言の葉。
「あたし、死んだの。知ってる……よね」
「はい」
殺された、ということも。
そこはあえて黙る。けど、それに対して、先輩の方が触れてきた。
「多分、何があったかは知っているんだと思う。新聞とかにも載ってたし。あたしさ、殺されちゃった」
こっちを向かない。
視線を合わそうとしない。
「光が見えたの」
「光?」
その言葉とともに先輩は僕の方に向き直る。
どことなく透けて見えるのはやはり幽霊だからなんだろうか。
それとも。
悲しみで溶けてしまってたりするからなんだろうか。
「一瞬、いや一瞬だったのかどうかわからない。あたしの意識が一度、テレビの電源を切ったみたいに何もかもなくなって、気が付いたら遠くに光が見えた」
「そしてその光がこっちへ来いって言ってるのよ。あたしはそこに向かって歩いていったの」
死後の世界への入り口ってヤツか?
いわゆる河原だとか、お花畑とか言われるヤツ。
先輩の場合は暗闇の中の光だったわけか。
「だけど、行けなかったの。足が止まったの」
「どうして?」
「あいつらが許せなかったから」
……。
それは。
「あたしを……あたしをめちゃめちゃにしたあいつらが、平気な顔しているのが許せなかったのよ。そう思ったら光が遠くなった。どんどん遠くなった」
「そして気が付いたら、あたしは町の中、ぽつんと立っていた。あたしは全部夢だったんだと思ったわ。だけど、夢なんかじゃなかった。あたしは何にも触れることができなかった。誰もあたしのことが見えなかった」
新しい絶望。
孤独。
「同じ幽霊に出会ってもよさそうなのに、あたしは誰にも出会わなかった。誰も気づかないまま、あたしは町の中をさまよったの」
誰にも気づかれないまま、町をさまよう。
誰も振り向かない。
そこに存在するにも関わらず、そこにない。
それは孤独。
さぞかし、つらいことだろう。
「父さんや母さんの前にも出てみたわ。だけど、ダメだったわ。誰も気づかなかった。ただ一人、馨くんを除いては」
先輩が僕を見つめる。
安堵の表情。安らぎと……それと僕にはよくわからない何か。
何だろう? 胸騒ぎ?
「ありがとう。馨くん。馨くんが気づいてくれなければ、あたしはずうっと一人だった。ずっと」
先輩がまた泣いていた。
「あたしって……、どうしていつもこうなんだろうね……。ずっと独りぼっちで。学校でも馨くんに会うまで、ずっと独りぼっちで。死んでもずっと。馨くんだけなの。あたしのそばにいてくれるのは」
たしかに先輩には友達、という存在がほとんどいなかった。
時折、先輩の教室を覗くと、先輩は常に独りで本を読んでいた。
いじめというのとは違う。
そういうものじゃなかった。
ただ、不器用なだけだったんだと思う。
だって、僕と一緒の時は、よく喋り、よく笑っていたのだから。
「先輩」
僕はずっと考えていた「あること_」を告げることにした。
だけど、それは先輩にとって嫌なことなのかも知れない。
けど。
先輩もさっき言っていた。
「許せない」と。
だから。
「先輩。思い出したくないかもしれません。僕も先輩のつらいことなんか聞きたくありません」
「どうしたの? 馨くん」
僕の思い詰めた表情を気遣ってか、先輩が声をかけてくる。もちろん、瞳は涙で濡れている。
「だけど。聞かせてほしいんです。そして、僕は」
僕は一息ついた。
自分のために。
後戻りのきかない道へ踏み出すために。
「先輩を殺したヤツらを、全員……」
さっき言ってた。
「あいつら_」と。
だから犯人は複数。
警察に期待する気はなかった。
死刑になることなんてめったにない。
だから。
だから。
「僕が殺します」
僕は笑顔でできるだけさわやかに言った。
別に何でもないことのように。
先輩が変に気を遣わないように。
さりげなく、言った。
「馨くん……」
先輩がまた泣き始めた。
先輩の体に触れることのできない僕は、ただ眺めているだけしかなかった。
だけど。
昨日までの何もなかった僕に比べれば。
今の僕にはやるべきことができた。
それも先輩のために。
それは、確かな喜びだった。




