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眠れぬ夜と灰色の朝。  作者: 阿月
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整理。

 先輩の話を整理してみる。

 先輩を襲った奴等の人数は四人。

 

 本屋を出てしばらくの、少し寂れた通りでいきなり白いミニバンが止まった。

 そこから男たちが出てきて囲まれたとのことだった。

 乱暴され、そして殺されたのはどこかの廃墟みたいな場所だったらしい。

 

 

 美術館のある公園の記憶はないらしかった。

 と、するとだ。

 

 どこかで殺され、そして美術館で捨てられた、ということになる。

 

 

「ごめんね。ろくに覚えてなくて」 

 先輩がすまなそうに言う。


「いえ。僕こそ思い出したくないようなこと、喋らせて、すみません」

 

「ううん。いいの。だけど……本当に?」

「ええ。やります。どこまでやれるかわかりませんけど」


「……」

 無言。


 ただ視線だけが返ってくる。


「あ、あの先輩は心配しなくてもいいです。これは僕が決めたことなんで……。あ、一応危ないことはしないつもりです。それに伊達にたくさん本読んでいるわけでもなく、自殺に見せかけたりとか、僕はそういうことができる人間なんで、あの、あんまり心配とかしないでください」

 さっさと話題を変えよう。


 そう思って、地図を取り出す。

 父さんの車から持ち出したルートマップ。

「この辺ですよね」

 そう言って僕は地図の一部を指さした。

 そこは先輩の帰り道。

 そして、さらわれた場所。

 先輩がうなずいた。

 僕はそこに丸をつける。そして線を伸ばす。

 美術館。

 そこは決して近い場所ではない。

「廃墟っぽいところって言ってましたよね」

「ええ」

 

 廃墟。

 この周辺で廃墟をイメージさせる場所、というと。

 どこだろう。

 必死に記憶を検索する。

 前沢のお化け病院。老朽化が進んで人の住まなくなった市営住宅。

 

 そのくらいか。

 そう考えてあらためて美術館との位置関係を考える。

 両方とも、その中間にある。

 僕ならどうだ?

 

 

 女の子をさらう。

 そして遊ぶだけ遊んで……。

 そして殺す。



 犯行現場がどっちの廃墟なのかはわからない。

 だけど、そこへすんなり直行している、ということ。

 そして犯行後に美術館へ直行して捨てていること。

 どこか遠くから来て、いきなりの犯行、とは考えにくい。

 ある程度、土地勘みたいなものがあるはずだ。

 そうでなければ、こんなに転々と移動できない。

 少なくとも、廃墟から美術館に動かす意味が……、意味?

 そうだ。何故?

 何故、移動させられた?

 死体はそのままにしておくものではないか?

 家で殺したというのならともかく。

 そんなところで殺っておいて。

 廃墟?

 そこに何か意味があるのか?

 そこが。

 

 

 何か。

 

 明日、行ってみるか……。



「どうしたの? 怖い顔してるよ」

 先輩が声をかけてきた。

「いえ、何でもないです」

 返事をする。

 返事をしつつ僕の思考は犯人達の動きをシミュレートする。

 僕だったらどうする?

 どうする?

「ねぇ、馨くん」

 先輩の言葉に少し思考スピードを緩める。

「ごめんね。あたし、昼間はここにいることができないの」


 え?

 昼間?


「正確には太陽が出ているうちは、っていうかんじなんだけど」

「太陽……ですか」

 そう言われると、窓の外がもう充分明るくなっていることに気づく。

「そう。あたしだけなのか、幽霊という存在が、なのかよくわからないけど、今のあたしは昼間は存在できないのよ」

「眠っている……ということですか?」

「さあ? ここ何日か、ずっとそうだった。朝の太陽が上ってくるころ、急に意識が遠くなるの。で気が付くと夜になってる。その繰り返し」


 何だろう?


「理由は知らない。わからない。でも、気が付くと同じ所にいるから、きっと『ここ』にいるわ。また今夜も」


 先輩は笑った。

 それは昨日までと違う、安心感がもたらしたものだろうか?

 気づくと独り。

 常に独り。


 だけど、今は違う。僕がいる。


「馨くんの部屋なら、馨くんはきっといてくれるよね」

「はい。あ、でも風呂とかトイレにいきなり来るのは勘弁してくださいね」

「え? ふうん。おもしろそうよね。それも」

 そう言って笑う。

 冗談じゃない。いや、先輩は本当にやりかねない。

 何せ、僕が背が低くて華奢だという理由で、女装が似合いそうと決め付けて、自分の中学のころの制服をわざわざ持ってきて僕に着せたくらいだ。


 もっとも、僕の部屋に置きっ放しのそれは別の意味で僕の宝物になっているわけだが。

 いや、好きな人の着ていた服って、それがどんなものでも宝物だろう?

 決して僕が制服マニアってわけじゃないことは主張しておく。一応。

「じゃあ」

 先輩はにこりと笑った。

 そして。


 ゆっくりと消えた。

 窓から差し込む光に合わせて。




 さあ。やることができた。

 テンションが上がっているのか、眠気は吹き飛んでいた。

 

 だけど。

 父さんが言うように、体は作らなければいけない。

 寝ておかなきゃ。

 

 

 だけど、やっておかなきゃいけないことがある。 それは、武器の調達。

 机の横に立て掛けてある東京マルイ製のG36がどれだけ優秀でも、電動エアガンなんて何の役にも立たない。

 だから、それ以外の、本物の武器がいる。

 

 本棚にあるコンバットマガジンを引っ張り出す。

 普段は実銃やエアガンの記事にしか興味はないが、今日は違う。目当ては広告のページ。そこにはスタンガンや催涙スプレーの広告が並んでいる。

 その広告でいくつか当たりをつけ、PCを立ち上げホームページにアクセス。

 通販の申し込みをする。

 正直、僕は腕っぷしに自信なんてない。

 だからこそ、武器は手にしておきたかった。

 もっとも、一撃で人を殺せるための武器なんて手に入らない。

 僕はヤクザ屋さんとお友達なわけでもないし、ピストルボウガンなんて武器は売ってるけど、これだって一撃で殺せるわけじゃない。

 山の中でハンティングをするっていうならばともかく、現実に町の中では何の役にも立つまい。むしろ警官に職質されて一巻の終わり、というところだろう。

 だから、頭を使え。

 僕は自分自身にそう言い聞かせる。

 そう。非殺傷武器も使い方次第だ。

 ネットでオーダーした後、僕はものすごく疲れているという事実に気が付いた。

 ベッドに行かなきゃ。

 そう思いつつ、PCの電源を落とし、僕はそのまま机に突っ伏した。

 そのまま、意識を失った。

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