誌の在庫ってどうなっちゃうんですか?」

 僕が初めて書いた小説が載ったあの部誌は多分部室の隅で埃を被っているはずだ。

 文芸部の部誌なんて、そう受け取るヤツもいないし。

 解散なら文化祭で配ることもない。

「欲しければ持っていってもいいよ。部員とか図書室とか、必要なとこには配ったし」

 言外に処分するんだ、と言ってるな。これは。

「わかりました。じゃ、段ボールごと持っていきますよ」

「いいよ。がんばってくれ」

 部長は笑った。




 段ボール一箱分の本というのは存外重たいものだと思い知った。

「うがー」

 自転車で家に持ってくるだけで疲労困憊。

 僕はよたよたと二階の部屋へと持ち込んだ。

 

 ドアを開けると先輩がテレビを見ていた。

 最近、僕は日没前後の時間にテレビがつくよう、タイマーをセットしてから出かけることにしている。

 何故か? 先輩の数少ない娯楽のためだ。

 先輩は何にも触れることはできない。

 本のページをめくることも、テレビのスイッチに触れることも。

 だから勝手にスイッチが入るようにしておく。

 そうすると、ぼけっとそれに見入っている先輩の姿が拝める、ということになる。


「お帰りー。あれ? 何持ってきたの?」

 先輩は僕の抱えた段ボールを見るなり、そう言った。

「先輩。文芸部、解散だそうです」

「文芸部?」

 先輩は首を傾げた。

「嫌ですよ。先輩。実質先輩一人で運営してたようなものじゃないですか」

「あ、あ、そうだったね。ふうん、解散したんだ」

 一度、死んだら物覚えとか悪くなるんだろうか。ホント。

「ええ。部長に初めて会いました」

「そっか」

「残った部誌、全部もらっちゃいました」

「それで段ボール一箱?」

「ええ」

 僕は一冊だけ取り出した。

「あら、カッコいい表紙ね」

 表紙を見て先輩がつぶやく。

 その、どうも他人事のようなコメントが引っ掛かった。

「パクリだって、知ってるじゃないですか」

「あ? あ、そうだったっけ。そかそか」

 にこりと笑う。

 僕は気が付いた。

 先輩はおそらく、覚えていない。

 この部誌のことを。ひょっとして僕が作っていたことも。

 何か、嫌な予感がした。

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