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眠れぬ夜と灰色の朝。  作者: 阿月
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もう一つの場所。

 フェンスに覆われた店舗跡。

 南京錠で門は閉じられている。

 そして一枚の紙が貼ってある。

「倒産しました」と素っ気なく太マジックで書かれている。

 その横には管理している法律事務所の名前と電話番号。


 けど。

 僕はひょっとして犯人はその鍵を持っている人物ではないかと考えた。

 別にこことは限らないけど、犯人はどこか自分自身が所有する、もしくは自分が自由に使うことのできる場所を持っていた。だから、「やりすぎて」しまった先輩の時はそこで隠すわけにもいかず、美術館裏へと動かしたのではないか、と。


 そういう意味ではこの「近藤法律事務所」という名前は第一容疑者みたいなものだ。

 もっともここが現場だとしたら、だ。

 一応、メモ代わりにデジカメで一枚写真を撮っておく。

 さて、とりあえず、忍び込んでみよう。

 一旦、隣の電気屋に自転車を置く。

 ひょっとして誰かに見られるかも、と思ったからだ。

 徒歩で裏へ回って、とりあえず潜りこめそうな場所を探す。

 フェンスの破れ目を見つけた。

 入れそうか……。

 僕はそこから潜り込んだ。



 たしかにそこは廃墟だった。

 使えるものはおおかた運び出されたのだろう。だだっ広い空間に埃を被ったプラスチックの空き箱やら何やらが散らばっている。

 その中に、ビールの空き缶やスナック菓子の袋が見える。

 ピザ屋の空き箱もだ。それも新しめの。

 当たりかもしれない。

 明らかにここを遊び場として使っていた連中がいる、ということだ。

 僕はゆっくりと見てまわる。元々、事務室なのか、それとも倉庫だったのか、いくつものドアがある。


 一つひとつ開けていく。

 一つはトイレ。

 もう一つはおそらく事務室か休憩室だったのだろう。椅子がいくつか残っている。

 が、その真ん中に。

 テーブルが一つ転がっている。奥にもう一つドア。

 開けてみる。

 そこにはベッドスプリングが一つ。

 それは片付けてある、というか壁に立て掛けてある。



 僕は中へ入った。

 ふと気が付いた。

 さっきの部屋もそうだったけど、ここには埃がたまっていない。

 周りを見回すとデッキブラシにバケツ。

 ひょっとして……、最近、そうじをしている……?

 間違いない。

 そうじをしている。

 たてかけてあるベッドスプリングを見る。



 赤黒い染み。

 ひょっとして、ここが……。

 見回す。



 ここが。

 思わず拳を握る。

 その時。

 声がした。

 心臓がはねる。

 あわてて部屋を出る。

 かすかに見える外には人影。

 僕は周囲を見回した。そして、そのままダッシュ。



 目に止まったのは、上に向かう階段。

 僕は急いでその階段を上がる。

 そして手近の窓から外をのぞく。

 門や入り口からは逆向きなので、奴らに見つかることはないはずだ。

 ゆっくりと、気づかれないようにのぞく。

 何とか車を見るためだ。

 おそらく、今日、証拠はなくなる。

 そのための作業をしに来たはずだ。

 僕は少しずつ、本当に少しずつ進む。

 下で何が起きているかはわからない。盗聴器でもあればな、とは思うけど時すでに遅し、というヤツだ。

 ポケットからデジカメを取り出す。

 三倍ズームしかできない、コンパクトだけが売りのモデルだ。

 

 僕は顔を出さずに、デジカメだけをそっと突き出す。

 小さな液晶モニターには一台の車と何人かの男。

 車は白いミニバン。ホンダのオデッセイというヤツっぽい。たしか、向かいの家のおじさんが嬉しそうに洗車していたのと同じ車だ。

 僕はできるだけ、男達の写真を撮ろうと何度もシャッターボタンを押す。

 

 そのうち、男達はあのベッドスプリングを引きずり出していた。

 そして、ポリタンクで何か液体をかけている。

 そうか。

 

 僕は理解した。あの液体は灯油か何かだ。そして、証拠を焼き尽くすつもりなんだろう。

 

 

 僕は陰に隠れて、ひたすら待った。

 黒々とした煙がたちこめる。

 幸いなことにそれは僕の姿を隠すのにも役だってくれそうだった。

 

 そう判断した僕は目一杯ズーム機能を使って、一人ずつの写真を撮った。

 やがて、奴らがいなくなる頃には、日は沈み、辺りは暗くなっていた。

 僕は奴らの車が遠ざかるのをじっと待った。

 奴らの車の向かった方向は美術館とは逆方向。

 そう。誘拐現場、犯行現場、死体遺棄現場は、奴らの生活領域から段々と遠くなっているということだ。

 少しずつ絞り込みができてきた、ということになる。

 僕は車が見えなくなるのを確認してからゆっくりと下へと降りた。

 下に残るのはきれいに掃除された部屋と黒い灰。

 さっさと逃げ出そう。僕はそう考えてフェンスの破れ目に向かう。

 

 ふと目に止まった。コンビニの袋やピザ屋の箱。

 ひょっとして……。

 大慌てでゴミを漁る。

 そして。

 

 

「ビンゴ!」

 僕は思わずつぶやいていた。

 手掛かり。

 それは一枚のレシート。

 ミニストップ一社駅前店と表示されている。

 

 今、車が向かった方向とも一致している。

 他にも……。

 そして、ピザ屋の箱につけられたドミノピザ上社店のレシートを破る。

 

 

 僕はその二つを大切にポケットにしまった。

 そして今度こそこの廃工場を抜け出す。

 僕は自転車を置いてある電気屋へと急いだ。

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